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王 利彰のFood104 Magagine 連載
「マクドナルド 調理機器技術50年史」 <前編>



王 利彰のメルマガ Weekly Food104 Magagine
「マクドナルド 調理機器技術50年史」より
アメリカの調理機器の専門雑誌「Food Service Equipment Reports」で、
マクドナルド50周年を記念して、「調理機器開発の歴史」(筆者:Mike Sherer with Brian
が公表されました。
この資料は、その内容に王利彰が注釈をつけて、
メルマガとして公開されていたものをまとめたものです。
ここにまとめた以外にも下記アドレスにて、フードビジネスに関する情報がご覧いただけます。
http://www.food104.com/bn/index.html
http://www.food104.com/


■王 利彰略歴


1947年 3月 東京都に生まれる
1969年 3月 立教大学法学部卒業
1969年 4月 父親の経営する飲食業に入社
1971年 2月 レストラン西武入社、日本ダンキンドーナツの設立に参加
1973年 1月 日本マクドナルド社入社
店舗勤務経験後、スーパーバイザー、ハンバーガー大学プロフェッサー、統括スーパーバイザー、米国駐在統括責任者、運営部長,フランチャイズフィールドサービスマネージャー、を歴任後、本社にて運営統括部長、海外運営部長、機器開発部長を兼任し、後に、事業開発担当部長、機器開発部長を歴任
1992年 4月 退職
1992年 7月   コンサルタント会社 有限会社 清 晃 を設立、
代表取締役に就任 現在に至る。

王利彰のマクドナルドでの仕事等
http://www.sayko.co.jp/company/work.html
*興味がある方は、上記アドレスにアクセスしてください


■1955年 マルチミキサー (Multimixer)
プリンス・キャッスル社を経営するアール・プリンス氏により、一つのモーターで5つのスピンドルを回転させるシェイク用のアイスクリームミキサーが開発されました。
このミキサーがマクドナルドを創業したマクドナルド兄弟とマクドナルドコーポレーションを創業したレイ・クロック氏の出会いを実現しました。

そのミキサーは革新的でした。
通常は一つのモーターで一つのスピンドルを回転させるのですが、このミキサーは一つのモーターで5本のスピンドルを回転させ、一度に5カップのシェイクを作ることが出来たのです。
通常のアイスクリーム店はこの機械を1台か2台購入して使用していました。
しかし、カリフォルニアで経営しているマクドナルド兄弟のハンバーガーショップは何と8台ものミキサーを使っているのです。

なぜそんな台数が必要なのかと興味をもった、プリンス・キャッスル社の販売担当のレイ・クロック氏がマクドナルド兄弟の店舗を見に行きました。
そして、クロック氏はカウンターだけのドライブインハンバーガー店舗の売上げの凄さと効率の高さに感銘し、フランチャイジーになり、後にマクドナルド兄弟から全ての権利を買い取り、自らマクドナルドコーポレーションを創業し、シカゴに1号店を開店したのです。

1号店は現在では博物館として当時のままの姿に復元公開されています

マルチミキサーが、クロック氏がマクドナルドを知るきっかけになったと言う歴史を証明する施設があります。シカゴ郊外のオークブルックにあるマクドナルド本社横のハンバーガー大学ロビーには、当時のクロック氏のオフィスを再現しており、その横には金メッキしたマルチミキサーが燦然と輝いているのです。


■1965年 フレンチフライ・バキング・スクープ
(French Fry Bagging Scoop)
マクドナルドは、創業から10年の間に700店舗を開店すると言う急成長を遂げましたが、フレンチフライ(マックフライ)はハンバーガーの単なるサイドメニューではなく、代表的なメニューの一つだったのです。
大人気の商品を大量に製造するためには生産性が高く、かつ品質が安定しなくてはいけません。
フレンチフライは約70gの揚げたポテトを紙袋に入れるのですが、それを素早く正確に行うには効率の良い器具が必要だったのです。
マクドナルドの機器開発部のラルフ・ワイマー氏は、機器メーカーのプリンス・キャッスル社と共同で、フンチフライを素早く、正確に、見栄えよく、紙袋に詰めることができるバギングスクープを開発しました。
アルミニウムを扇状に丸めて紙袋に差込み、バギングステーションにある揚げたフレンチフライを一掬いし、左右に軽く振りながら垂直に立て上げると、紙袋に約70gのフレンチフライが垂直に立った状態で入ります。
素早く袋詰めしても、デリケートなカリカリのフレンチフライが折れることもありませんし、正確な量を安定してお客様に提供できます。
アルバイトでも何回かの練習でその作業が可能になりました。


■1972年 エッグマックマフィンの玉子焼きリング
(Egg McMuffin Ring)
1971年、カリフォルニア州サンタバーバラのフランチャイジーであったハーブ・ピーターソン氏は、従来は10時半の開店であったお店に、朝食用のサンドイッチを導入することを考えつきました。
それがエッグマックマフィンと言う、マフィンに目玉焼きとハムをはさんだホットサンドイッチで、大ヒット商品となりました。

通常の目玉焼きはフライパンで焼くのですが、マクドナルドにはフライパンがなく、ハンバーガー用のグリドルしかありません。
グリドルで卵を焼くと、蓋をすることが出来ないので時間がかかるし、卵の大きさがマフィンより大きくなってしまうと言う欠点がありました。
また、目玉焼きを安定して焼くのは難しいのです。

マクドナルド社のエンジニアは、どうやればアルバイトでも安定した玉子焼きを作れるのか考えました。
そこで、円形のアルミニウム製の目玉焼きリングを作り、卵がくっつかないようにテフロンコーティングをしました。
ラルフ・ワイマー氏はまたもこの開発の指揮を執り、通常はハンバーガーを焼くグリドルにその特製玉子焼きリングと蓋を使用して安定して玉子焼きを焼けるようにしました。

一個用の玉子焼きリングは1972年に開発され、6個焼きのリングはその数年後に開発されました。
後に、さらに高速に焼き上げるために蒸気を発生させる特製のエッグクッカーをアンテューネス社と共同開発したのです。


■1975年 ダイレクト・ドロー・ミルクシェイク・マシン
(Direct-Draw Milkshake Machine)
マクドナルドの歴史を振り返ってみると、サービス時間の短縮と生産性を向上させるために、調理機器の自動化に積極的に取組んできました。最初に調理の自動化を目指したのは、マクドナルドの主力商品の一つであるミルクシェイク(マックシェク)です。

当時のマックシェイクの作り方を見てみましょう。
まず、カップにチョコレートやバニラ、ストロベリーなどのシロップを定量に注ぐことが出来るシロップポンプでカップに入れます。
そのカップにシェイクミックスを定量入れます。
シェイクマシンとは液体のシェイクミックスをアイスクリーム状に作り上げるシェイクマシン(ソフトクリーム製造機に似た形状)です。
その、シロップと凍ったシェイクミックスを飲みやすくするために、マルチミキサーで攪拌するのです。
繁忙時には5名のアルバイトが付きっ切りで作業しなければなりませんし、攪拌するのに時間がかかります。そこで、シロップポンプとシェイクマシン、マルチミキサーの3つの作業を一つの機械で行えるように開発を行ったのです。

マクドナルドの機器開発部からはジム・コヒー(Jim Coffe)とテッド・カオルスキー(Ted Kolowski)が担当し、アイスクリームなどの製造メーカーのテーラーフリーザー社と共同で開発を行いました。
しかし、もう一つの問題が残っていました。
それは、機械を毎日1時間半かけて、分解と洗浄殺菌作業を行わなくてはいけないということです。
そこでさらに開発を進め、1994年には一体型シェイクマシンに自動の殺菌冷却機能をつけ、分解清掃を週に1回で済むようにしました。
その結果、お客様へのシェイクの提供時間を短縮し、人件費を節約し、分解清掃の際の高価なシェイクの廃棄をなくし、食材コストを低減出来ると言う大きなメリットを生んだのです。

○フードサービスエクイップメントHP:http://www.fermag.com/shr/v9i11_sr_mcdonalds.htm

■1975年ドライブスルー (Drive-Through Window)

マクドナルドは、創業時から素早いサービスがモットーです。
創業しばらくすると西海岸でジャックインザボックスなどがドライブスルー店舗を開発を始めました。
2代目社長のフレッド・ターナー氏は自動車社会の成熟を見てドライブスルーの開発を決意しました。
最初は既存の店舗の改造でドライブスルーを追加しました。
そのため、ドライブスルーウインドーにコンベアーで料理を運ぶなどの工夫が必要でした。
しかし、研究の結果、独自のドライブスルーシステムを開発しました。
1984年にアリゾナ州のシエラ・ビスタでマクドナルド社とHME社(音響システムの会社)が共同でワイヤレスコミュニケーションシステムを開発し、店舗で使用を開始したのです。


■1983 厨房用給排気システム研究所
(Commercial Kitchen Ventilation Lab)

1970年代半ばのエネルギー危機の際に、機器開発部在籍の給排気空調設備HVAC専門家ジョー・ナップ氏(Joe Knapp)は素早く対応を開始しました。
ナップ氏に与えられた課題は厨房の排気風量を削減することで、外部からの新鮮空気の供給を最小限度にして、空調負荷を下げることでした。
厨房内で使用する調理機器の燃焼済みのガスを排気するには、燃焼ガス量の数十倍の空気を排気しなくてはいけません。
その分の新鮮空気を外部から厨房内に導入すると、その空気を冷暖房するために膨大なエネルギーが必要なのです

そこでナップ氏は、転職前の職場である空調機器会社のエアー・ディストリビューション・アソシエイツ社(Air Distribution Associates)とマクドナルド社を説得し、両社で給排気空調システムの研究所を設立させることにしました。
ウッドデールに設立した研究所は密閉した空間で給排気量を精密に計測できるようになっています。
その研究所でマクドナルドの特別デザインの排気フードや調理機器ラインの研究を行い、エネルギー使用量を大幅に削減することに成功しました。
マクドナルド社はその研究成果を業界に公開し、最終的にはその研究所をArchitectural Energy Corp.とFisher-Nickel,Incに売却しました。
その研究所の顧客はチェーンレストラン、給排気設備製造業、エンジニアリング会社、省エネルギー設備会社などとなっています。
私はこの頃ジョー・ナップ氏の研究所によく見学に行きました。
密閉したテストキッチンにはマクドナルドと同じサイズの厨房を再現し、グリドル、フライヤーなどのガス機器は全て使えるようになっています。
そして、給排気の状態を見る実験をします。
グリルやフライヤーから出る排気とベーパー(油分や水蒸気)を効率よく排気しているかを見るために、あるガスで細かい泡を作り、グリルやフライヤーの上に吹きかけます。
その細かい泡がどのように吸い込まれていくか、フードからはみ出てしまうのかを観察するために、厨房内部の電気照明を全て消し真っ暗にします。
そして、ブラックライトを当てると細かい泡の動きが見えてくるのです。

そして、飛行機の設計と同じく、空気がスムーズに流れるように排気フードの形状を変更したり、ダクトフィルターの形状を変更すると言う気の長い作業を延々と繰り返します。
ナップ氏は大変親切な方で、東洋から来た男にも丁寧に説明をしてくれたのです。
そして、NAFEM北米厨房工業会展示会において氏は厨房給排気の勉強会の座長を務め啓蒙活動をしておりました。

日本ではこのような地道な活動がなされていないので、米国に比べると30年以上遅れているのです。
そこで、今年4月から有志で最適厨房研究会を立ち上げ、まず、調理場の基礎的な給排気システムの研究を開始することにしたのです。

http://www.saitekichubo.com/

あー、日本にもナップ氏のような人がほしいな。


■1986年 クラムシェルグリル
(Two-Sided Griddle)

サービス提供時間を短縮するために、1980年代の初期に機器開発部は新しい調理システムの開発、特にハンバーガーの、ミートパティの焼成時間の短縮に取組むことにしました。
機器開発部のトム・エドワード氏(Tom Ewald worked)は、最初にマクドナルドで使用していたガスグリルの製造メーカーであるウオル・フレンジ社(Wolf Range)と調理時間の短縮と安定した品質を実現するグリドルの開発をすることにしました。
その後、テイラー社(Taylor Company)とガーランド社(Garland Range)がその開発に加わり、色々な開発を実施し、その結果1985年に、従来のグリドルと同じ床面積の上下の鉄板で加熱調理するクラムシェルグリルを開発することに成功しました。
しかし皮肉なことにラング社(Lang Mfg)が後にグリルとブロイラーを組み合わせた調理機器を開発し、クラムシェル"Clamshell"と言う名称で商標登録をしたので、マクドナルド社は対外的にクラムシェルグリルの名称を使用することは出来なくなりましたが、社内では未だにクラムシェルグリルと呼んでいます。

筆者はクラムシェルグリルには当初から開発に加わっていました。
その当時の内緒のお話をしましょう。
米国マクドナルド創業時に機器開発部の陣頭指揮を執っていたのは、ジム・シンドラーと言うボヘミアン(東欧のボヘミア地方の出身で芸術的な才能が有る人が多い)でした。
創業者のレイ・クロック氏もボヘミアンで同郷のシンドラー氏は技術面の腹心の部下でした。
芸術家の氏は調理機器の設計だけではなく店舗の内外装や有名なMマーク(ゴールデンアーチ)の設計もしていました。
マクドナルドオリジナルの厨房は、マクドナルド兄弟がテニスコートにレイアウトの線を引いて検討して作ったものですが、通常のコーヒーショップのグリドルを引っ繰り返したのが特徴で、急激な売上げの伸びを示す当時のマクドナルド店舗では作業導線の交差の問題を抱えていました。

当時の競合(現在でも第2位のハンバーガーチェーン)のバーガーキング社は自動調理器のブロイラーと作業導線が交差しないレイアウトで高い生産性とスピードサービスを実現していました。
その優れたブロイラーを大変気に入ったシンドラー氏は、その製造メーカーのNIECO社にマクドナルド向けの自動調理器を作らせることにしました。
バーガーキング社のハンバーガーパティを焼き上げるブロイラーはグリルではなく、直火で上下からパティを焼き上げる形式でした。
そこで、シンドラー氏はハンバーガーの大きさの小さな2枚の鉄板にパティを挟んで焼き上げることを考案しました。
小さな鉄板は自動で上下に動き、コンベアーで冷凍のパティが送られ、サンドイッチにされて焼き上がります。

今回の米国ニュースでシカゴのウッド・フィールド・ショッピングモールが紹介されていますが、その店舗で何回も実験をし、私も深夜まで立ち会ったことが昨日のように思い出されます。
さて、この自動調理機器は大成功だったのですが、値段が当時で2,000万円と従来の厨房全体のコストと同じくらい高かったのです。
もう一つの問題は、当時スタートした朝食の卵料理を調理することが出来なかったのです。
従来のグリドルは温度を下げれば卵料理が簡単に作ることが出来るのですが、自動調理機器はそれが出来ないし、他の調理機器を入れるスペースもありません。
と言うことで、自動調理機器をあきらめたのですが、その調理方法が後のクラムシェルにつながっているのです。
私もシンドラー氏に命じられて日本でちょっと風変わりな自動調理機器を作らされましたが、特許は取れたものの物になりませんでした。
しかし、その過程で高精度の温度計や、簡単なグリドルの清掃方法を開発しました。先端技術というのはそれ自体が成功しなくても色々な派生技術を入手することが出来るという勉強でした。いい思い出です。


■1994年 フライ・ディスペンサーのロボット化
アーチディスペンサー(ARCH Dispenser)

