コロナ過で苦戦する外食チェーンは起死回生策として、持ち帰りや、宅配に強い、ファストフード業態の中でハンバーガーの新業態に参入しています。
最近ハンバーガーがブームで4つのチェーンが取り組んでいます、それらのハンバーガーやチキンハンバーガーをご紹介しました。しかし海外のトレンドをしっかりとらえきっていないので、これからハンバーガー業態に参入するかたに必要なファト・カジュアルという業態を研究した方が良いですね。詳しくご説明しましょう
https://www.sayko.co.jp/food104/post-2272/
日本マクドナルドは、2013年夏に発生した、中国におけるチキンナゲットの工場の杜撰な管理と,2014年になって日本の複数の店舗で発生した食品に異物混入の問題で極端な不振に陥りましたがやっと回復しましたね。同じ時期に世界最大規模の外食チェーンである米国本社も不振に陥っていました。
そのトップ企業のマクドナルドが苦しんでいる間隙を縫って米国・欧州・東南アジアなどから、外食企業が進出ラッシュでした。
米国ファストフード2位のYumブランド傘下のタコベル(メキシカン Taco Bell現在は世界に6000を超える店舗を持つ。)は「牛角」のエリアフランチャイズ運営や「とりでん」などを手がける外食企業のアスラポート・ダイニングと提携し渋谷に1号店を開店、その他合計3店ほどになっています。
西海岸で人気の大型ハンバーガーチェーンのカールス・ジュニアは他業界のミツウロコと提携し2015年夏に1号店開店しました。
また、スターバックスの日本側パートナーで,持ち株をスターバックスに全部売却し
1000億円ほどの巨額の資金を持つ超優良企業のサザビー・リーグ(ファッション企業)は、米国で上場し人気沸騰のニューヨークのグルメ・バーガーのシェイク・シャックと提携し2016年11月に開業しました。
セブンイレブンの100円コーヒーや、郊外型珈琲のコメダ珈琲などの郊外型珈琲店で人気が出ている珈琲業界では、サードウエイブのブルーボトルコーヒーがすでに2号店を開き大繁盛です。その人気を見てブルックリンのゴリラ珈琲など珈琲業態が続々と参入しつつあります。
高級なベーカリーやドーナツ、パンケーキ業態も外食中堅のWDIはニューヨークのブランドサラベスを女性の集まるエリアに展開し大人気です。
参入組は玉石混合ですが、大きな特徴は,タコベル以外はファスト・フードではなく,ファスト・カジュアルという業態であることです。タコベルはファスト・フードですが、ファスト・カジュアル的な健康的な料理を売り物に、不振のハンバーガー業態と比べ元気なのが特徴です。これから何回にわたって、日本であまりなじみのない、ファスト・カジュアル業態を説明しましょう。
米国ファスト・フード大手のマクドナルド・コーポレーションの最大の課題は、健康的な食材が売り物のファストカジュアルFast-casualチェーンの チポトリChipotle Mexican Grill(メキシコ料理)、UMAMI BURGER(西海岸のグルメバーガー)、ファイブ・ガイズFive Guy’s(全国展開のグルメバーガー)、Shake Shack,IN&OUT BURGER、Panera Bred、等との戦いです。それらのチェーンが提供する健康的な食品と格好の良い店舗イメージに負けていたのです。
当時もう一つの外食業界に大きな影響をもたらしたのがH.M.R.(HOME MAEL REPLACEMENNT 総菜)です。この言葉を作ったのが、BOSTON MARKETボストンマーケットです。シカゴ郊外のOAKBLOOKにある旧マクドナルド本社の従業員が多く住むNapervilleネイパービルに本社を構えました。 (Napervilleには日本マクドナルドの米国研修店を開いていました。)
https://www.bostonmarket.com/
BOSTON MARKETの創業者の一人は日本マクドナルドも合弁会社を作った,ビデオテープのレンタル会社Blockbusterブロックバスター創業者です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%90%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC_(%E4%BC%81%E6%A5%AD)
1990年代初頭に展開を始めました。米国では共稼ぎの主婦が多く、一食に使える時間は15分間と短いのです。そのためにボストンマーケットはローティサリーチキンという鳥の丸焼きと新鮮なサラダ、調理済みの温野菜(手作りのマッシュポテトが大人気だ)、家庭で焼くコーンブレッドを武器に急成長を遂げたのです。このボストンマーケットが作り出した言葉がHMR ホームミールリプレイスメント つまり、家庭の食事代行・総菜と言う言葉です。