過去10年間マクドナルドの機器開発部は最高の品質の、フレンチフライの調理を自動化しようと探求を続けていました。
しかし、マクドナルドの厳しい品質基準をクリアーする自動化の調理機器はありませんでした。
しかし、1980年代の後半から1990年代にかけて、ラム・センター社(Ram Center、現在は Schwan's社に名称変更)と米国最大のフライヤー機器メーカーのフライマスター社が共同で開発に当たりました。

このプロジェクトで開発されたアーチディスペンサー(ARCH Dispenser)は、マクドナルド・フレンチフライの原材料の冷凍ポテトを壊すことなく、安定した品質と調理時間の短縮と言う難しい課題を実現しました。
従来は6ポンドづつ包装された冷凍フレンチフライを一定量、フライヤーバスケットに丁寧に入れなくてはいけません。
多すぎるとからっと揚がらないし、少ないと揚がりすぎになります。
また、忙しさのあまり乱暴に扱うと冷凍のフレンチフライが折れて価値が下がってしまいます。
自動ディスペンサーで定量の冷凍ポテトをフライヤーバスケットに自動充填することにしたのです。
これにより、品質が安定するだけでなく、人件費の削減にも成功しました。

実は、アーチディスペンサーの前に、フライ作業のロボット化を研究しました。
ちょうど私が米国に滞在していたときでした。
1店舗当たりの売上げがどんどん伸びるのに、アルバイトの求人難でお店が四苦八苦していました。
そこで、ハンバーガーの製造工程と、フライ物(フレンチフライ、フィレオフィッシュ、アップルパイ等)、コーラなどの炭酸飲料、シェイクの4つの分野を自動化又はロボット化しようとしました。
ハンバーガーの製造工程の自動化はクラムシェルグリルになり、シェイクはダイレクトドロー方式の新型シェイクマシンになりました。
残るはフライ物と炭酸飲料です。フライ物に関しては自動車産業の製造工程で使われているのと同じロボットを使用してテストを開始しました。

産業用のロボットは単純作業を繰り返し行うのに適しているのですが、レストランのように売上げに波があったりすると人間よりも作業が遅いと言う問題がありました。
また、店舗では全ての作業をロボット化できないので人間と一緒に作業をしなくてはいけません。
しかし、ロボットと人間が一緒に作業をするのは大変危険であり、諦めざるをえませんでした。

しかし、ロボットの研究の結果、一部の難しい作業を自動化すればかなり生産性が向上することがわかり、フライ作業に関してはアーチディスペンサーの開発になりました。現在は更に冷凍庫を組み合わせ、温度管理を更に向上し、より高い品質のフレンチフライを調理するようになりました。


■1996-1999年 メード・フォー・ユー (Made For You)

マクドナルドは1990年代になると経済環境が劇的に変化したことを実感しだしました。創業時は朝10時半からの開店で、ハンバーガーとチーズバーガーの2種類しかなかったのが、朝6時から朝食を提供したり、牛肉ハンバーガーだけでなく、チキンナゲットやフィレオフィッシュ、ポークソーセージやベーコンメニューなど、メニューの拡大が進行したのです。

また、従来のハンバーガーはケチャップ、マスタード、ピクルス、玉葱などを一定量あらかじめ入れて包装していましたが、30%の客はそれらのコンディメントの増減を要求するようになりました。その客の要望は品質の低下と長いサービス時間と言う問題を発生させました。

マクドナルドの競争相手はバーガーキング社です。バーガーキング社はマクドナルドの問題点を把握し、自動化のコンベアーブロイラーを使い、バンズとミートパティをあらかじめ焼き上げ、それを蒸気保温庫に保管し、客のオーダーが入ってから焼き上げたミートパティとバンズを組み合わせ、客の好みに合わせたコンディメントを入れて電子レンジで加温して提供すると言う仕組みを作っていました。

そこでマクドナルド社はそのバーガーキングの方式を徹底的に研究したのです。
そこでハトコ社にコンピューター制御の蒸気保温庫を開発させ、焼き上げたミートパティを20分間保温することにしました。
フライ物はヘニーペニー社の温風保温庫を使用します。
またバンズは焼き上げて常温の容器に保管し、客の注文によりバーガーキングのようにハンバーガーを作ることにしました。

その仕組みをステージング・システムと名づけて米国全店に導入しました。
しかし、蒸気保温庫のメンテナンスが難しいと言う問題と、店舗では電子レンジでハンバーガー類を何回も加温すると言う作業上の問題が発生し、品質が大幅に低下しました。
そこで、このステージング・システムの大幅な改革を開始したのです。

それがメイド・フォー・ユーシステムで、3つの調理機器を組み合わせています。

(1)ステージングではハンバーガーとフライ物を別々の保温庫で保温してい
たのですが、今回は作業性と品質を重視してフライマスター社にユニバーサル・ホールディング・キャビネット(universal holding cabinets 「UHCs」)と言う遠赤外線で上下から保温する仕組みにしました。
湿度の必要なハンバーガーは密閉した容器に入れ、カリッとした表面を維持するためにフライ物は湿気がこもらない容器に入れて保温をすることにしました。

(2)もう一つの機器は、ヒーティッド・ランディング・ゾーン(heated landing
zonesと言うものです。
従来のステージングは顧客の要望に基づいてハンバーガーを作るだけではなく、売上げを予測して作り置きをしてピークに対応できるように完成して包装したハンバーガーを保温するホールディングキャビネットを使用していました。そのため、予測を誤ってハンバーガーを作りすぎて品質を劣化させることになったのです。
そこで、完成品を保温をしておくホールディングキャビネットをやめて、全て客の注文後にハンバーガーを組み立てて、そのハンバーガーが冷めないように、小型の一時置き保温庫を開発したのです。

(3)3番目は高速トースターrapid-cook toastersです。
ステージングではハンバーガーを組み立てた後、温めるために電子レンジを使用して、品質とイメージを低下させてしまいました。
今回のシステムは電子レンジを使わなくても熱々のハンバーガーが出来るように、バンズは客の注文後に15秒間と言う短時間で焼き上げることにしました。(従来は焼き上げるのに1分もかかっていました。)
客の注文が入るとまずバンズを焼き上げそのバンズにUHCから取り出したミートパティとコンディメントを組み合わせて提供します。
この高速トースターの開発により電子レンジを排除することに成功したのです。


この開発の初期にはマクドナルド社の店舗運営を研究するCore Innovation Centerのボブ・マーシャル(Bob Marshall)とラルフ・デッカー(Ralph Decker)が担当しました。
彼らは研究室にマクドナルドの原寸大の厨房を作り上げそこでオペレーションの研究をしたのです。
次にマクドナルド機器開発部のジェリー・サス(Jerry Sus)とトム・イーワールド(Tom Ewald)が加わり、調理機器メーカーのフライマスター社をパートナーとして開発を開始しました。
UHCの開発目的は一つの保温庫で複数の商品を保存できると言うフレキシビリティでした。

高速トースターの開発も大変でした。
従来マクドナルド社にフィレオフィッシュ用のバンスチーマーを供給していたアンチュネス社(A.J. Antunes)に担当させました。
この開発の成果は1996年のマクドナルド社のフランチャイジー向けコンベンションで公表され、1999年から店舗に導入が開始されました。

■1988年 自動飲料ディスペンサー
(Automated Beverage System)

1975年にマクドナルドが最初のドライブスルー店舗をアリゾナのシエラに開店して以来、注文受けの正確性の向上と効率化、サービス時間の短縮を研究してきた。
ドライブスルーブースの限られたスペースの中で、人件費を増加させることなく生産性を向上させなければならなかった。
米国のファーストフード、特にハンバーガーレストランにとって、炭酸飲料の売上げ比率は大変高く、ハンバーガーを注文する客のほとんどは炭酸飲料を注文するのであった。
そのためハンバーガーの調理時間をクラムシェルグリルやメイド・フォー・ユーのシステムで短縮しても一緒に注文する炭酸飲料を作るのに時間がかかっては意味がないのであった。
そこで、創業以来の取引業者である、コカコーラ社と炭酸飲料ディスペンサーのメーカーのコーネリアス社(IMI Cornelius)とマクドナルド社の機器開発部のジェリー・サス(Jerry Sus)とジム・コフィー(Jim Coffey)は共同で問題解決に当たることになった。

マクドナルドが創業当時の炭酸飲料ディスペンサーはペーパーカップに氷を入れ、カウンターの上に設置されたディスペンサーのレバーをカップを持った指で押して飲み物を注ぐのであった。飲み物がカップに満ちるまで5秒ほどそこについていなくてはならなかった。そこで、ワンタッチで自動的に炭酸飲料が抽出できるディスペンサーを開発した。
カップに氷を入れ、そのカップをディスペンサーの下に置き、ディスペンサーのボタンを押すと一定量の炭酸飲料が抽出される仕組みであった。
これで随分時間は短縮されたが、ドライブスルーのサービングタイムをさらに短縮させるためには更なる省力化と時間短縮が必要であった。
そこで共同チームは炭酸飲料のディスペンサーの自動化を考えたのだ。
オーダー受けの従業員が客の注文をスピーカーから聞いて、その注文をPOS(コンピューター化レジ)に入力するわけだが、炭酸飲料を入力したら、そのデーターを炭酸飲料ディスペンサーに飛ばして、カップを自動的に落下させ、氷と炭酸飲料を自動注入させるように考え、成功したのだった。

米国の炭酸飲料メーカーはコカコーラ社とペプシコーラ社が五分五分の売上げを占めている。
炭酸飲料メーカーにとって、大量に炭酸飲料を販売するファーストフード企業は大得意で、高品質の炭酸飲料を大量に作り上げる仕組みを常に研究している。
筆者はアトランタにあるコカコーラ本社のR&D部門や炭酸飲料機器メーカーを訪問し、機器の改良を進めたことがある。
日本にも炭酸飲料機器メーカーはあるが、製品の能力が低く、改善するのに10年ほどの月日が必要であった。
たかが炭酸飲料というが、狭いスペースで高性能の冷却機器と炭酸水の製造機器を置き、正確なシロップを混入するには大変な精度が必要なのだ。
日本の機械の性能の悪さに堪らず、米国の高性能の機器を輸入して使用した時期もあったほどだ。

■マクドナルドを支える優秀な調理機器メーカーの例

マクドナルド社がメイドフォーユーの技術開発で選定した調理機器メーカーの内の一社がEnodisと言う複合企業だった。
http://www.enodis.com/

マクドナルド社が何故、その会社をパートナーに選んだかを見てみよう。
Enodisは英国の持ち株会社であり、傘下にはフライマスター(フライヤー)、ガーランド(レンジ、オーブン、クラムシェルグリドル)、ジャクソンディッシュウオッシャー、リンカーン(エアーインピジメントオーブン)、ベルショー(ドーナツ機器)、コンボサーモ(スチームコンベクションオーブン、クリーブランド(大型クックチル)、アラジン(病院用調理保温システム)、アイスオマティック(製氷器)、スコッツマン(製氷器)、デルフィールド(冷蔵機器)、その他、合計で35社がある。グループの年商で1.5ビリオンドル(120円換算で、1,800億円)で、調理機器メーカーグループとして最大規模である。
ファーストフードだけではなく、ファミリーレストラン、カジュアルレストラン、病院給食等幅広い顧客を持っているのが特徴だ。

Enodis社はフロリダ州タンパにEnodis Technology Centerを所有し研究開発に当たっている。
http://www.enodis.com/tour/tour1.html

Technology Centerでは、自社の調理機器のみならず世界中の調理機器を集め、性能比較を行うなど、品質向上、高速調理、省人件費の自動化機器の研究を行っている。通常は非公開の厳重な秘密研究所だ。
筆者が以前、ピザ用高速オーブンの開発の際にこの研究所で、世界中のオーブンを集めて、専門のコックに目の前で色々なタイプのピザを山のように作らせ、調理機器の性能評価をさせた事がある。

ここでは単なる調理機器の開発のみならず、将来の動向まで予測し、開発する研究所であり、5〜10年先を想定して調理システムの開発を行っている。
具体的にはマクドナルドの最先端技術であるメイド・フォー・ユーなどの調理技術や、マクドナルドで使用している、クラムシェルグリル、トースター、保温庫等を開発している。

では、その研究所の開発方針と手法を見てみよう。

(1)研究所の歴史
1986年にガーランド社の工場内で設立された。
しかし、ガーランド社の社内にあると言うことで、ガーラーンド社の開発や、工場の製造工程の些細なことの研究も要求されるという問題を抱えるようになった。
そこで、傘下の調理機器メーカーと均等な立場を保ち、且つ、独立した組織で長期的視野に立った活動が出来るようにするべく独立をした。
研究開発に最適な環境を求め、気候が温暖で優秀な人材を集めやすい、フロリダ州タンパに研究所を開設した。
(2)研究所のビジョン
<1>新しい料理方法と調子システムの開発
<2>品質と安全性の追求
<3>早い調理とサービスの実現
<4>作業を簡素化し、トレーニングを容易にする
大事なのは新しい調理機器は客の問題解決の一部であり、全てでない
と認識することである。
(3)研究所のミッション
客の問題を解決することである。
<1>客と一体になって問題解決に当たる
<2>調理機器の改良と、新規調理機器の開発の両方を行う
<3>客の秘密を厳守する
(4)研究所のフィロソフィ
<1>客の考え方、希望に従うこと
<2>エンジニアはフードサービスを経験していること
<3>エンジニアは新しい調理機器の開発は調理技術行程の一部である
と認識すること
<4>エンジニアは開発チームの客だけでなく、傘下の自社企業の問題
解決を助ける
(5)研究所の研究エリア
<1>調理システム全体
<2>トーストとスチーミング
<3>ホールディングとステージング(加湿保温保管)
<4>ベイキング(焼き上げ調理)とブロイリング(あぶり焼き調理)
<5>グリル調理とフライ調理
<6>コンベクション調理とマイクロウエーブ加熱(電子レンジ)
(6)開発プロジェクト進行
<1>プロジェクトは客のニーズに沿うこと
現在の調理機器の改良
新規調理機器の開発コンセプト
<2>客との共同開発体制を作り上げる
客とは、外食チェーンだけでなく、傘下の調理機器会社も含む。
エンジニアはプロジェクト全体の進行管理だけでなく、調理機器開発後、傘下の工場での生産立ち上げから生産開始後4ヶ月まで、工場に駐在し、完璧な調理機器を出荷する責任を負う。
(7)開発内容
<1>新技術開発に必要なあらゆる技術情報を収集する
あらゆる先端技術を持ち、外食の現場を熟知しているエンジニアを
集める。最先端の設計能力を集める。例えば3DのCADシステム。
空気力学の最先端のソフトウエアーの開発等。
<2>完璧な耐久力テストを行う
単なる性能だけでなく、忙しいチェーン企業の現場の酷使に耐える
耐久力テストを完璧に行う。
<3>必要なら研究の外部委託を行う
現在のように開発を短時間で行う要望が強い時代では、研究所だけで全ての開発を行うのは現実的でない。そこで、食品工学、バリューエンジニア、金属工学、化学工学、電気工学、等の専門知識を持っている大学の研究機関やその他の専門の研究機関を使い、開発内容の完璧性を高めると同時にスピードアップを図る。
(8)研究所に求められる、開発に必要なエンジニアリング能力
<1>機械と電気工学の知識
これは調理機器開発エンジニアに要求される最低限度の知識である。
<2>3D CAD(立体的なコンピーター支援設計)
ソフトウエアーを使える研究所の12名のエンジニアに全て最先端のワークステーション(パソコンベースであるが、より能力と安定性の高い仕様とソフトウエアーを備えている。場合によっては安定性の低いマイクロソフトのウインドウズでなく、性能の安定しているユニックスマシンを装備する)を与えている。
<3>電子回路設計能力
最新の調理機器を開発する上で必要不可欠である、制御機器は機械式から電子回路設計になっている。電子回路設計を外部の会社に委託すると、その会社が持っている製品を売りつける場合が多いので、自社で設計と製造能力を身につけた方が、開発時間が短く、最適な性能を出し、且つ、コストも低くなる。
また、最近の調理機器の性能を左右するのは電子回路の設計であり、特許を申請し、自社の製品のコピーがでないようにするためにも独自の電子回路設計能力を身につける必要がある。
<4>板金設計能力
調理機器を試作するにあたり、研究所で骨組みや板金設計技術がないと開発速度が遅くなるし、工場で効率よく製作するように設計をすることが出来ない。
試作に当たっても、ワークステーション上で設計した図面をLANの回路で流し自動的に板金を作成する事が可能になることにより、試作速度が格段に早くなる。
<5>ガス燃焼技術
世界各国に進出するチェーン企業をサポートするためには米国で使用しているLPGや天然ガスだけでなく、コークスガスや石油ガスなどの品質の悪く、圧力の低いガスでも燃焼できるような設計知識が必要になる。米国内のガスだけで開発を行うと、海外の異なるガスのために別途燃焼機器の設計をしなくてはならないので効率が悪く、かつ、コストアップとなってしまう。
<6>電気加熱
基本的には調理加熱にはガスを使うのが最も経済的であるが、世
界各国に進出すると、国によってはガスの供給が出来ない場合が
ある。
例えば中国のように広大な国ではガス配管が間に合わないし、人
口等の増大にガス供給が追いつかず、電気を使用しなければなら
ない場合がある。また、フランスのように原子力発電が多い国やカ
ナダのように水力発電が多い国では、国策上電気代を安くする場
合がある。
そのような場合には電気加熱調理機器を使わざるを得ない。
そのためには加熱調理機器はガス燃焼加熱でも、電気加熱でも同
じ性能を生み出すように設計しなくてはならない。
電気加熱は簡単に思われるが、電気ヒーターの熱容量が高く、普
通のサーモスタットを使用すると設定温度より大幅に上昇しすぎ品
質の違いを生じやすい。
また、電気加熱の場合大容量の電気を流すので電気をON、OFFす
るためのコンタクターの接点が溶着し、火災事故を発生する場合が
あるので、トライアックやマーキュリーリレーを使用するなどの特殊
な設計知識が必要になる。
<7>マイクロウエーブ技術
これからの調理技術で必要なのは高速加熱調理と再加熱調理技術である。その場合にはマイクロ波を使った加熱技術が大変重要になる。
最近はコンベクションオーブン(加熱した空気を食品の横から当てる)やエアーインピンジメントオーブン(加熱した空気を食品の上下から刺すように当てるので高速調理が出来る)のオーブンにマイクロウエーブ技術を加えて高速調理をする調理機器がでているが、品質に問題がある場合が多い。
それはマイクロウエーブオーブンとコンベクション/エアーインピンジメントオーブンでは設計が異なるからだ。

マイクロウエーブオーブンの加熱原理はレーダーと同様なマイクロ波(電波)を食品に当て、食品中の水分を高速振動させその摩擦熱で食品内部から加熱をするという仕組みだ。そのためにはマイクロ波を発生するマグネトロンの位置と庫内の板金の精度が大変重要だ。従来の厨房業者の作るコンベクション/エアーインピンジメントオーブンでは、板金の精度が桁違いに低く、庫内の寸法が微妙に異なる。そうすると庫内に放射される電波が均等に食品に当たらず、機械による温度のばらつきを生じる。

Enodis社の傘下のL社ではエアーインピンジメントとマイクロ波の組み合わせでオーブンを製造したがそれが原因で完成することが出来なかった。そこで、英国の電子レンジメーカーを買収した。
しかし、電子レンジメーカーのオーブンはコンベクション機能(熱風加熱)が弱いという欠陥がある。
熱風加熱とマイクロ波加熱の複合機の場合、まず、熱風加熱による調理が完璧に出来ないといけない。それは、調理開発を行う場合、複合機の加熱条件を設定するのが大変難しいからだ。
熱風加熱だけで調理温度と時間を設定し、その条件に対して少しずつマイクロ波を加えていくことにより時間短縮と美味しい商品を実現することが出来るからだ。そこで、熱風の流れを自社開発した空気力学解析ソフトを利用し、普通は1年ほどかかる開発期間をたった1ヶ月に短縮することに成功した。
<8>空調、流体力学
調理機器を開発する上で重要なのは、厨房の環境だ。ガス燃焼
や、電気加熱の輻射熱、スチーム、は厨房の労働環境を悪化す
る。こで、調理場の排気と新鮮空気の供給設計は大変重要にな
る。

<9>冷却原理
外食の調理機器というと加熱調理が多いように思われるが、冷蔵
庫、冷凍庫、ドリンクディスペンサー、製氷器、空調機、等多くの冷
却機器を使用する。特に最近は地球温暖化を防ぐために従来のフ
レオンガスを使えず、新しい冷媒やコンプレッサーの開発が必要不
可欠だ。

エンジニアは上記の能力を身につけるために、具体的にはオーブ
ンであればコンベクションオーブン、エアーインピンジメントオーブ
ン、スチームコンベクションオーブン、スチーマー、マイクロウエーブ
オーブン、インダクション加熱(電磁誘導加熱)、インフラレッド加熱
(赤外線加熱)、冷却原理、等の調理機器を熟知しなくてはいけな
い。
(9)開発のステップ
全ての開発のステップを明確にし文書化する。
目標を明確にし、ステップバイステップで評価をして進行する。
コストは客に請求しないが、完成した商品を購入していただくことにより5年ほどで開発経費を償却できるようにする。

Enodis社は実はマクドナルド社だけでなく、バーガーキング社、トライコン社(KFC、ピザハット、タコベル)等の競合の外食チェーンも大きな顧客である。
それなのにマクドナルド社の将来を占う調理技術であるメイド・フォー・ユーの開発の多くをゆだねたのは、上記のようなしっかりした思想を持っていると言うことがおわかりいただけるだろう。


■マクドナルドの調理技術開発の例、筆者の経験談
今回はマクドナルドの商品開発とそれに伴う、調理技術開発の経験談をお話しましょう。
実は、マクドナルド時代に筆者はフライドチキンの開発を担当しました。
その際に必要だったのは調理技術の開発だったのです。それも商品ターゲットの業界トップ、K社の商品を自社のオペレーションラインに適合するように作りかえることだったのです。

(1)何故フライドチキンを開発したか
マーケティング調査によって気まぐれでフライドチキンを開発したわけではありません。
ファーストフードはコンビニや食品メーカーと同じく、全てマーケティングデータに基づいて開発するのです。
そのため、毎年顧客調査を行います。首都圏の任意の客を抽出し(店舗を使わない人も含む)、その人達の消費性向、嗜好、自店の認知度、利用度、競合の利用度、自社と競合の商品比較、消費者の欲しい商品、等を詳細に分析します。
そうすると競合とのQSC上の問題点が明らかになるのです。
当時の競合の強さは手作り感を持っているK社のチキンとM社のテリヤキバーガーでした。
そして米国マクドナルドは対抗上でチキンナゲットを開発して爆発的なヒットとなりました。
でも、日本を含む東南アジアではより濃厚な味のする、骨付きのフライドチキンのニーズが高かったのです。
そこで、評価の高いK社の圧力釜で調理した骨付きチキンの開発を開始したのです。
(2)フライドチキンのノウハウの解析
競合と同等の商品を開発するにはまず、調理ノウハウを詳細に分析するところから開始します。
そして、競合と全く同じ手法で調理をして、同等の商品を作るというリバースエンジニアリングを行っていくのです。
(3)材料の鳥の規格
K社の、最大のノウハウの一つが養育期間を45日と普通よりも短い期間で飼育した柔らかい生の若鳥を使用すると言うことです。
それも普通は1羽の鳥を8カットにするのですが、9カットという独特のカットで処理します。
そこで生鳥を購入し、完成品と同じ大きさになるようにカット技術を確認しました。
ここでわかったのは鳥の餌が味に重要な違いを与えるということでした。
当初は新鮮な国産鳥でテストしていたのでが、後にフローズンの輸入チキンに変更しました。カットしたフローズンチキンを輸入し、解凍し、圧力釜で揚げ、再冷凍したのです。
当初の味は問題なかったのですが、工場加工後2ヵ月ほどすると味が変化することがわかったのです。
鳥の骨には血の色の髄液が入っていますがその髄液の味が変化するのでした。

肉の味を左右するのは餌です。例えばオーストラリアの牛よりも米国産の牛の方が美味しいと言われるのは、草ではなく穀物を餌として食べさせるからです。
東南アジアでは穀物の代わりにフィッシュミールを蛋白源として鳥に与えます。そのため古くなると魚の嫌な臭いが出てくるのでした。
(4)調理ノウハウの解析
K社の最大のノウハウは特許を取った圧力釜調理です。
そこで特許公報を元に揚げ油の温度、圧力、調理時間のデータを推測しました。さらに、過去のマニュアル、米国のデータを元に最適の調理温度と時間を算出したのです。
K社の圧力調理のポイントは油2に対して11の比率の鳥(バッターとブレディングをつけた)を調理することでした。
油を180℃に熱した中に鳥を入れると、高温で鳥の表面についたバッターとブレディングがキャラメライズし、天ぷらの衣のように鳥の内部の肉汁を封じ込めます。
調理で発生する蒸気を利用し一定の圧力をかけ、火を弱火にして10〜12分ほど揚げるのです。

調理原理がわかったのですが、当時のK社は既に自動調理機器を使用しており、K社の自動圧力フライヤーは圧力と温度時間を自動コントロールする専用のコンピューター制御でした。
同じフライヤーの市販品は入手できるのですが、K社仕様のコンピューターを購入することはできませんでした。
そこで特許公報に出ている温度カーブを分析し、加熱に必要な熱量を計算し、現場でフライドチキンを購入しながら比較をして、同じ調理レベルになるように温度と時間の設定を開始しました。
(5)ブラックボックスの味の解明
K社の次のノウハウは独特のスパイスの配合です。この点はスパイスの神様を探し出し、スパイスの調合を進めたのです。スパイスは温度をかけた際に成分が揮発しますが、種類により異なるので、色々なスパイスを調合し実際に調理しないといけないのです。
さらに課題は工場で調理し、店舗で再加熱をするという2回の加熱後でも同じ味にしなくてはいけないという事でした。

衣の成分である、バッターについては昔のマニュアルの玉子と牛乳の比率があったので簡単に割り出し、ブレディングについては製粉メーカーの中央研究所で研究を行いました。
これらの味のスペックを決めるに当たっては、鳥の製造メーカー、スパイス、粉、油の、各専門家を動員し共同作業で短時間に解析を進めるために極秘のテストキッチンを作り作業を進めたのです。
他社の研究所に身分を隠して先入し研究を続けたのです。

この解析と調理レシピの確定のために、多くのデータを解析しました。
使用した機器は、正確な温度計、重量計、ガス圧計、風速計、ストップウオッチ、ノート型パソコンでした。時、小型のノートブックパソコンが発売されたばかりで、表計算のソフトを載せ、調理データを10秒単位で記録し、全ての製造ロットの温度カーブを記録していったのです。
後で商品上の問題点が発生した際には、そのロットの揚げた条件を温度カーブを見ながら解析できるのでした。
(6)K社の調理技術の問題点
以上の作業により半年ほどで、K社の店舗で販売している商品と同等の(95%程)のフライドチキンを作ることが可能になりました。
しかし、ここで問題点も同時に発見しました。
商品のスペックを決定するために2カ所の秘密のテストキッチンでテストを繰り返し、その際のターゲット商品を近隣のK社の店舗から購入していたのですが、その2カ所の店舗の調理レベルが異なると言うことでした。

その原因は2つの地域の、供給ガスのカロリーが異なると言うことでした。ある店舗地域のガスはカロリーが低いだけでなく、供給圧力も低く、フライヤーの調理能力が低いと言うことがわかったのです。
店舗ではそれを補うために投入時の設定温度を高く変更していたのですが、ガスの圧力が異なることから調理中の火力が不足し、外観の揚げ色は濃いが、内部の調理レベルは十分でないという問題が判明しました。
筆者は昔、グリドルで同じ苦労をしており、即座に応急処置をとることが可能でしたが、その圧力釜の基本的な問題を完全に解決する事はできませんでした。
これは、世界中で同じ味を保証しなければいけないと言う会社のポリシーにはそぐわないと言う大問題でした。

もう一つの問題は店舗での調理作業です。フライドチキンのオペレーションはFFとはいえない原始的な作業でした。
手作りを重視する作業の点から粉を店舗で付けるのだが、それが店中に舞い上がり、厨房だけでなく客席まで粉だらけとなります。
また、幾ら自動化とはいえ、生の鳥にバッターとブレディングをつける作業には熟練が必要でした。さらに生の鳥にはサルモネラがいるという衛生上の問題点もあるのです。
つまり、洗練されたファーストフードのオペレーションには全くそぐわないということでした。

3つ目の問題は店舗スペースです。
フライドチキンはクリスマスに大変人気のある商品ですが、その最大売上げ時の能力を出すためにはK社と同等の設備が必要になるのですがそんな機械を設置するスペースはないのです。困ってしまいました。

競合他社と同様の商品を作るには全く同じマニュアルを入手し、実際に作ってみなければなりません。そこでK社の調理システムを解剖してみました。
幸いなことに昔の友人が働いていたときの克明なメモが手元にありました。
それを見てみましょう。
■フライドチキンの調理作業
(1)冷凍庫からチキンを出す
冷凍チキンを使用する時は、十分な大きさのプレハブ冷凍庫が必要である。普段はフレッシュチキンを使用する場合でも、時期により冷凍物を使用せざるを得ないし、フレンチフライやその他の冷凍食材もあるので、ある程度の大きさの冷凍庫は必要である。
(2)冷蔵庫で解凍する
冷蔵庫の内部で解凍するが、間に合わない時はシンクで冷水解凍するので、大型のシンクが必要である。
(3)使用するチキン
チキンは中ヒナ、中抜きの丸1.05〜1.15kgを使用する。
重量を決めているのは後述する鳥の重量とショートニングの重量比が圧力釜の圧力を決定するからである。原則として鮮度の良いフレッシュチキンを使用する。冷凍のチキンは、調理後、骨が黒く変色し、味も変化し易いので、品質を考えフレッシュなチキンを使用する。
ただ、季節的に冷凍物を使用しなければならない時があるが、その場合でも、新鮮な物を使用するようにしなければならない。

日本や東南アジアでは、魚粉を飼料として与える場合があり、冷凍後時間が経過すると、異臭が出て、フライにしても匂いが消えない。
南米産の物は味は良いが、概してパーツが大きく、不揃いな場合が多い。パーツの大きさが一定の物を仕入れる必要がある。
一般的なチキンのカットは8カットであるが、K社では9カットと言う独自のカットを行い食べやすくしている。
(4)チキンの下処理
チキンの余分な脂肪分、内臓、血、羽等を取り冷水で洗浄後、30分間水切りを行う。サイの骨の内側に腎臓が残っていると、味が苦くなるので、完全に取り去る必要がある。
皮と身の間に黄色い脂肪分があるが、なるべく取り去る。
フライドチキンは通常100%植物油のショートニングを使用してフライするが、ショートニングの中に、チキンの脂肪分が溶けだし、ショートニングを傷めるとともに、スパイスの香りに脂肪の匂いが混じり客に嫌がられる。しかし水洗いをあまりやりすぎると、チキンの旨味が流出する。