そこにすい星のごとく出現したのが eatzis イーチーズ です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%90%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC_(%E4%BC%81%E6%A5%AD)
最初のうちはボストンマーケットの斬新さに人々は群がったのですが、よく考えてみるとボストンマーケットにはプロの調理人がいません。まるでファーストフードのようにアルバイトが調理しています。よく考えると従来の食品スーパーと同じではないかとです。
そこで天才イタリア人シェフ経営者のフィル・ロマーノ氏がイーチーズと言う超繁盛のお総菜屋を作り上げたのです。フィルロマーノ氏は外食の天才と言われ、グルメハンバーガーチェーンであるファドラカーズやマカロニグリルなどの数多くの繁盛チェーンを創業しています。
フィル・ロマーノは世界中のお総菜売り場を回り、従来の総菜売り場の欠点とその改善策を見いだしました。一番の欠点は効率を重んじる食品スーパーの総菜売り場はきちんとした売り場ではあるが、客を興奮させないと言うことでした。しかもその場所で調理をしていないのではないか?セントラルキッチンで造り冷凍で運んでいるのではないか?アルバイトが調理をしているのではないか?という不信感を感じさせると言うことです。
そこで
1)客に興奮させる店造り
店の入り口を入ると左右に大型のベーカリーオーブンと、ホテルの調理場にあるような本格的なキッチンが広がっている。つまり、客は大型のホテルの厨房に迷い込んだような印象を受ける。キッチンは左右だけでなく店内の壁面はほとんど調理場となっている。
入り口の大型キッチンにはホテルで使っているのと同様の大型のスチームケトルでソースやスープをすべて手作りで作っている。ボストンマーケットで大人気のローティサリ-チキンも生の鳥の段階から処理をしている。
そして入り口から中に入ると中心にはできたての総菜を並べた巨大なショーケースがあたかもレストランのディシャップテーブルのようにところ狭しと並んでいる。思わず衝動買いをしてしまう。
2)調理人が調理する
総菜というと調理済みの食材を売っていると思いがちだが、イーチーズではすべて原材料から店舗で作るようにしている。そして従業員のほとんどが調理学校を出た調理人です。つまりプロのコックが料理をしているのです。そしてそれぞれのコックは客の質問に的確に答えられるようになっています。客は安心して買えるわけです。
3)注文により本格的な料理を作り上げる
客の要望は色々ある。時間がない人はできあがった調理済みのお弁当やサンドイッチ、寿司を(米国では巻きずしが人気です。寿司がない店は高級食品スーパーと見なされない位です)多くの客は買って帰るのですが、時間が十分にあり好きな料理を食べたいという人の為に、サンドイッチ、サラダ、ホットデリのイートインコーナーが用意されている。
サンドイッチの場合、まず、どんなパンを使うか指定します。一般的な白いパン、白目のライ麦パン、黒いライ麦パン、ソフトロール、ハードロール、等6種類ほどのパンを選定します。次に中に入れるコンディメントです。ケチャップ、マスタード、マヨネーズなど幾種類もそろっており、好きな種類を指定します。サンドイッチコーナーに無い具材でも、魚や生ハムのコーナーに行って持ってきてくれます。そして、好きなチーズ、ピクルスと野菜を指定します。時間はかかるが自分の好みのサンドイッチを作ってくれるわけです。サンドイッチは日本で言うと高級の寿司屋です。お好みの調理をしてくれる高級な食事になるわけです。サラダも同様に、入れる野菜からドレッシング、トッピングを選定できます。
圧巻がホットデリコーナーです。ここでは大型の薪釜と薪のローティサリーオーブンが赤々と燃えています。中央のショーケースにはステーキやローストなどの生の肉を置いてあります。それを買ってこのコーナーでお好みのステーキに焼き上げてもらうのです。チキンの好きな客は一羽毎でも、1/2でも好きなだけカットしてくれ、マッシュポテトや温野菜を付け合わせてくれます。流行りの料理テックスメックス系の熱々のベイビーバックリブも楽しめるし、ピザが好きな人は目の前でドウにトッピングをして焼き上げてくれるのです。高級イタリア料理店であるような本格的な薪釜で焼き上げるのです。
4)パン、デザートを目の前で焼き上げる
ベーカリーでは冷凍生地から作るのではなく、粉から練って発酵させ手で整形しています。米国は人件費が高くインストアーベーカリーの店舗は大変少ないのです。そこでイーチーズでは冷凍生地を使わず粉からこねているところを見せて価値観を出しています。店舗に入った客はベーカリーコーナーから立ちこめる焼きたてのパンの香りと、美味しそうな手作りのケーキやペイストリーに思わず見とれ帰りには買って帰らざるを得なくなるのです。
5)最高のワイン、チーズ、ハム類を集める