(5)バッターリング
バッター溶液は、玉子、ミルクを混ぜたものである。
バッターを付ける事により、揚げ色がゴールデンブラウンになり、衣の付着がしっかりし、チキンの旨味の流出を防ぐ事が出来る。
バッターは栄養があるので、チキンに付着している細菌類が増殖し易い。その為、使用したバッターミックスは数時間で廃棄する。
また、出来るだけ冷たく保管し、使わない時には冷蔵庫で保管する。
バッターをM.E.D.(ミルク・エッグ・ディップ)と呼ぶ。主成分はミルクと卵
である。
品質を一定にするため、ぬるま湯で2,000ccに対してM.E.D…..g、
水4,000ccをまぜる。
その成分は卵…個、パウダーミルク(スキムミルク)….cc、
ぬるま湯2,000cc、水4,000ccとほぼ同等である。
(6)ブレディング
スパイスと塩の混ざった小麦粉をまぶす際に、小麦粉にダマが出来るが、ダマは毎回ふるいに掛け、取り去る。
スパイスの混ざった小麦粉は、使用している間に、各成分の重量の違いで、重たい物が順次容器の底になっていくので、時々混ぜる必要がある。良く混ざるように容器は大き目のほうが作業がし易い。
また成分の微細な粉末ほど、チキンに付着し易い為、回数を重ねまぶすほどに味が変化していく。一定回数まぶしたら、追加のスパイス入り小麦粉を入れ、味の変化を押さえる。
味の標準化のために11種類のスパイスミックス…g入り、精製塩…kg、薄力粉…kgを、パック化し簡単に調合できるようにする。
そのパックを2回篩にかけ味が均一になるようにする。
(7)フライヤーで揚げる
K社で使用する圧力式のフライヤーには一回の調理で、必ず一定量のチキンを調理する必要があり、顧客の要望に合わせて、1個だけ調理するわけにはいかない。
そのため、保温庫に一定時間保温し、保温時間内に販売するようにして
いる。重量比で鳥が1に対しショートニングが2の割合が最も美味しい。
(8)油切り
揚げて熱い状態のフライドチキンをそのまま保温庫に入れるが、すぐに販売してはならない。30分間保管し十分に油切りをした状態で販売する。
(9)ホールディング
保温の温度は、細菌が繁殖出来ない温度以上で、顧客が食べた時に熱いと感じる温度でなければならない。80℃程度が適温である。
保温庫は温度だけではなく加湿をしないと、フライドチキンが乾燥してしまう。保温時間は2時間である。
(10)製造能力
冷凍庫、冷蔵庫、等は配送頻度により、容量を決める。
チキンは案外場所を必要とするので、充分容量を確保する必要がある。

圧力式フライヤーの台数は1台あたりの調理可能能力と売上予測により決定される。
一般的に使用されている圧力式フライヤーは1回に最大4羽フライする事が出来る。(最近は8羽の調理ができる大型の物も使っている)
9カットであると1回に36ピースのフライドチキンを製造できる。
1回の調理時間は15分間であり、一回毎に油をろ過するのに5分間、温度を回復するのに5分間、計20分間が一回の調理サイクルになるので、1時間に3回、108ピースが最大調理個数になる。
2台のフライヤーで、1個180円として、1時間に38,800円の売上が可能である。また、保温庫で用意しておけば1時間に最大77,760円の売上が可能である。
フライドチキンの売上が70%であれば、1時間に約11万円の売上が可能になる。
標準店舗はこの3倍の売上げ能力を備えており、クリスマスなどの大量
に売れるときにも対応が可能だし、保温していることでドライブスルーや持ち帰り客を確保できるので、店舗を小型にできる。


マクドナルドでの商品開発は単に味だけを作り上げるだけではありません。
世界各地で同じ味でないといけないのです。
そのために味だけでなく工場での加工方法まできちんとして、世界のどこの工場で製造しても同じ味が出来るだけの標準化が必要になります。
標準化とは使用する食材、工場で使用する機械とレイアウト、調理に当たる人の知識、等まで含みます。

食材で言えば、K社と同じ食材を手に入れ、どのようにカットするのか自分たちで実際に鳥をカットして勉強します。フライドチキンの品質を大きく左右するのが鳥そのものの品質です。
国産の鳥は美味しいのですが、K社がマーケットを牛耳っているため安定入手が難しそうです。
そこで食材を東南アジアにおけるブロイラーの最大の産地であるタイからカットして冷凍した鳥を輸入することにしました。

テスト中に面白いことがありました。
米国人の品質管理担当者が日本に来てテストに立ち会ったのですが、彼は鳥を食べようとしません。なぜ食べないのかと質問したら、日本のとりは魚の味がすると馬鹿な事を言います。ところがそれが本当だったのです。
日本も含めた東南アジアでは鳥のえさにフィッシュミールと言う小魚の粉を混ぜます。たんぱく質を与えて早く肉を付けるためです。
アメリカの鳥は豊富な玉蜀黍などを食べさせます。その餌の違いが味に出るのです。最初はわからなかったのですが、冷凍して2ヶ月以上経過すると骨の内部からの臭みが出てしまいました。これには困りましたね。
そこで当時出回り始めたブラジルの鳥が米国風の餌を与えていることがわかり、変更しました。
さて、先回お話したようにK社が行っている製法を解明し、95%程度まで同じ味を出すことに成功しましたた。
店舗での調理方法が解明できればそれをデッドコピーするのは簡単なのです。しかし、K社とマクドナルドのオペレーションがまったく相容れないことがわかりました。

■フライドチキンの工程で巡り会った大量調理技術
(1)K社の問題点
K社の技術は簡単に言うと生の食材を使用するレストラン料理を単品に絞り込んだ原始的なファーストフード技術です。
新鮮な生の雛鳥を独特の圧力釜で調理するというノウハウで、ハンバーガーチェーンのように複数の商品を合理的に調理するという考え方とは水と油ほど異なっていました。
生の鳥はサルモネラ菌などが存在しており、調理済みの食材と同時に取り扱うことは危険きわまりありません。
また、K社はフライドチキン専門店であり、主力商品の調理機器に資金とスペースをふんだんに投入することが可能ですが、ハンバーガーの場合、追加メニューであり、スペース、投資金額、生産量力という意味での難しさがあったのです。
能力という意味では店舗で生の状態から行う作業スペースと生産性を許容することができませんでした。
(2)問題点を解決するために
そこで工場で集中加工して、店舗では再加熱をして提供することを考えました。ビーフパティなどは生の挽肉を整形後冷凍し、店舗で焼き上げるのですが、ポークパティやチキンナゲット等は工場で一次調理を行い、食中毒菌や一般性菌数をコントロールして安全性を増していました。そこで工場に大型の圧力釜を設置し、集中調理後冷凍し、店舗へ配送し、店舗でその冷凍フライドチキンを再加熱する方式を考案することにしたのです。
ここで必要だったのは工場での集中加工技術と店舗での再加熱調理技術の開発でした。そこで過去の色々な調理加工技術を整理して分類することから開始しました。基礎研究が大事だからです。

(3)工場の集中加工技術
工場でフライドチキンを揚げてから冷凍して店舗で再加熱する事により、品質のぶれ防止、コストダウン、店舗作業の簡略化が可能になります。
と言うと簡単なようですが、店舗の圧力釜を大型調理機器に置き換えるという大変な作業が待っていました。
そこで数店舗の実験店舗テスト販売では、通常の店舗では8羽を揚げることのできる大型の圧力釜を米国から取り寄せ実験を開始しました。
勿論揚げる温度や圧力などは私が解明したプログラムを組み込んだのです。

同時に圧力釜と同等の品質を実現できる超大型圧力釜の開発を開始しました。2次テストでは100店舗を予定しており、それだけの店舗をまかなうには1日で約5,000羽の調理を可能にしなければならないからです。そこで1時間に670羽の鳥を調理できる超大型圧力フライヤー2基を製造することにしました。

大型の圧力フライヤーの製造に当たっては、機械の開発のほかに、油の処理など大変な作業が待っています。
大量に製造するので供給する油は大型タンク車で運び、油をためておくヒーター付きの大型タンクの設置が必要になりました。
また、圧力釜の最大の欠点はバッチ処理であり、連続して生産する事が不可能で、将来全店舗に導入の際にどう製造するかということが問題となりました。

フライドチキンで圧力釜を使う理由は、柔らかく、かつ、骨から血が出ないようにしっかり温度をかけるという矛盾を解決するためです。
そのためには圧力釜を使うしかないと思っていましたが、後に、大型のラインでそれを実現する色々な方法を見つけだしました。

■工場における圧力釜代替加熱処理方法の開発
(1)大型電子レンジ
骨の血止めをするために大型の電子レンジで加熱し、それからフライするという手法です。
米国のミサイルを打ち上げる軍需産業が大型レーダー技術を活用し、大型の業務用電子レンジを使い、チキンの調理加工で実用化が進んでいたのです。しかし、電子レンジは電磁波が漏れると危険であり、流れ作業ができず、バッチ作業となる点でまだ問題は残ってしまいます。
また、圧力釜よりも肉質がやや堅いという欠点も残っていました。
(2)大型蒸気加熱機器
当時米国本社ではノンフライの焼き上げたチキンの開発を行っていました。いわゆるバーベキューチキンとかロティサリーチキンといわれている物ですね。世の中だんだん健康志向になり、衣がついて油で揚げたチキンはカロリーや脂肪が多すぎて体に悪いということで、油の少ない鳥の調理方法が望まれていたのです。

日本のプロジェクトと同じく生の鳥を店舗で調理することは問題があり工場で調理を行うことにしました。蒸気加熱で鳥の水分を失わないように加熱した後冷凍し、店舗では大型のコンダクションヒーティング(接触加熱型方式)で、低温で再加熱する方式です。

早速その工場を見学し、製造方法を確認しましたが、バッチ式の蒸気加熱機器で生産性が低く、また、外部の技術コンサルタントがどうも信用ならないという問題があったのです。そのため、日本での導入を行いませんでした。
後に米国本社はその開発者との特許紛争に巻き込まれ解決に数年かかったことを見ると、その判断は正しかったようですね。


(3)スパイラル式大型加熱機器
米国は鳥の消費量が多いので、工場の調理方法の研究が進んでいました。最も優れている工場調理方法は、大型スパイラル式の蒸気加熱方式でした。
まず、衣をつけた鳥を軽く一次揚げして衣を固着させ、コンベアー式大型スパイラル蒸気オーブンに入れ、じっくり火を通します。蒸気をかけながら低温で骨まで加熱するので、水分の蒸発が少ないというメリットがありました。
このタイプのメーカーは米国とオランダに2社あり、世界中の大型食品工場で使用されていました。
しかし、当時は残念ながらその開発方式を日本に導入するのが遅れ、品質面で苦労させられました。
しかし、現在ではその合理的な調理方法が米国本社の東南アジアでのフライドチキンのメニュー開発に採用されているのです。

この方式で調理し、冷凍したフライドチキンを、店舗で時間をかけて、特殊な保温庫をかねた加熱オーブンで適温に再加熱し提供するという方式が東南アジア各国で標準採用されています。
このメリットは米国の穀物飼育した美味しくて安価なフライドチキンを鮮度維持して東南アジアに輸入できると言うことであり、東南アジアではK社の売り上げに大きな影響を与えています。

■2度の加熱による乾燥を防ぐ
工場と店舗で2回加熱することは、食中毒菌などへの安全対策としては完璧ですが、肉が堅くなったり、水分が蒸発しおいしくなくなるという問題が発生します。
バーベキューチキンの場合には、乾燥を防ぐためと味付けのために、生のチキンを塩やスパイスを入れた調味液に付け、減圧して回転するタンブラーという機械で味をしみこませるとともに水分を補給し、焼成時の乾燥を防ぐ方法を採用しました。
当初はその機械をテストしたのですが、バッチ処理のために大量に製造するには問題があります。
そこでソフトサーモンの製造に使用される、インジェクションという肉質に注射針を刺し、そこから調味液を注入するという手法を採用することにしました。

■工場における調理行程マニュアル
工場における調理行程マニュアルを作成し、品質管理を決めることにしました。店舗で調理する場合と同等の品質を実現するために作成を行ったのです。

(1)原材料受け入れ 受け入れ時品質基準
解凍方法
解凍後肉温度
(2)原材料水洗い
洗浄水温度
洗浄時間
(3)インジェクション ピックル液成分
注入量
液温度
交換基準
(4)バッター液
希釈率
付着率
液温
粘度
液補充間隔
(5)一次ブレッダー ブレッダー粉成分
付着率
だまチェック
(6)二次ブレッダー ブレッダー粉成分
付着率
だまチェック
(7)調理トレイ並べ方
(8)フライ ロット当たりの処理量
フライ時間
フライ後製品温度と計測部位
フライオイル交換基準
(9)急速凍結 凍結温度
凍結後製品中心温度
(10)ミスト ミスト量
(11)包装
入り数
包装形態
(12)異物混入チェック 金属探知器基準

(13)箱詰め 段ボール種類
段ボール強度、構造
製品名記載内容
入り数

(14)凍結保管 基準温度
箱積み基準
(15)輸送保管
保管温度
保管期限
以上のようにマクドナルドでの商品開発というのは店舗の作業だけでなく、工場における加工工程まで熟知しなくてはいけないのです。
今まで何回かフライドチキンの話をしておりますが、それだけの加工技術を開発するのに1年以上もかかっているのです。

その間、極秘のプロジェクトだからと私の名前は社員リストから消され、会社での机もなくなりました。
そして、粉や肉の大手加工会社の中央研究所に潜り込み研究を続けていたのです。他社の研究所でのテストの際も調理実験後の食材は全て自分で回収します。調理後の食材を分析すればノウハウがもれるからです。

そんな大変な技術開発でしたが、大変勉強になりました。
加工技術の開発に当たっては、食品製造技術をマスターしなくてはいけないので、マクドナルドの商品スペックの勉強を真剣に行わざるを得なかったからです。マクドナルドの全ての商品スペックを基礎から勉強したのです。

このプロジェクトは極秘のプロジェクトですから、社内でもあまり多くの人数が関与することは許されませんでした。
工場での商品開発だけでなく、店舗での調理機器の開発が必要だし、完成したら店舗での教育やマニュアル作りが必要です。

私は幸か不幸か、運営統括部部長と言う運営面での責任者で全社の数字とオペレーションマニュアルを管理していました。
また、フランチャイズ契約などの契約関係も深く携わっていました。同時に機器開発部長というマクドナルドで使っている全ての調理機器の開発とレイアウトの責任者であり、機器の開発に必要な詳細なスペックを熟知させられていました。

そんなわけで、私なら一人で全てのスペックを作り上げるだろうと指示が下ったのでした。おかげで大変な目にあいました。

次回からは店舗での調理作業開発の苦労話をしましょう。

■店舗のフライドチキン調理技術開発

工場での加工技術の開発と同時に店舗での調理技術の開発も行わなくてはいけませんでした。
最初はK社と同様に店舗で生の鳥から調理をしていたのですが、先週号でお話したように、工場で集中加工することにしたのです。
工場で一度加熱処理をした鳥を再加熱するわけですから、店舗では温めるだけでよいわけです。
しかし、再加熱はHACCP(高度な衛生管理の手法)の観点から考えると中心温度を75℃まで再加熱しなくてはいけません。
工場で完全に加熱し骨内部の髄液を固めるので、低温加熱の手法でも肉が硬くなる危険があります。

肉が硬くなるというのは水分含有量が減少することです。水分含有量が減少するのは、肉が硬くなるだけでなく歩留まりが悪くなることでもあるのです。
工場加工の場合にはサーモンを作るインジェクション加工技術で水分を補うことができるのですが、店舗で再加熱する場合には水分を補うことができず、如何に水分減少を少なくするかという技術が必要になるわけです。
グリルやフライ等の通常の加熱方式では加熱前に比べると30%ほどの水分が失われます。それをほとんど重量が減少しない方式を開発しなければいけないという難しい課題です。

さて、ステップバイステップであらゆる調理法を検討してみました。

(1)フライヤー
工場で一次加工したフライドチキンを店舗で再加熱する手法を解決する必要がありました。
一番簡単なのはフライヤーで再度揚げる事であるが、せっかく圧力釜で揚げた柔らかい衣が硬くなってしまうし、冷凍からでは時間もかかり、油っぽくなってしまうという問題があり断念しました。
その後、東南アジアでは比較的クリスピーなフライドチキンが好まれており、工場でスパイラル蒸気加熱をしたフライドチキンを冷凍後、店舗で適温まで再加熱し、提供するときに短時間フライするという方式を導入しています。
(2)電子レンジ
次にひらめいたのが家庭で解凍調理に使われている電子レンジです。
家庭用よりも大型のマグネトロンを採用した業務用でテストをしましたが、数が少ないと早いのですが、大量に加熱しようとすると時間がかかるという問題が発生しました。さらに、フライドチキンは部位により肉厚が異なるので、同じ時間で加熱すると薄い部分の肉に火が入りすぎ堅くなってしまうという品質上の問題点もでてきました。
また、加熱に使うマグネトロンは電球のように消耗し、だんだん加熱時間が長くなるという欠点もあり、断念することにしたのです。
(3)電子レンジと熱風加熱
電子レンジだけだと加熱時間と量の問題があるので、熱風加熱を付け加えることを検討しました。
このプロジェクトに取りかかる前にピザの販売計画を検討し、色々なオーブンを検討しており、ピザ用のインピンジメントオーブンと電子レンジを組み合わせることを検討しておりました。早速それで調理を行ったが、ピザでは絶大な調理能力を誇るインピンジメント加熱も骨付きの冷凍フライドチキンを加熱することは難しかったのです。
(4)電子レンジと熱風加熱と蒸気
そこで上記の組み合わせに蒸気を組み合わせた物を計画しました。
蒸気と電子レンジ、温風加熱の3つを組み合わせした調理機器です。
特許をとったシステムでしたがうまく動かなかったのです。
電子レンジはマグネトロンが出す電磁波で食品の細胞中にある水分を振動させ、細胞同士の摩擦熱で過熱する仕組みです。
マグネトロンは水分に働く作用が強いのです。
蒸気を組み合わせた場合は食品ではなく、蒸気そのものに働いてしまい効果がなかったのです。
この機械の開発は大手家電メーカー数社と共同でおこないました。
最近、家庭用に蒸気と電子レンジを組みあせたオーブンが販売されていますが、実はこのころから家電メーカーでは研究をしていたのです。
当時は、あまりに複雑すぎるので開発に大幅な時間がかかるし、開発費の点からも断念をせざるを得ませんでした。
(5)エアーインピンジメントコンベアーオーブン
ピザの宅配チェーンを成功させたエアーインピジメントオーブンを検討することにしました。
当時K社はバーベキューチキンのテスト店で使用しており、それをヒントに実験を開始したのです。

当時の米国マクドナルド社はピザのテスト販売を行っており、エアーインピンジメントオーブンの開発も行っていました。
米国では床面積の制約の問題とコンベアー方式を嫌い、多段式バッチ・エアーインピンジメントタイプを、世界最大フライヤーメーカーの兄弟会社のガーランド社に開発をさせました。
ピザの開発でそのオーブンを見ていたので早速テストすることにしました。
両社の親会社であるウエルビルト社(現在は英国系の投資会社エノディスに買収されました)は研究所をフロリダのタンパに持っており、急遽タンパまで飛んでテストを開始したのです。
研究所を訪問して驚きました。
プロのシェフを雇っており、数人で当方の注文するピザからフライドチキンまでその場で製造し、急速冷凍してくれます。
そして、あらゆるオーブンを設置しそれらの比較テストをしたのです。
このテストキッチンで世界中のオーブンをテストし、ヒントを得ることができました。

ウエルビルト社は世界中の調理技術をモニターリングしており、日本の調理機器も並んでいたし、後に日本の調理機器メーカーが面白い自動調理機器を開発したと情報を流したら、担当役員がすぐに飛行機に飛び乗って日本を訪問したほど新型の調理機器の開発に熱心でした。
日本の調理機器メーカーとは桁の異なる開発経費と努力に驚かされたのでした。

しかしエアーインピンジメントオーブンはガス燃焼を直接庫内に入れるので、せっかく固まり色が赤くなくなった鳥の髄液が燃焼ガス中の一酸化炭素により還元され、まるで生の肉のような鮮やかな血の色がでてしまうという欠点があり採用できませんでした。
また、温風だけで調理するので表面が堅くなるという品質上の問題点も持っていたのです。
(6)コンベアーオーブンと蒸気の組み合わせ
コンベアーオーブンで加熱調理する際に蒸気を加えれば、表面の仕上がりは柔らかくなるし、調理時間も短くなるのではないかと、エアーインピンジメントオーブンに蒸気発生器を取り付けてテストしました。
確かに仕上がりは柔らかくはなるのですが、オープンな構造のため蒸気は逃げてしまい、調理時間を短縮することはできないので断念しました。
しかし、その際の技術開発はエアーインピンジメントオーブンの商品開発に生かされ、最近ではほとんどのメーカーが蒸気発生器をオプションとして発売をしています。
(7)スチームコンベクションオーブン(以下、SCOと省略)
というような苦労の連続でぶつかったのが、当時フランス料理店などで使用されていたSCOでした。
SCOは蒸気潜熱の持つ大量の熱量を使用し、冷凍食材を乾燥させることなく、急速に加熱させると言うことに気がついたのです。その際に運がよいことには、零戦のように耐久力はないが性能の良いイタリアのSCOにぶち当たったということでした。
そして、その性能チェックを行うために米国本社のテストキッチンにそれらのオーブンを並べ検証実験を開始しました。
その結果、一定の可能性を見いだし日本で開発を急ぐことにしたのです。
当初はイタリア製のレストラン仕様のSCOを採用しました。
しかし、車でいえばフェラーリのように性能はピカイチなのですが、コントロールボードがすぐ壊れたり、ドアのラッチがファーストフードの使用頻度の高さに耐えかねてがたがたになるなどの問題が生じました。
そこでやむなく、耐久力の高い米国製のSCOを採用することにしました。
丁度カナダの大型ドーム球場の店舗でホットドッグとピザを焼いている時に、このSCOを発見したのです。
この偶然見つけたSCOですが、2段重ねができるなど狭い日本の店舗にも向いていることを発見しました。

米国機器メーカーでも実験し成績が良かったので、採用を決定し発注をしたのですが、それからが地獄でした。
日本で設置し実験室でテストを開始したのですが、採用決定時には少量の冷凍フライドチキンしかテストしなかったのですが、店舗の最大売り上げを想定したフルロードをかけると、内部温度にばらつきがでるのを発見したのです。従来のイタリア製のSCOは問題ないのにこの米国製は温度が上がらないのです。既に発注をした後で、キャンセルはできません。
それから毎晩夜中になると米国メーカーの技術者と電話でうち合わせ、昼はその検証に当たりました。
そして、やっとわかったのは蒸気量が不足していると言うことでした。

通常SCOは高温で蒸気を入れて調理するコンビネーションモードの状態では蒸気量を通常の1/5ほどに低下させます。
元々SCOはフランス料理などの生の食材を美味しく食べるために開発された物であり、蒸気を沢山入れて高速に調理をしようという考え方はなかったのです。そのためスチームモードで蒸し物を調理する場合にはフル蒸気量になるが、高温の温風と蒸気を併用するコンビネーションモードでは1/5ほどの蒸気しか入れていません。それは調理法の問題でもあるのですが、温風と蒸気を同時に大量に発生させると、当初の電気式のSCOでは大容量の電気を必要とし、限られた電力の厨房では対応できなかったという理由もあるのです。

しかし、今回は冷凍食品を使うために大量の蒸気が必要で、電気タイプではなくガスタイプを採用し、電気容量を無視して大量のスチームがでるように改良する必要がありました。
そこで蒸気量をコントロールするROMのプログラムを書き換えることにしてその仕様を急遽作成しました。
もちろん、蒸気が大量にでると無駄なエネルギーを消耗するので、特殊なソフトを考案し、蒸気が無駄にならないようにしなくてはならず、数週間寝ないでその論理を組み立てたのです。

その結果は次回の<SCO仕様書>に凝縮されています。ご期待ください。

■フライドチキンプロジェクトが生んだ調理技術革命
シャープのヘルシオが家庭でのスチームレンジのブームをよんでいます。スチームと温風を組み合わせたスチームコンベクションオーブン(以下SCOと省略)はずいぶん以前から、業務用の調理機器として使われていました。元々はラショナルというドイツの専業メーカーが開発したもので、フランス料理などの高級レストランで使われていました。
私がSCOに注目したのは一旦料理して冷凍した食材を再加熱する際に、元と同じ柔らかさに仕上がるという点です。
電子レンジなどで再加熱すると肉質が硬くなるのですが、SCOは劣化が少ないのです。
ここに注目し、検証を重ねたのです。

ただし、ベテランのシェフのいるレストランで使用するSCOと、アルバイトが調理するファーストフードでは使用条件が異なります。よりタフな仕様が要求されます。また、洋食レストランでの調理の場合には生食材だし、肉を焼くことが多いためあまり蒸気量は必要でありませんが、冷凍食品を使う場合にはより多くの蒸気が必要になるのです。

ということで、市販のSCOをベースに以下のような改造を加えたのです。調理機器を開発するときにどのような仕様を決めるのか、参考にしてみてください。

■スチームコンベクションオーブン(以下SCOと省略)とは
SCOは30年ほど前にヨーロッパで考案された。コンベクションオーブン(以下COと省略。熱風を循環させ加熱するオーブン)にスチームジェネレーター(以下、蒸気発生器と省略)を付け加えたオーブンであり、3つの機能がある。
1つは、COとして、2つ目はスチーマーとして蒸す機能、3つ目は、COとスチームの組み合わせのコンビネーション(高温蒸気)である。

SCOの最大のメリットは、コンビネーションの状態での高温蒸気を利用した調理である。ここで言う蒸気とは100℃以上に加熱された状態の蒸気である。水1ccを加熱し1℃温度を上昇させるのに必要な熱エネルギーは1calである。1ccの水を氷にするには80cal、1ccの水を蒸気にし蒸発させるには539cal必要である。
つまり蒸気発生には最も熱エネルギーが必要なのである。
そして100℃以上の状態の蒸気を乾燥蒸気と呼ぶ。180℃の温度の状態でコンビネーション加熱をしているオーブンの内部を見ても蒸気は見えないのである。
乾燥蒸気は、庫内に100℃以下の調理食品が入った時そこに露結し水になる、その時蒸発潜熱の大きなエネルギーが食品に集中して伝わるので調理が早いのである。オーブン庫内のステンレス板は100℃以上に加熱されている為、蒸気は露結せずに食品のみに集中して熱が伝わるのである。特に冷凍食品を調理する時にこの機能の効果が高く、電子レンジよりも大量に冷凍食品を加熱出来るのである。

また、高温の蒸気で加熱する為、調理食品が乾燥せず歩留がよい。
COの場合歩留は75%位であるがSCOは95%位の歩留である。
電子レンジで冷凍の状態から調理したり、再加熱する時に加熱しすぎると、食品が乾燥し固くなると言う欠点があるが、SCOは蒸気で加熱する為、乾燥しにくくまた調理時間の許容範囲が広いというメリットを持っている。スチームを使用する為に、違ったものを同時に調理しても臭いが移り難く、調理中の煙の発生が少なく、同時に複数の食材を調理することが可能だ。
普通のCOだと調理後の清掃が大変であるが、SCOはアルカリの洗剤を散布しスチームで蒸した後、水スプレーで簡単に洗い流せるので作業が楽であるという利点もある。

(SCOの基本構造)
SCOは蒸気発生器と、オーブン庫内、コントロール装置で構成されている。一般的に蒸気発生器は独立したタイプであり、そこで100℃に加熱された蒸気を発生し、それをオーブン庫内に導入する。
100℃の蒸気で蒸す場合は連続での加熱のみとなり、コントロールは時間のみとなる。
真空調理などで使用する場合は、40℃から95℃の範囲で任意に温度を設定し、蒸気発生器のON、OFFで温度をコントロールする。
100℃の蒸気と言ったが、機種により95〜103℃に加熱された蒸気になっている。100℃以上の蒸気だと蒸す時間が早く且つ蒸気の回りが早いという利点がある。特に、中華饅頭などを蒸した時には表面のべたつきがなくきれいに蒸し上げる事が可能である。

コンベクション加熱の場合は、ファンにより庫内の空気が吸い込まれ、それが熱交換パイプの間を通り加熱され、庫内の食品に吹きつけ加熱する。高温の蒸気とコンベクションでのコンビネーション加熱は、100℃の温度に加熱された蒸気が、それ以上の温度のオーブン庫内に入り、熱交換パイプの間を通る事により、加熱高温の乾燥蒸気となる。飽和蒸気量は温度が高くなるに従いやや減少していく。その為、機種によっては庫内の温度が上昇すると蒸気発生量を減少させていくタイプがある。
一般的にスチームのみで加熱している時よりは、コンビネーションで加熱している時の発生蒸気量を減少させている機種が多い。
これは、飽和蒸気量以上を投入しても庫内の排気筒から余分な蒸気が逃げていく無駄を防ぐ為でもある。
ただし、これは室温や冷蔵状態の食品を調理する時に言える事であり冷凍状態の食品を直接加熱し調理する時には、大量のエネルギーが必要であり理論以上の蒸気が入った方が調理時間が短縮される。
各冷凍食品メーカーで、電子レンジに変わる冷凍食品の大量調理機器として研究されている。

■スチームコンベクションオーブン仕様書
一般的なスチームコンベクションオーブンはレストラン仕様であり、ファーストフードなどのアルバイトが使用するように簡単にはなっていません。
そこでアルバイトでも簡単に、安全に使用できるように以下の改造を加え、仕様書としたのです。