従来の食品スーパーは客単価を気にして高級なワインの品揃えが弱かったが、イーチーズではレストランに置いているような高級なワインの品揃えをして、舌の肥えた客の要望に応えるようにしたのです。
フィル・ロマーノはニューヨークのデリを研究し、総菜として高級な生ハム、チーズ類は必要不可欠なことを感じました。そこで、サンドイッチコーナーの横に独立したコーナーとして生ハムとチーズのコーナーを設けたのです。
日本の食品スーパーの優劣を判断するのは新鮮な魚介類、特に刺身の鮮度、そして、高級な手作りのお新香、お漬け物をどの位そろえているかです。魚の鮮度で仕入れの能力がわかるし、漬け物で材料加工に対するこだわり(どれだけ添加物のない食材や産地にこだわっているか)がわかります。
米国の生ハム類は日本人にとって鮮魚と同様の位置づけで、その店の格が決まってきます。チーズは食後に食べる口直しであり日本のお漬け物と同じで色々な味が必要です。主菜の肉がいくら良くてもこの生ハムとチーズの鮮度が低いと台無しになるわけです。
6)小さいけれどワンストップショッピングが可能
食品スーパーのように巨大な店舗だと買い回るのに疲れるのですが、イーチーズでは晩ご飯だけでなく、翌日の朝食に必要なパン、フルーツ、乳製品を取りそろえて顧客の便宜を図っています。
イーチーズはダラス、ヒューストン、アトランタ、などに3店舗開店し、1店舗8ー10億円と言う巨額な売り上げを誇って世界中の注目を浴びました。日本からもダラスなどのイーチーズ詣が盛んでした。私も各店を訪ねました。オリジン東秀のお弁当・総菜屋はイーチーズを見学して閃いて開発したのです。
このイーチーズの前にフィル・ロマーノ氏が1982年に開業した、高級ハンバーガーチェーンの「ファドラッカース(Fuddruckers)」も外食業界に大きな影響を与えました。
(http://www.fuddruckers.com/)。
マクドナルドやバーガーキングなどのハンバーガーチェーンは、冷凍の食材を使い調理工程を見せないため、消費者は「冷凍食品を電子レンジで温めているだけではないか」という不信感を抱いています。そこでファドラッカースは、店内にオープンキッチンを設けて肉や野菜の処理・加工工程を見せ、さらにベーカリーまで設置し、素材感の訴求によって大人気を得たのです。マクドナルドも注目しており、1800年代後半に何回も訪問させられました。
消費者が持つファストフードに対する不健康なイメージを打破するため、ファスト・カジュアル業態では食品添加物や動物性油脂、冷凍食品、調理済み食品をなるべく使わず、またそのことを顧客に大々的にアピールするのです。
サービス面でも、ファストフード店は「作り置きの商品を素早く提供するために、冷凍食品をアルバイトが電子レンジでチンしているだけ」と思われがちです。そこで、ファスト・カジュアル業態は「セミセルフサービス」方式をとります。客は商品を注文してお金を払ってから客席に座り、料理は後から運ばれます。注文の後にオープンキッチンで作り始めることにより、出来たて感をアピールするのです。
ファドラッカースのメニューはマクドナルドなどに比べて大人向けで、客単価も6ドルー10ドルと倍近いのです。さらに、ファストフードとの決定的な違いが、ワインやビールなどの軽いアルコールを提供しているということです。その後米国のファスト・カジュアル業態は、ハンバーガーだけでなくベーカリーカフェ、スープサラダ、イタリアン、アジアン、メキシカン、HMR(惣菜)など様々なスタイルに発展していったのです。
もうひとつ、ファスト・カジュアルの店舗がこだわるのは「見た目」です。「不健康でダサい」というイメージが強いファストフードの店舗と差別化するため、店舗の外観や大看板を工夫したのです。当時のマクドナルドなどは、とにかく目立つように、赤や黄色の原色のプラスチックの看板に内部から明るい光を当てる「行灯方式」でした。それが一層不健康なイメージを強めるとして、ファスト・カジュアルではプラスチックの行灯や原色を使わないようにしたのです。内外装デザインも、木材を多用した、落ち着きのある洒落たデザインを採用しています。
そして、見落としてはならないのが食材の違いです。ファスト・カジュアルでは、生の食材を店舗内で客に見えるようにして加工調理します。しかも、できるだけ新鮮な野菜を多用するのです。
ファスト・カジュアルの店を起点として、2000年前後に米国で流行ったのが、最近日本でも普及している「低炭水化物ダイエット(アトキンスダイエットやロカボとも呼ばれる)」です。当時のLAで大人気だったハンバーガーチェーン「IN&OUT」の裏メニュー「プロテイン」と呼ばれるハンバーガーは、炭水化物であるバンズを使用せず、レタスの葉で肉を包んで提供します。ちなみに緑モスの「菜摘」として定番で提供されているのはこれにヒントを受けて開発したのです。