<1>メニュー数の決定 フライドチキンだけでなく、ピザ、グラタン、その他将来予測されるメニュー数に対応できるように設定する。
メニュー数や次のモード数はメモリーの容量に影響するので慎重に設定しなくてはいけない。
<2>モード 調理モードのステップの決定。モード数があまり多すぎても現場の対応ができないが少ないと複雑な加工ができない。そこで最低限2ステージの加熱モードを組み合わせるようにした。
<3>時間表示、温度表示の
ディスプレー セット温度、調理温度の表示と切り替え方法を明確に定めないと調理中の温度確認ができなくなる。
<4>スチームジェネレーターの
水の排出 水を排出する時間の管理。一般的なスチームコンベクションオーブンは一定時間蒸気を使用すると、自動的に排水してしまい、調理ができなくなるので、閉店時電源を切る時に排水するように変更。
<5>調理中の時間表示
各ステージの合計時間を表示し、カウントダウンで残り時間を表示する。その時間を見ながら次の用意や段取りができる。
<6>調理時間
標準は99時間までであったが、そんな長い時間は必要ない。レストランではなくファーストフードだから、秒単位の表示が必要だ。
<7>排気の蒸気コントロール
オーブンからでる蒸気がダクトに入ると水漏れの原因となるので、普通はウォーターミストを噴射するが、水を大量に消費するのでダクトフィルターの精度を上げ、水の使用量を削減した。
<8>オーブン内部のガス配管 米国では全国天然ガスかプロパンガスで問題ないが、日本の場合は地区によりカロリーが低くガス圧の低い地区があるので、正規の出力がでるようにスチームジェネレーターに行くパイプの径を変更する。メインのバーナーについても検討する。
<9>ファンの前のフィルターは
つけない 通常はファンの前にフィルターをつけるが空気抵抗が増えるので、清掃の頻度を頻繁に行うことによりフィルターを装着しない。


<10>オーブン下の足の高さ
は、10インチ、25.4mmとする 清掃をし易くするために米国の衛生基準NSFよりも高くする。
<11>キャスターは取り付け
ない 床が不安定であるのでキャスターをのぞく。
<12>スチームモードで
温度コントロール出来るようにする 従来の機種では60〜95℃までコントロール出来るようになっているが、今後調理品目が増加することを考え、40〜95℃と105〜300℃までコントロール出来るようにする。OVENモードでも現在は温度設定を90℃からしか出来ないが、それを40℃〜300℃の範囲で出来るようにする。
<13>電圧対策、今回は
トランスをつける 米国の高い電圧に対応するモーターに変更するのは費用がかかるので、製造台数が十分な数になるまでは別途トランスを装着して対応する。
<14>サイクルの対60とサイ
クル数が異なるとモーターの回転数に影響する そうするとファンの風量が異なり、調理時間が影響するので、ファンとファンシュラウドの径を変更を検討する。
<15>WAITライトの表示 温度が低い状態で調理をしないように設定温度よりある程度低いと点灯するようにする。
熱すぎる場合にもHOTライトを点灯させる。このあたりの警告灯の仕様はアルバイトに調理させる場合に重要であり、すべての項目を詳細にチェックする。
<16>表の表示盤には
メーカー名表示しない すべての調理機器の表示は自社の会社名のみである。
<17>トレイサイズ 標準より大型のメーカー開発の特殊サイズを利用する。テフロンはより耐久力の高い、シルバーストーン加工する。ラックの足を10mmカットする。(トレイとトレイの間隔を狭くしてより多くのトレイを入れられるようにするため。)トレイとラックはコストの安い米国で試作し日本に送りチェックする。
<18>清掃用の水スプレーを
取り付けられるようにする 閉店時に清掃を容易にするように水スプレーを標準で取り付ける。
<19>バーナーの改造 日本のガスに適合するように独自に改良を加える。
<20>スタートボタンを押した
時に音が出るようにする デジタル式の操作盤はタッチが良くないので、音を出して、確認できるようにする。
<21>米国メーカーのサービス
マニュアルの翻訳 店舗で簡単なメンテナンスや整備ができるように翻訳を急ぐ。
<22>コンビネーションモード
の状態でフルスチームが出るようにする 通常スチームコンベクションオーブンは高温で蒸気を入れて調理するコンビネーションモードの状態では蒸気量を通常の1/5ほどに低下させるが、今回は冷凍食品を使うために大量の蒸気が必要であり、フルスチームがでるように改良する。しかし、蒸気が大量にでると無駄なエネルギーを消耗するので、特殊なソフトを考案し、蒸気が無駄にならないようにした。
<23>デミネライザーの
取り付けについて スチームコンベクションオーブンの一番のメンテナンス上の問題点は、水を沸騰させる時に発生する水分中のカルシウム分の堆積である。あまりたまりすぎると蒸気発生量が落ち最悪の場合、蒸気発生機であるスチームジェネレーターを交換しなくてはならない。
そのため、普通、カルシウム分を除去するデミネライザーフィルターを取り付けるが、高価であるし、水圧が落ちて十分な水を供給できない場合がある。
この機種ではクリーンサイクルという酸性洗剤の自動注入装置を取り付け、フィルターを不要にした。

<24>安全装置インターロック
の取付
熱調理機器を使用する際には排気ダクトで燃焼空気と周囲の熱を排気するが、ダクトを作動しないで加熱調理機器を点火し作動させると高温の燃焼空気がダクト内に入り、内部に堆積した油分に着火する危険がある。
そのため、排気ダクトのスイッチを入れないと調理機器に電流が流れないようにする。ガス調理機器も電気がないとコントロールボードが作動せず点火ができないので安全だ。
<25>クリーンサイクルに
対する水圧の影響とその対策 酸性の洗剤を自動的にジェネレーターに注入する機能がついているが、水圧が低いと作動しない。
現在のポンプはベンチュリータイプで負圧で吸い込むタイプであるが、これを小型の電動ポンプに変更する。

安全対策については以下の内容をチェックした。

<1>過熱防止安全装置ハイリミットコントロール
オーブンの本体に1つ、機械式のサーモスタットをオーブン庫内に取り付け、600°Fで作動し自動復帰する。
庫内温度の温度調節用のサーモスタットはハイリミットも兼ねており、600°F以上で作動するので2重の安全性がある。
作動時にはブザーが鳴りサービスライトが点灯し気がつくようにする。
<2>スチームジェネレーターのハイリミットコントロール
電気タイプの温度センサーを取り付け、温度が水の沸点以上の250°Fにあがるとガスを消すようにする。
<3>スチームジェネレーターの空炊き防止
ローレベルとハイレベルの水位センサーを取り付ける。
1つのプローブが壊れるともう1つのプローブに自動的に切り替わり、ローとハイレベルのコントロールを1つのプローブでコントロールする、同時にサービスライトを点灯してトラブルを知らせる。2つ壊れるとオーブンの作動を止める。
<4>蒸気爆発の防止
スチームジェネレーターから水が溢れオーブン庫内に入ると熱交換機に大量の水が当たり、蒸気が瞬間に大量に発生し爆発する事があるがその対策として水蒸気の出口を熱交換機の下にして、水が直接当たらないようにした。
<5>ガスの立ち消え防止
自動復帰する。もし90秒間消えたままだと、オーブンは消えたままになり、ライトが点灯する。
<6>電圧の変動
電圧が25%下がると電源を切り、正常になると自動復帰する落雷などの事故によるコントロールボードの破損を防ぐために、2000Vの瞬間電流に耐えられるようにし、次期モデルでは4,000Vに対応する。
<7>ノイズ対策について
周囲の電気機器の作動時のノイズがコントロールボードに影響しないように米国陸軍規格のMILスペックに準拠させる。

■小道具の開発
オーブンの開発では誰でも調理できるように色々な小道具の開発が必要でした。

<1>トレーとラックの開発
チキンを再加熱するには、トレーにラックを乗せその上に並べなくてはいけません。トレーの上に直接並べて加熱すると鉄板に接したチキンの部分が、堅くなってしまいます。そこでラックを使うことにしました。
ラックの下部とトレーの間に適当な隙間がないと加熱した空気が行き渡らないので、中心温度が上がりませんが、あまり離れるとオーブンの調理能力が低下します。そこで最適の間隔を見つける作業を行いました。

また、トレイには加熱調理後大量の油や滓がたまる。
そのまま加熱を何回か繰り返すとトレイに付着した油分が固形化し、とれなくなるという清掃上の問題が生じます。
また、再加熱した鳥をラックから取り出す際に、ラックの網の部分に衣が付着しはがれてしまいます。丁寧にやろうとすると時間がかかってしまいます。
油で揚げる際には油がくっつくのを防ぐわけですが、焼く場合にはそうもいきません。そこでトレイとラックにテフロンコーティングをすることにしたのですが、ラックの網の部分のテフロンコーティングが長持ちしないという問題を抱えました。劣化したら再度コーティングをすればよいのですが、コスト的に見合いません。そこで、苦労してテフロン素材を取り付ける手法を開発し、耐久力を持たせることに成功しました。

次に問題になったのは鳥の部位の大きさが異なり、オーブンの風が均等に当たらないので、温度ムラがでるという問題点でした。
そこで試行錯誤しながら部位による並べ方を作り上げたのです。

オーブンで加熱したトレイを取り出す際には熱いので、断熱のグローブをはめるのですが、家庭用などの布製では、油や水で濡れると、断熱効果がなくなり火傷をしてしまいます。
そこで、溶鉱炉などで使われる工業用の300℃まで耐えられるシリコンゴムの高価なグローブを探し出しました。

<2>清掃
新型の調理機械を導入するに当たっては内部の清掃も簡単にできないといけません。
従来のオーブンクリーナーでは十分でないので、独自に安全性の高いクリーナーと仕組みを考案しました。
スチームジェネレーターのカルシウムスケールの除去には独自に酸性の洗剤を開発したのです。
<3>マニュアル
新メニューなので社員用とアルバイト用の詳細なマニュアルと、店舗導入に当たってのチェックリストも作成しました。
<4>メンテナンス体制
調理機器は必ず壊れる物であり、店舗の社員が簡単に修理できるようにメンテナンスマニュアルを作成すると同時に、全国での業者によるメンテナンス体制とパーツの供給システムの構築を行いました。

■結論
SCOを使ったフライドチキンプロジェクトの完成と実験には2年間を費やしました。結果はK社の新鮮な雛鳥を入手できず、また、美味しい米国の鳥を使う時間も無いという品質上の問題と、さらにはマーケティング上の混乱と言う、2つの問題から販売実績としては失敗に終わってしまいました。
しかし、工場におけるフライドチキンのライン化とSCOを使う調理方法は色々な分野で新商品を生み出すことに成功しています。この工場で加熱処理をした鳥は今でも食品スーパーやピザの宅配で使われているのです。
東南アジアのマクドナルドでは工場で加熱処理をしたフライドチキンを真空パックし、店舗でそのまま解凍加熱する手法を考案し実用化しました。

基礎研究から真剣に行うと色々幅広いデータを蓄積でき、それを他の食材に応用することにより調理技術の合理化に役立つのだという貴重な原理原則を述べたのは幸いでした。

この実験は実は世界の調理技術家から注目を浴びました。
マクドナルドのように3万店舗を超えるような企業では店舗の調理は最終製品の品質のバラつきを発生させるので、工場で精密加工した食品を店舗で再加熱する手法が最終ゴールです。
そのためには工場の加工から店舗での加工まで精密に組み立てる必要があるのです。
その最初の取り組みがこれだったのです。私の開発した手法はマクドナルド本社だけでなく、競争相手であったターゲット商品を扱っている世界最大手のフライドチキンチェーンのK社にも注目されたのでした。
■マクドナルドの調理技術の歴史

現在のマクドナルド・コーポレーションはシカゴでレイ・クロック氏が創業しました。レイ・クロック氏はマクドナルド・コーポレーションを創業する前は、シェイクのミキサーを販売していました。
ロサンゼルス郊外のサンベルナルドという町から大量のシェイクの注文があったので、興味を持ったクロック氏がお店を視察しに行って出会ったのがマクドナルド兄弟の作ったハンバーガーショップだったのです。

そして、感激したクロック氏はマクドナルド兄弟のハンバーガーショップのフランチャイジーになり、シカゴ郊外に1号店を開店し、後に兄弟からマクドナルドハンバーガーのノウハウと商標を買い取ったのです。
その1号店は現在でも博物館として保存されて公開されています。

クロック氏は東欧出身のボヘミアンで、元々はピアノの演奏家でした。
シカゴは古い町でヨーロッパからの移民が多く居住し、それぞれの出身国の人たちでコミュニティーを作っていました。いまだにボヘミア料理の店が多いのもシカゴの特徴です。ボヘミア料理で有名なのはソーセージで、その影響か、シカゴには有名なシカゴ・スタイル・ホットドックがあります。
ニューヨークのホットドックはグリルで焼き上げますが、シカゴスタイルは蒸しあげるのが特徴です。
JTが以前提携して日本で数店舗出店した、ポチュロというホットドック屋がシカゴで最大のホットドックチェーンです。
さて、クロック氏はマクドナルド創業後、シェイクのミキサーを製造していた会社を買い取り経営者になり、マクドナルドの調理機器を供給するようになったのです。
このシリーズの第一回目でご説明しましたが、マルチミキサー(Multimixer)を製造していたプリンス・キャッスル社です。後にその会社は独占禁止法を考慮し経営権を手放しましたが、調理機器の会社を経営した経緯から氏は調理機器の開発に大変興味を持っていました。
http://www.princecastle.com/

マクドナルド兄弟はテニスコートに機械のレイアウトを書き、作業導線の研究をして作り上げた店舗はデニーズなどのコーヒーショップの厨房に良く似ています。異なるのはコーヒーショップの厨房は調理場で調理するコックはカウンターにいる客に背を向けて調理をしていることです。コーヒーショップでは客が店舗に入ってから、ウエイトレスに注文を告げ、ウエイトレスがその注文をコックに伝え注文伝票をカウンターの上のクリップに止めます。コックはその注文を背中越しに聞き、時々カウンター上の伝票を確認します。
マクドナルド兄弟は、若い女性ウエイトレスを目当てにくる若いティーンエイジャーを排除して、健全なハンバーガーショップに仕立て上げようと、従業員全員が男性のセルフサービス店舗を作り上げたのです。
マクドナルド兄弟の最大の功績はセルフサービスのハンバーガーショップに仕立て上げたことです。
通常のコーヒーショップの売り上げは客席のキャパシティで決まります。
注文してから作り出すと調理に15分ほど必要です。
そして客席にのんびりと座って連れとお喋りをしながら食べるとあっという間に1時間経過します。客席が100席あれば、1時間に最大100個のハンバーガーしか売れません。
そこでマクドナルド兄弟は、ハンバーガーを売り上げ予測に基づいて製造しておき、紙ペーパーに包んで保温し、客が注文をしたら直ちにサービスする仕組みを作り上げました。この仕組みにより客席に縛られない大きな売り上げを得ることが可能になったのです。

この仕組みの最大のポイントは客の来店を予測して、忙しくなったらあらかじめハンバーガーを調理して包装しておくことです。通常のコーヒーショップのように客に背を向けて調理していては迅速な対応ができません。
そこでコックが、客が入ってくる入り口に向いて調理をできるようにしたのです。
そのためにはハンバーガーパティを焼き上げるグリドルの向きを変える必要があります。それを実現するために特別な低い排気フードを開発したのです。
実はマクドナルド兄弟が開発した最大のポイントはコックが客を見ながら調理できるようにすることでした。

日本ではマクドナルドは何か特殊な規格を持っているように思われますが、マクドナルドで使用している食材はごく普通のものです。
たとえば通常、ハンバーガーのミートパティの重さは約45gで、バンズの直径は約10cmです。
これはマクドナルドが開発した規格ではなく、米国の一般的な食材規格なのです。45gというのは1/10ポンドのことで、1ポンドのひき肉から10枚のハンバーガーパティを作ることから決まりました。バンズの直径は4インチという一般のバンズ規格そのままなのです。今でも米国の食品スーパーに行くとマクドナルドで使っているのと同じサイズのバンズやミートパティを買うことができるのです。