それらの動向を注意深く観察していたのが、米国マクドナルドです。米国マクドナルドが特に注目していたのが、ボストンマーケットです。マクドナルドは昼食が強く、その後1980年代に朝食を売り出し大成功しました。しかしディナー帯が弱かったのです。米国人のディナーはコンフォート フード(CONFORT FOOD)です。直訳すると、快適な食事ですが、食べると懐かしくほっとする味、つまりおふくろの味です。ボストンマーケットで主力のメニュー、鳥の丸焼きや、ミートローフ、ポットローストビーフ、付け合わせの蒸し野菜、自家製のパンコーンブレッド、がそれにあたります。ボストンマーケットの人気ぶりにマクドナルドはシカゴでひそかにHarth Express というイタリアンデザインの Grill店を1990年代にに開店させました。Harthというのは日本の備長炭のように火力の強い炭です。その炭を使ったオーブンで、イタリアパンを焼いたり、鳥の丸焼きなどのボストンマーケット類似のメニューをテスト販売していました。1年ほどで閉店してしまいましたが、店舗デザインや、メニュー開発の完成度の高さに驚きました。私はシカゴのマクドナルド本社の開発部の実態を知っており、だれがあんな完成度の高い店を考案したのか疑問でした。その後、ダラスのイーチーズ訪問後、レストランショーで、総菜に強いコンサルタントに出会い、その秘密を知ることができました。
https://www.supermarketnews.com/archive/hearth-express-closed
当時マクドナルドは空港や商業施設内の小型店舗の展開を始めており、そのデザインを開発したのがテキサスに本社のある、Design Forum という会社でした。後にブランド調査会社最大手のinterbrandに買収されました。
https://www.interbrand.com/
https://www.interbrandjapan.com/ja/work/index/alphabet
DESIGN FORRUM は単に店舗デザインするだけでなく、コンセプト提案から、メニュー提案に基づいて店舗設計をするのです。外食ばかりでなく、自動車のMINIの店舗イメージ作りなどもしていました。
緑MOS
https://www.mos.jp/
王記事
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/54076?page=1
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/54076?page=2
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/54076?page=3
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/54076?page=4
ファスト・カジュアルとはモスバーガーが1988年前後から先行し、強みとしてきた手法です。1971年創業の日本マクドナルドとほぼ同時期、1972年に創業したモスバーガーは、1980年代にはマクドナルドに迫る勢いで急成長を遂げました。
もともと、モスバーガーの出店戦略は、銀座などの「一等地」に出店するマクドナルドとの差別化を図り、商店街でも駅から遠いエリアや、住宅地との境界などに出店する「二等地」戦略でした。1980年代後半には、テリヤキチキンバーガー、ホットドッグ、モスライスバーガー、ロースカツバーガーなどの独特な「和風メニュー」を発売し、これがヒットとなりました。力をつけたモスバーガーは、やがてマクドナルドと直接バッティングする大型店も都心に開業するようになったのです。
しかし、好調だったモスバーガーは、創業者である桜田慧(さとし)社長が1997年、60歳の若さでスキャンダラスな急死を遂げたことで暗転に見舞われます。
桜田氏の後を継いだのは、叩き上げでフランチャイジーを経験したあるベテラン社員でしたが、創業家が反対し、1年もたたない間に社長が交代、会社の方針が定まらない状態に陥ったのです。
創業者の桜田慧氏が急死する前後から、モスバーガーの経営幹部は根本的な戦略の見直しに頭を悩ませていたのです。
当時、モスバーガーの強みは、(1)日本人向けの味付けの商品、(2)コストの安い二等地への出店、(3)独特のフランチャイズシステムの3つでした。
しかし、急成長を経験した1980年代後半に「迷い」が生じ、マクドナルドの一等地戦略を真似たりし始めたのです。さらにメニューの面でも、調理時間を短縮するために高速でミートパティを焼き上げられるクラムシェルグリル(マクドナルドで使用しているのと同タイプ)導入や、「日本人の好みに合う」という理由で使っていた牛豚の合い挽き肉を、マクドナルドと同じ牛100%に変更するなど、マクドナルドを後追いするかのような試行錯誤を行ったのです。
だが、フランチャイジーの多いモスバーガーは、1980年代後半から低価格戦略を本格化させたマクドナルドに対抗できるほどには低価格にシフトすることができず、1990年代を不振の中で過ごしていました.
モスバーガーという企業は日本生まれですが、その原点は米国ロサンゼルスの老舗ハンバーガーチェーン「トミーズ」の日本化です。
https://originaltommys.com/
創業者の桜田慧氏は、証券会社勤務時代に米国LAに駐在した際、たまたまトミーズを訪れ、ミートソースをたっぷり使ったジューシーなハンバーガーに出会いました。桜田氏はそのトミーズのハンバーガーを日本人に合う味に変更し、パティも日本人の好きな牛豚の合挽き肉にすることで、人気商品を誕生させたのです。そうした経緯もあって、モスバーガーは米国のハンバーガー業界をいつも念入りにウォッチしていたのです。
その中でモスバーガーが注目したのが、1998年頃から米国の飲食業界で急成長を遂げた「ファスト・カジュアル」という業態でした(当時、まだその言葉は誕生していなかったのですが)。
新しいコンセプトを考えていたモスバーガーから依頼があり、Design Forumを紹介しました。彼らはすぐに来日し、ファッドラッカーズやイーチーズのようなトレンドの説明からコンセプト作りを始めました。まず彼らが提案したのは店舗外観や看板でした。赤に白字のプラスチック行燈看板は安っぽいファストフードのイメージなので、緑を使ったネオン看板を提案してきました。またキッチンはよりオープンにして顧客に手作り感を感じさせるようにしました。キッチンデザインに関しては私が担当し、テストキッチンを作り上げ、組み立てしました。メニューのハンバーガーのパティやバンズを店舗で焼くのは難しいので、丸ごとのレタスやトマト、玉ねぎを店舗でカットしていることを訴求するため。入口に野菜冷蔵庫を置くようにしました。客席のデザインに野菜のイラストを使いナチュラル感を強調しました。この実験店は三軒茶屋で開店し、1年ほどテストし、やがて、緑モスに進化します。
桜田慧社長が亡くなる以前から、モスバーガーは丸ごとのレタスや玉ねぎを店舗でカットする方式を採用していました。 マクドナルドでは、生産性向上のために、ビッグマックなどで使うレタスは工場で刻んで店舗に配送し、季節によっては国産ではなく海外から輸入したものになっています。刻みオニオンも、乾燥玉ねぎを水で戻しているだけです。
調理に手間をかけ、その様子を客に見せる。このファスト・カジュアルの発想は、まさしくモスにマッチしているのではないか。そう考えたモスバーガーの経営陣は、上述のように1998年に新デザインの看板と内装を備えた店舗を三軒茶屋でテスト開業したのです。手作り感のある緑色の看板と、野菜を強調した商品ビジュアルから、後年「緑モス」と呼ばれるようになったタイプの店舗です。
このテスト店舗の快調により、モスバーガーは「緑モス」を2000年前後から大々的に展開していったのです。目玉商品は、大型のミートパティをバンズでなくレタスの葉で巻いた高額のハンバーガー「匠味レタス」です。前述したように、当時米国で大人気だったロカボメニューをいち早く取り入れたのです。さらに「緑モス」の好調は、フランチャイジーに古臭くなった店舗を改装させる格好の動機にもなったのです。
https://www.mos.co.jp/company/pr_pdf/pr_040120.pdf
ファスト・カジュアルの店を起点として、2000年前後に米国で流行ったのが、最近日本でも普及している「低炭水化物ダイエット(アトキンスダイエットやロカボとも呼ばれる)」です。当時のLAで大人気だったハンバーガーチェーン「IN&OUT」の裏メニュー「プロテイン」と呼ばれるハンバーガーは、炭水化物であるバンズを使用せず、レタスの葉で肉を包んで提供していました。これを見たモスバーガーが「巧レタス」として採用したわけです。現在の「菜摘」に繋がっています。
この「緑モス」への転換が契機となり、モスバーガーは業績を大きく伸ばしただけでなく、ハンバーガー業界で確固たる地位を築くことにも成功しました。決して業界トップを獲りに行くわけではないが、いわば「永遠の二番手」ともいうべき独特の立ち位置を確立した同社のその後は、皆さんもご存知の通りでしょう。
続く