マクドナルドで使っていたグリドルやフライヤー、シェイクマシンも当初は通常の市販品を使っていたのです。
しかし、マクドナルドのハンバーガーの人気が高まるにつれ、売り上げはどんどんあがってきました。客席にサイズに縛られないテイクアウトのセルフサービスのお店はものすごい売り上げを記録するようになったのです。
そこで、すべての調理機器とレイアウトの見直しをすることにしました。
そこで、クロック氏の同郷の天才エンジニアーがジム・シンドラー氏をマクドナルドの機器開発部の責任者に任命したのです。シンドラー氏が調理機器や厨房のレイアウトで果たした実績は大変なものでした。
このシリーズ第2回目でも述べましたが、現在マクドナルドで使用しているクラムシェルグリルは元々シンドラー氏が開発した自動調理器の開発が原点です。
シンドラー氏の目標は、調理機器は自動化し、レイアウトは交差導線をなくすことでした。その点で、マクドナルドのライバル、バーガーキングの厨房の方がはるかに優れており、シンドラー氏はそれらの仕組みを詳細に分析し、マクドナルドでどのように取り入れるか研究をしていったのです。

では、ハンバーガーの調理方法をちょっと見てみましょう。
ハンバーガーの調理にはグリドルと、バンズトースター、作業テーブル、ホールディングビンと言う調理機器を使用します。その他、フライヤー、飲物のシェイクマシン、コークディスペンサー、コーヒーマシンなどです。

ミートパティの調理方法は2種類あります。
鉄板タイプのグリドルを使用するのが、マクドナルド、ウエンディーズ、ハーディーズ等のハンバーガーチェーンです。グリドルは簡単で、朝食メニュー等の卵料理などを調理でき、汎用性が高いので最も一般的に使用されています。
また、厚さの異なるミートを焼く場合でも、時間を長くすれば良いのでメニューの多角化には向いているのです。しかし、グリドルの場合は片側を焼いた後ひっくり返す必要があり、重労働で調理時間が長いという問題があります。

もう一つのミートパティの調理方法は伝統的なバーベキュー直火タイプです。
米国で春になり天候が良くなると公園や家の庭でバーベキューグリルに炭をいれ、食品スーパーでパンズとミートパティを買ってきて、焼きたてのハンバーガーを楽しみます。米国で本格的なハンバーガーというと炭火焼のことになります。

この伝統的なバーベキュースタイルの調理方法を取り入れたのが、ハンバーガー業界第2位のバーガーキングです。
炭は温度が安定しないのでガスグリルで焼き上げることにしました。でも通常のガスグリルのチャーブロイラーはグリドルと一緒でコックが片面が焼けたらひっくり返さなくてはいけません。そこでバーガーキングはガスグリルにコンベアーを組み合わせて、上下から自動的に焼くシステムを考案しました。このコンベアーグリドルを使用するのは、バーガーキングとカールスジュニアーです。米国人は本格的な炭火焼のバーガーキングの味を高く評価するようになりました。http://www.nieco.com/
もう一つの違いはハンバーガーの提供の仕方です。
マクドナルドは来客数を予測して、あらかじめハンバーガーを焼き上げて包装しておきます。しかし、10分を過ぎても売れないと廃棄処分にして、常に焼きたての熱々のハンバーガーを提供できるようにしました。
この仕組みはホールディングシステムといい大変良い仕組みですが、ピクルスやオニオンが嫌いだから抜いてくれという客の要望に応えることはできません。
また、マクドナルドの当初はハンバーガーとチーズバーガーの2種類で、作り置きをしておいても廃棄のハンバーガーはあまり出なかったのですが、ビックマック、フィレオフィッシュ、大型のクオーターパウンダー、などの追加により、予測生産がうまくいかず、廃棄処分が多くなるか、客を待たせるという問題にぶつかりました。

バーガーキングはあらかじめバンズとミートパティを焼き上げておき、それを別々にスチーマーという蒸気保温庫に保管することにしました。
そして客の注文に基づいて、バンズとミートパティを組み立て、客の要望するピクルスやケチャップ、オニオンを加えるようにしました。そして包装したハンバーガーを軽く電子レンジで数秒過熱して熱々の状態で提供することにしました。
このフレキシブルな仕組みは大成功し、バーガーキングはマクドナルドの売り上げに肉薄してきました。

それに対抗するためにシンドラー氏はミートパティの自動調理機器を開発し、それが後にミートパティを上下から挟んで同時に焼くという、クラムシェルグリドルの開発につながったのです。
次にバーガーキング方式のスチーマーに対抗するためにより高性能なステージングシステムを開発したのでした。


■マクドナルドの調理技術の歴史/蒸気保温技 その1
シンドラー氏が蒸気技術に注目したのは卵焼きの技術開発です。
シンドラー氏が研究していたクラムシェルの開発につながった、全自動型のハンバーガー自動焼成機でしたが、コストが高いことと、当時開発が進められたスクランブルエッグやエッグマックマフィンなどの卵を使う朝食メニューに対応できないことが重なり断念しました。卵料理を作るためにはグリドルの温度を下げて時間をかけて調理をしなければならず時間がかかります。特にスクランブルエッグは熟練が必要です。

そこで、シンドラー氏が注目したのが蒸気です。
高温高圧の蒸気を卵に吹きかけて攪拌させるとアッと言う間にスクランブルエッグができるのです。この時に開発を依頼した企業が「Groen」と言うシカゴに本社工場がある蒸気釜の会社でした。
蒸気釜は高圧の蒸気で大型の回転釜を加熱させる仕組みで、炒め物やスープを作ることができます。
http://difc.difoodservice.com/groen_photolibrary.html

この高圧蒸気の技術で卵料理を作り、将来は全自動型のハンバーガー自動焼成機と組み合わせて自動化をしようと言うものでした。結局はこの時点では商品化されなかったのですが、この技術はエッグマックマフィンなどで使う目玉焼きの焼成機の開発につながりました。そしてこの蒸気の技術を受け継いだエンジニアが開発したのが、バーガーキングに対抗する高精度蒸気保温庫だったのです。

余談ですが、フライドチキンプロジェクトで最終的に使用したスチームコンベクションオーブンは実はこのGroenと言うメーカーだったのです。
Groenのエンジニアたちはシンドラー氏のプロジェクトを覚えており、大変懐かしい思いをしたものです。

さて、蒸気保温と言うと簡単なようですが、蒸気の原理を理解しないといけません。バーガーキングで使用していた蒸気保温庫は温度と絶対湿度の組み合わせで蒸気を保つようにしていました。
保温と言うと、調理済みの食品を60℃〜70℃で保温すればよいように思いますが、その状態で保温しても料理はどんどん冷めるだけではなく、乾燥してぱさぱさになります。
通常、調理済みの食品の水分含有量は70%前後です。その調理済みの食品を70%以下の蒸気量の場所に放置すると、60℃〜70℃の温度帯であっても食品から蒸気が出て冷めてしまうのです。つまり、保温のためには温度だけでなく、適度な湿度が必要です。
湿度が必要であると言っても100%の飽和蒸気の状態に置くと蒸気で料理がべたべたになっておいしくなくなります。適度な蒸気が必要なのです。
と言うことで、まず、蒸気を使う蒸し器、スチーマーの研究をしようと言うことになりました。
(1)スチーマーの原理と歴史的背景
日本の食品の調理には煮る、焼く、揚げる、蒸すの4通りがあります。
その中で、蒸すという調理法は古くからあり、和菓子や、赤飯、芋等を蒸すのに使われていました。中華の点心を蒸すのも同じ方式です。古くからある調理方法の為に、鍋に湯を沸かしその上にセイロを置くという、簡単な蒸し器が多いのです。

スチーマーで使う蒸気というのは100℃の気体の蒸気です。蒸気で加熱すると早く調理ができるのは、蒸気が持っているエネルギーが大変高いと言うことです。1gの水を1℃上昇させるのに1calの熱量が必要ですが、100℃の11gの水を気体の蒸気にするのには539calの大きな熱量が必要なのです。
この蒸気が持つ高いエネルギーを蒸発潜熱と言い、この蒸気潜熱が食品を急速に加熱するのです。
100℃以上の蒸気の事を乾燥蒸気と言います。
単純な蒸し器の温度は正確には95℃位にしかならず、蒸気中の気体の水より液体状の水の方が多いのです。これを湿った蒸気と言います。従来の蒸し器は、乾燥蒸気と湿り気蒸気が混ざった状態にあるのです。
これが悪いのではなく、従来の食品にはこの状態の方が食品の表面が乾かず柔らかく仕上がるのという利点があったのです。特に中華点心の場合には湿り気の多い蒸気が必要です。

ところが、冷凍食品を解凍加熱するのにスチーマーを使用するようになると問題が出てきました。冷凍の麺や米飯類ですね。この場合、湿った蒸気では食品の表面が濡れてしまい、品質が良くないということで100℃以上の高温の乾燥蒸気の必要性が出てきたのです。
マクドナルドでは以前から、バンズを蒸す為に、簡単な蒸気を吹きかけるバンスチーマーを使用していました。その簡易スチーマーは所詮簡易スチーマーの為、調理済みの食品を解凍するには品質が安定しませんでした。
欧米では、蟹や海老を高速で蒸す為に、圧力型のスチーマーを使うというのが多かったのです。しかし野菜を蒸す場合に、温度が高すぎると色が変わったり、栄養素が減少するという問題を抱えています。また冷凍食品を加熱調理するのには能力が不足するので、最近は常圧の蒸気発生器と常圧の庫内の組み合わせのスチーマーが一般的になってきました。

では、スチーマーの構造を勉強してみましょう。
(2)スチーマーの構造
原始的な蒸し器は鍋で湯を沸かし水を沸騰させ蒸気を発生させます。
その鍋の上に食品を入れたセイロを乗せ蒸すのです。
蒸気を発生させる鍋の事をスチームジェネレーター(以下、蒸気発生器と省略)と言い、セイロをスチームチャンバー(以下庫内と省略)と言います。
(3)スチームジェネレーター(蒸気発生器)の種類
<1>蒸気の温度
100℃以下の湿り気蒸気と100℃の蒸気、100℃以上の高温の加熱乾燥蒸気の3種類に分かれています。
和菓子、野菜等の従来の蒸し物は100℃以下の湿り気蒸気の方が品質が良いのですが、中華饅頭等の場合には皮によりますが100℃のやや乾いた蒸気の方が向いています。しかし、小篭包等の場合には皮が異なり、95℃位の湿り気蒸気の方が良いという違いがあるのです。
冷凍の麺や米飯は120℃以上の乾燥蒸気の方が仕上がりが良く、調理時間が早くなります。
このように調理食品により適した蒸気は異なるので、用途に適した蒸気温度を発生出来るスチーマーを選定する必要性があるのです。
<2>常圧と加圧
常圧の蒸気と(大気圧)加圧の蒸気があります。
蒸気を発生する際に加圧されているタイプと、常圧のタイプです。加圧の場合、圧力により蒸気の沸点温度も変わってきます。
<3>内蔵型と別体型
また、蒸気発生器が一体になっている、セルフコンテインタイプと、蒸気発生器が別のダイレクトスチームタイプがあります。
欧米では、厨房機器の加熱をスチームで行う例が多いのです。
例えば、スチームケトル(蒸気釜)とか、フライヤー等の加熱を別置きの蒸気発生器で発生した蒸気で行います。ケトルとかフライヤーは100℃以上の加熱が必要ですので加圧の蒸気発生器を使用します。
大型の蒸気発生器を加圧し大量の高圧高温蒸気を発生させ、それを各機器に供給するのです。各機器の温度は異なるので、それぞれの機器に合わせた温度になるように圧力を減圧し供給します。蒸気発生器は厨房の外に置き加熱するので、厨房の温度環境が良くなると言うメリットがあります。
<4>簡易蒸気発生器
蒸気発生器は一般的に鍋状の底をガスバーナーで加熱するか、内部に電気ヒーターを入れて加熱するものが多いのです。最近金属盤を加熱しそこに水をスプレーし蒸気を発生させるタイプが出てきました。
このタイプも、常圧タイプ、加圧タイプ、100℃以下、100℃、100℃以上の高温乾燥蒸気、一体型、別体型等にに分かれています。また加熱方法は電気が殆どですが、電気でも電磁誘導加熱のタイプも出て来ています。
(4)蒸気発生器の能力
蒸気発生器は、電気加熱とガス加熱に分かれます。
電気ヒーター加熱の場合は熱効率の差が余り無いので、ヒーターの電気容量の絶対値が能力の差になります。
蒸気発生器のヒーターの電気容量を庫内に入る深さ6cmのスチームパンの数で割ってみて、その数値が大きい方が能力が高いと言えるのです。
電気加熱でも電磁誘導加熱のタイプがありますが、熱効率は同じ位であるので電気容量の絶対値を見れば良いのです。

ガス加熱の場合には、熱効率が30〜75%位と差が大きいので実測する必要があります。庫内に水をいっぱい入れた、深さ6cmのホテルパンを、棚の数だけ入れます。それを5分間位蒸気加熱し、水が何度温度上昇したか計測します。それに水の合計の量をかければ、アウトプットのカロリー数が出るのです。それをその5分間に消費したガスの消費量とそのガス種のカロリー数をかけた物で割れば熱効率が計算出来ます。
この場合、蒸気発生器を事前に加熱して、すぐに蒸気が出てくるようにしておかないとデータに差が出ることに注意してください。
ただ、普段使っていない状態からスイッチを入れて加熱すると、蒸気発生器の立ち上がりの善し悪しも判断になるので、ファーストフードのように常時スチーマーを使用する場合には必要なチェック方法であります。
(5)蒸気発生器のメンテナンス上の問題点
スチーマーの性能を大きく左右するのが蒸気発生器の信頼性と、清掃のし易さです。蒸気の発生の課程で、水分中のカルシウムやマグネシウム等が濃縮され、底や熱交換パイプに沈澱固着し、熱交換の効率を落とすようになります。清掃をしないでおくと、蒸気の発生が少なくなり、最悪の場合には蒸気発生器交換の必要がでて大きな費用が発生します。
また、水分中の塩素化合物殺菌材が濃縮され、高い温度で加熱されていると、錆びないはずのステンレスも腐食し穴があいてしまうという問題が発生します。これをストレス・コライド・コロージョンと呼び、熱が急にかかったり、ムラがあったりすると腐食が加速されます。

特に、加熱した鉄板に水をかけて蒸気を発生させるタイプではこの問題が発生し易いのです。蒸気発生器が加圧タイプの物もこの問題があり、更に規定圧力以上になった時、圧力を逃がすプレッシャーリリーフバルブの作動の安全性の問題もあるのでよく注意しないといけません。
これを防ぐ為には、一定時間使用したら排水する必要があるので、特に自動的に排水されるようになっているかは、重要な選定の基準です。
排水する事によって、塩素分の濃縮を防ぐ事は出来るのですが、カルシウム、マグネシウム等の固着は防ぐ事は出来ません。
これを清掃するには、酸性の洗剤で定期的に洗う必要があります。
その為には、洗剤を注ぎ込む口が開いていなければならないのです。
特に地方で井戸水や湧水等の硬度の高い水を使用する場合は、かなり慎重に機種を選びましょう。

メーカーによっては水のフィルターを取り付ければ良いと言いますが、店舗では忘れがちです。
フィルターには軟水フィルターと活性炭フィルターがあります。
前者は硬水分を取り去り、後者は塩素分を取り去る働きです。
蒸気発生器には両タイプのフィルターが必要ですが、メーカーにより効力が異なり、また交換時期も異なるのでよく確認しましょう。
蒸気発生器の状態が正常かどうか判断するには、いつも朝点火してから何分で蒸気が出てくるかを記録しておくと良いのです。
また安全装置として、水位が下がった時にバーナーを止める空炊防止センサー、バックアップの水位センサー、それでも空炊きした時の為に空炊き防止用の温度センサー等はついていないといけません。
(6)庫内の種類
<1>庫内圧力
蒸気の圧力が、常圧と加圧している物とに分かれます。一般的には常圧の物が多いですね。加圧してあると温度が高く良いように思われますが、構造上蒸気量が不足し、冷凍食品のように熱量が必要な場合に向いていないと言う問題と野菜を蒸した時に変色したり、ビタミンが破壊されると言う問題があるので、余り一般的ではありません。
<2>庫内の温度コントロール
庫内の温度コントロールが出来る物と、一定の物があります。
一般的にスチーマーは100℃ですが、冷凍麺等では100℃以上の高温の乾燥蒸気を使った方が早く解凍加熱出来品質が良い場合があります。
また、真空調理の加熱の場合、60〜70℃の温度で正確に蒸気加熱する必要があり温度コントロール出来ると良いのです。
<3>庫内をファンでかき回すタイプ
スチーマーの庫内は、十分なスチーム発生量があれば温度ムラや、蒸気ムラはないはずですが、近年スチームコンベクションオーブンの影響で高速調理をする為にファンを取り付けているスチーマーがでてきました。
(7)庫内の耐久性
ドアガスケット、ドアラッチの耐久性は重要ですね。
ドアのガスケットの密閉性が不十分だと蒸気が漏れ内部の温度ムラができ調理にばらつきが出ます。特にガスケットは一体成形ものが望ましく、その材質形状、交換のし易さは大事な選定のポイントです。特に外からみて、蒸気がシュウシュウいって漏れてそれを止められないような機種は問題外です。
ドアラッチの耐久力も大きな問題であり、弱いと蒸気漏れの原因になります。
ドアラッチは丈夫であれば良い訳ではなく、横の熱膨張に対してフレキシブルでないとかえって、ラッチをゆるめる事になるのです。
ドアを軽く押しただけで閉まるタイプの方が作業性が良いですね。ドアを開けた時は安全の為、加熱が止まるようにする為に、ドアスイッチが設けられています。マグネット式のドアスイッチの方が機械式のドアスイッチより耐久力が高いのです。
(8)各種スチーマーの説明
<1>バンスチーマータイプ
ハンバーガー等のサンドイッチは、バンズと具の肉や魚等が同じ柔らかさでないと、味と歯切れが悪くなります。その為、肉の場合のバンズはトーストしますが、魚のフライの場合はスチーマーで蒸すのです。
この場合蒸すといっても常温のバンズを蒸すので、そんなにパワーは必要でありません。以前は電気ヒーターを鋳込んだアルミの鋳物を耐熱ゴムパッキンで蒸気が漏れないようにし、そこに水を入れ蒸気を発生させましたが、水の硬質分が鋳物の水路の部分に溜まり、しょっちゅう分解清掃せざるをえませんでした。この分解掃除が、私が機械の分解や修理に強くなったきっかけでした。
そこで、パッキンを無くし、ヒーターを鋳込んだ皿状のアルミ鋳物に、細かく穴のあいたテフロンチューブを通して、水をそそぎ込むことにより均等に蒸気を発生させるようにしました。勿論、皿状の部分に硬質分のスケールは溜まるが簡単にバラして清掃出来るし、テフロンチューブに溜まった硬質分は、柔らかいテフロンチューブを曲げることにより簡単に剥離するのです。
私は米国の工場でこれを見た時に大変感激し、その場で購入し日本まで重いのも構わず下げて帰ってきたくらいです。
最近このスチーマーを冷凍のスパゲッティの解凍加熱に利用しようとしていますが難しいですね。元々常温のバンズ用に設計したもので、蒸気は間欠にしか出ず、また蒸気温度もやや低いのです。その為ヒーターの電気容量を増加したりしていますが、冷凍の麺を解凍するには、素材の工夫も必要なようです。
<2>高温の冷凍麺用のスチーマー
上記のバンスチーマーを冷凍麺に使用するのには無理があることに気がついた冷凍食品メーカーが、160〜180℃の高温の蒸気が出る、スーパースチーマーを開発しまた。
常圧の蒸気発生器で発生した蒸気は高温のハロゲン加熱ヒーターを通って160℃以上に加熱され庫内に入ります。庫内には更にヒーターがあり、庫内の内部のステンレスを100℃以上に加熱しています。庫内に入った高温の蒸気は食品にのみ集中して集まり、短時間に加熱する事が出来るのです。特に冷凍麺、冷凍米飯の解凍調理の品質は大変高いものでした。
問題点は、水処理をきちんとしないと蒸気発生器がすぐに壊れてしまう事と、冷凍の麺や米飯しか調理できないにしては値段が高いという事であり、まだ余り売れていないとの事でした。
この機器は、業務用のアイロンメーカーが、蒸気アイロンの原理を活用し開発したものです。
蒸気発生器で高圧高温の乾燥蒸気を発生し、それを庫内の加熱した鋳物に導き、乾燥した高温(160℃位)の蒸気を食品に吹きかけ、冷凍麺の場合で1分間で加熱出来るというものです。
現在はこのタイプが改良を重ね、コンベアータイプも開発し、市場に出回っています。
このスチーマーの問題点は、蒸気発生器は加圧タイプであり、内部の清掃がしにくいので、必ず軟水フィルターを使用しなければならないという事です。
軟水フィルターは一定量の水を処理したら効力がなくなるので、定期的に交換する必要がありますが、チェーン店のように従業員がしょっちゅう異動する場合は忘れがちであるので注意しましょう。
このタイプの冷凍麺用のスチーマーは各社出ているが、選定の際には、ヒーターの加熱能力が十分にあり、蒸気発生器の清掃が簡単にでき、安全であるか確認してください。
<3>一体型の圧力式スチーマー
蒸気発生器が庫内と一体になったタイプで、電気とガス式の両方があり、使用する前に庫内に一定量の水を入れ、食品を入れたスチームパンを中に入れて扉を密閉し、スイッチを入れます。スイッチを入れるとヒーターが作動し、水を加熱し始めます。
庫内は密閉されている為、蒸気の圧力は2気圧まで上昇します。
温度は約126℃位になります。
加熱の途中に圧力が蒸気で上がるのを利用し、内部の空気を排出し、庫内を純粋なスチームのみにして効率を高めるのです。庫内の圧力は圧力センサーが感知し、ヒーター作動を断続し圧力を一定に保つようにします。
蒸気は食品に当たると露結し水に戻り、また蒸発を繰り返す。
このスチーマーは圧力をかけた蒸気の沸点を上げる事により加熱調理を早くする方法で、スチーマーというよりスチームコンベクションオーブンに近い存在です。
特に向いているのは、蟹や海老等の殻のある食品であり、高速に調理が出来るのです。ただ蒸気量が少ない為に、冷凍食品を調理する場合には普通のスチーマーより遅く、温度が高いのでほうれんそう等の青い野菜は変色したり、ビタミンがなくなるという点に注意しましょう。
<4>高圧の蒸気発生器と常圧の庫内の組み合わせ
この組み合わせは従来アメリカで一般的に使われていました。
高圧の蒸気を使うのは、蒸気をケトル等他の高温用の機器に使用する為で、スチーマーの庫内に入る時には蒸気を減圧し、常圧のスチーマーとして使用します。高圧の蒸気は距離があっても安定して供給出来るので、熱源として広く利用されており、大きな食品工場の加熱に利用されています。このスチーマーは庫内に食品を入れ、スタートスイッチを押すと、初めてスチームが庫内に出てきます。庫内に入ったスチームは、100℃以下の物を全て100℃になるまで加熱するので、食品と同時に庫内のステンレス板を加熱する。
その為、食品の加熱が開始されるまでに3〜5分間位かかるので、冷凍麺等の調理には不向きです。食材の事前調理用であり、ファーストフードのように常時使用するには向いていないのです。
大きな問題点は、蒸気発生器のメンテナンスが大変であるという事です。
加圧型の為、内部の清掃が簡単に出来ないので、外部の清掃業者に頼まなければならずコストが高いのです。
壊れて交換する場合には更に高いという問題点も抱えています。
<5>常圧の蒸気発生器と常圧の庫内の組み合わせ
<4>のスチーマーの問題を解決するのはスチームコンベクションオーブンで開発した、常圧の蒸気発生器と庫内の組み合わせです。
ガスと電気の両タイプがあり、ガスは床置きで庫内は2段重ねタイプです。
電気は床置きとカウンター置きタイプの2種類あります。
蒸気発生器はスチームコンベクションオーブン(以下SCOと省略)と同じ形状です。SCOをスチーマーとして使用する際には95℃で蒸気発生器はスタンバイしており、スタートスイッチを押した時に、加熱が開始し2分間で100℃の蒸気を発生します。100℃の蒸気は、まず庫内のステンレス板(95℃に保たれている)を100℃まで上げ、それから食品を加熱するので冷凍麺には向いていませんでした。
SCOを開発する時の一番の問題がこの応答性で、やむなくプログラムを全て書き換え、スタンバイモードで常時100℃で僅かに蒸気を発生するようにし、庫内には僅かな量の蒸気を導入し、庫内を100℃に暖めておくようにしました。そうする事により、スタートスイッチを押すと同時に蒸気が大量に発生し、庫内に入ってすぐに食品を加熱する事が出来るようになったのです。
その為にSCOでありながら、冷凍麺を解凍加熱出来るようになったのです。
SCOを冷凍麺で使用するにはこのプログラムのある機種でないと駄目なので注意しましょう。
このSCOのプログラムを活用したのがこのスチーマーでした。
ただSCO用のプログラムでは高価すぎるので、ある特殊な方法により安価に実現し、スタートスイッチを押してからすぐに蒸気が発生し、冷凍麺も調理出来るようになったのです。
SCOの技術的なフィードバックとしてファンを使い、庫内の蒸気をかき回す事により調理時間を更に短縮出来るようにしています。
蒸気発生器のメンテナンス対策としては、庫内への蒸気の導入孔が大きく硬質分で塞がる事がないようにし、更にそこから酸性の洗剤を容易に投入する事が出来るようにしています。また、スイッチを切ると蒸気発生器内の水が自動的に排出されます。毎日清掃すれば問題はありませんが、忘れて硬質分が溜まった場合は清掃警告ランプが点灯するようにしました。
このようにまずスチーマーの種類を分類し、その作動原理を詳細に分析したのです。

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<追伸>
過去数回フライドチキン調理のお話をしましたね。
それを読んだ海外の方が私を訪ねてきました。そして、彼らの開発した揚げないフライドチキンを評価して欲しいと依頼されました。
その機械はオーストラリアの人が15年ほど前に発明し、その特許を取得し機械を作ったので評価をして欲しいと言うものです。

油で揚げるフライ料理は簡単で早く大量に調理できるので大人気です。
しかし油はカロリーが高いという健康の問題と、油がコレステロールを増加させると言う懸念があります。
パン等を作るときには口当たりを良くするために大量のバターを使うのですが、バターは高価なため、動物性の脂や植物性の油に水素を添加して安定性をましたショートニングを使います。バターは美味しいのですが動物性の油脂ですからコレステロールがたまると言う懸念があり、植物性の油脂に水素添加をしたマーガリンを使うようになりました。植物性だから体に良いと長年使われていました。ドーナツなどは植物性のショートニングで揚げます。ドーナツの重量の3割ほどは油です。揚げたあとその油がべとべとしないように常温では固形化するショートニングを使うのです。パンも同じです。

マーガリンとショートニングは製造的には水素添加によって液状の油をバターやラードのように低温で固まる硬化油に改造した油脂分で、マーガリンは人造バター、ショートニングは人造ラードと言われていました。
マーガリンとショートニングの脂肪酸は、トランス脂肪酸(trans fat)と呼ばれています。この脂肪酸が健康によくないとする研究が最近、欧米で高まっています。ヨーロッパでは国により禁止をしているようです。
フライ料理の多い米国でも問題になり、表示義務が出てきて、マクドナルドはこの槍玉に上がり困っています。
http://www.getwell.co.jp/tr.htm
http://www.jccu.coop/news/syoku/syo_050413_01.htm

また、最近は炭水化物を多く含むイモ等を揚げることにより、発癌性のあるアクリルアミドが生成されるという発表があり、高温で長時間調理することがいけないのではないかと言われ、これもマクドナルドで一番人気のフレンチフライに大きな打撃を与えています。
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/11/tp1101-1.html

また、油の酸化の問題があります。
徳川家康の死亡理由は、大好きな魚の天麩羅を食べて、酸化した油で食あたりをしたのが原因だと言われているように、酸化した油を食べると食あたりを引き起こします。そこで、現在の日本では、お惣菜などの持ち帰り食品で使用する油の酸化基準(AV値)は2.5、飲食店で3.0という厳しい基準を設定しています

以前、米国の酸化テスターで油の管理をしようと思ったところ、米国の酸化モニター自体が2.5や3.5を計測できなかったことから、米国ではAV値5〜7が交換基準と推定されました。全店の調理をチェックし、使用した油の酸化値をチェックし、食あたりのクレームとの関連を調べました。その結果、食あたりを引き起こすのは酸化値8以上ではないかと推測され、日本の基準が厳しすぎるのが何故なのかを調べたことがあります。

日本の厳しい酸化基準は昔、インスタントラーメンなどのような保存期間が長い揚げ物で、酸化した油が原因で食あたりを起こしたことが理由のようでした。
そこで、基準を設定する際に最も厳しい基準を定めているドイツを参考に定めたといわれているだけで、その他に具体的な根拠がないのです。
しかし、一旦基準が決まると保健所のチェックで指摘されるので、日本は独自のテスターを開発したのです。

さて、このように油の健康に対する懸念は年々高まっています。
その環境の中で、油で揚げないで揚げ物を作れる機械を作ったと言うのです。
そして、その評価をしに中国まで見に来て欲しいと言う依頼です。そこで2月24日に香港から深?(Shenzhen)に入りました。

一泊目は香港のSheraton Hotelに泊まりました。ペニンシュラホテルの前という良いロケーションです。最近リニューアルをしたということで綺麗な部屋でした。朝食のビュッフェも大変立派でした。今回は食べる暇がなかったのですが、私の好きなモートンというシカゴが本店のステーキレストランが館内にあります。
ステーキ好きの方には見逃せませんね。http://www.mortons.com/website/index.html
http://www.starwoodhotels.com/sheraton/index.html

さて、25日にはShenzhenを300kmほど3ヶ所を走りました。
面白かったのは、Happy Valleyというディズニーランドのそっくりさんがあったことです。周囲には立派な高層のコンドミニアムが並んでいます。Http://www.happyvalley.com.cn/

その中にフライドチキンなどをその機械で作っているお店があったのです。
1号店ですが、何と1,000店を作るのだと豪語しています。
「えー」と驚いたら「中国には14億人いるから日本だと100軒くらいの規模でたいしたことありませんよ」と答えが返ってきて絶句しました。

2泊目夜の宿泊はShenzhenのホテルRoyal Suites & Towersでした。http://www.999royal-suites.com/
食事は2階の中華料理と和食のフュージョンでした。

さて、次回は蒸気保温庫のお話とShenzhenのこの機械、食事情のお話をしましょう。



           
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