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10店舗を越えるチェーン店の店長になるために
シリーズ第24回
体験的店長実務ステップアップ講座第16回目最終回


(10店舗を越えるチェーン店の店長になるために)

店長になって1年ほどすぎてやっと仕事に慣れて余裕が出てきたころSVに「王君、ちょっと話がある」言われた。当然の事ながらそろそろ異動かなと思った。やっと新しい店で新規開店できると喜んで話を聞いたら、以前のO店への異動だった。何でまたと思ったのだが、古巣に帰って1ヶ月後にSVへの昇進を言い渡された。そういうわけでマクドナルド時代の店長歴はほぼ1年と少ない、ベテラン店長とはいえないようなお粗末な店長だった。その短い店長時代の教訓は「漫然として店長の仕事をしていてはならない。気づいた問題点や改善しなければならないこと、をしっかりノートに記録する。そして、その改善に必要な知識を学ばなくてはいけない」と言うことだった。過去30回に渡って筆者の店長時代の経験を克明に説明できたのも毎日の仕事の内容を克明にノートに付けていたからだ。しかし、なるべくノートに付けるつもりでも全ての些細なことを記録しないで大失敗をした苦い経験がある。

O店で働いていたときにお客のクレームがあった。「お前の店のハンバーガーを食べたらカビが生えていた。どうしてくれるんだ」という物だった。これは大変だと応対した私は、「申し訳ありません、どんな状態でしたか?」とびくびくしながらも丁寧に聞いた。その客は商品を示しながら「こんなにカビが生えていてひどいじゃないか」と言う。見てみると確かにカビがびっしり生えている。しかし、ほっとした。マクドナルドのハンバーガーではなかったからだ。それはマクドナルドそっくりのロゴマークと、Mバーガー(仮称)という名称で知らない人が見たらマクドナルドと間違えてしまうような物だった。そこで、何処でお買い求めになったのですかと聞いたら、子供が近所の自動販売機で買ったという。そこで、客にそれは当社の製品ではないこと、マクドナルドでは自動販売機でハンバーガーを売っていないと言うことを説明した。それで客は納得して帰って、一件落着した。筆者は「なんて馬鹿な客なんだ。マクドナルドが自動販売機で売っているわけはないだろう」と言う気持ちで事件を軽く考え、客の名前、住所、購入した場所の正確な住所を聞いて記録しておくことを忘れていた。後でそれがどんな大事件を引き起こすか想像もしていなかった。

当時の日本はまだ後進国でブランドを尊重するという意識はなかったから、米国などの先進国を訪問して格好の良い商品のブランドや店名を日本で使用することを平気で行っていた。単に使用するだけなら良いが、商標まで登録するから問題は更に深刻だった。当時、マクドナルドが日本で商標登録を行う前にMバーガー(仮称)という商品名とロゴマーク(マクドナルドのMマークにそっくりな形)の商標登録を行っていた会社があった。その名称を元に冷蔵したハンバーガーを自動販売機で販売するというなかなか斬新なアイディアだった。

当時はマクドナルドも新規開店で忙しかったからそんなハンバーガーが販売されていることなんか気にもしなかった。また、そのメーカーも自動販売機は成功しないから段々あきらめていった。しかし、商標登録とロゴマークは有効であり、日本進出数年してからマクドナルドも、段々その問題が気になってきた。米国マクドナルドのクロック会長(当時)が常々言っている言葉に「マクドナルドの最大の財産はMマーク」だと言うある。つまりブランドが一番重要だという事だろう。アメリカの子供が一番最初に覚えるアルファベットはMだと言われているくらい、マクドナルドの燦然と輝くゴールデンアーチ(黄色のMマークを意味する)は世界中の子供から老人まで浸透しているのはこのブランドを大事にした成果だ。そういう会社であるから同じような誤解を引き起こす名称が登録されていることは我慢ができずに、相手の登録商標の取り消しを訴えることになった。商標登録は先願性だから先方も違法性はないわけで簡単には納得せず裁判になることになった。その結果意外なことに東京地方裁判所の第一審ではマクドナルドが敗退する結果を招いてしまい、社内の大問題となった。顧客が誤認をしているという事を立証しなくてはならなくなったが、そのころには自動販売機はほとんどなくなっており、数年前の顧客のクレームを経験した社員を探し始めた。そこで名乗りを上げた筆者は東京高等裁判所の裁判で証人として出廷することになった。

筆者は弁護士と打ち合わせることになったが、驚いたことに弁護士はビジネスを知らないと言うことだった。弁護士も裁判官も法曹の世界の中だけで、生きたビジネスの世界の経験はほとんどない。商標の誤認事件と言っても具体的にどのように立証しなければいけないかやり方がわからない。証人だけで立証しようと言うわけだが、残念ながら証人になれる記憶を持っていたのは筆者だけだけであり、証人とは別の証拠が必要だが、どうやって良いかわからないと言う状態だった。

そこで、役に立ったのがマーケティングの知識だ。マーケティングと言ってもそんなに難しいことではなく、アンケート調査をやると言うことだ。アンケート調査というのは信頼性が難しく普通は専門家が行う必要がある。今回のアンケートの手法はブランドの誤解を立証するわけであり、先入観念がないように調査をしなければいけない。先方の商品を見せて「これは何処の商品ですか?」「販売の会社はご存じですか?」という質問をマクドナルドとは全く関係のない人間が行う必要がある。この手法を非助成想起法という。この方法でハンバーガーを販売している会社の名前を挙げてくださいと質問すると、当時はまだ知名度が低いから10%位の人しかマクドナルドの名前を言うことができない。ところが助成想起といい、幾つかのチェーン名を言ってこの中で知っているハンバーガーを上げてくださいと言うと当時テレビコマーシャルを開始したばかりのマクドナルドの名前を言ってくれる率は数倍に高まる。つまり、非助成と、助成ではかなりデーターが異なると言うことだ。

つまり、やり方によっては簡単にこちらのほしい答を得ることができるから、専門家がバイアスのかからないように調査をする必要がある。しかし、今回はバイアスがかかった答、つまり、先方のハンバーガーや名前を見てマクドナルドの製品と誤認するという答がほしいのだ。そこで、筆者がアンケート調査の調査用紙を作成し、広告宣伝部の担当者に調査をさせるようにした。(その具体的な手法については残念ながら公表することはできないが)結果は先方の商品を見てマクドナルドが製造した物、マクドナルドで販売している商品だと誤認する人が大多数だった。このデーターを元に証人として出廷するわけだが、筆者は不安でいっぱいだった。もし、先方の弁護士にアンケート調査の手法について細かい質問を浴びせられたら、証拠として採用されない可能性が大きかったからだ。しかし、もう時間がないからそのデーターで出廷することにした。

筆者は裁判所で証人出廷をした経験がないから緊張していた。いよいよ証人台に立ち、筆者の店長時代に顧客が間違ってクレームを受けた経過とアンケート調査の結果を証言した。次は先方の弁護士による反対尋問だ。先方の弁護士は最初に筆者の受けたクレームを申し出た人の氏名、住所を聞いてきた。筆者が知らなければ信憑性は大幅に低くなるからだ。残念なことに筆者は軽く考えてそんな記録は持っていなかったが、ここで追求されると信憑性がなくなるわけだ。そこで素直に「大変残念なことに、記録していません。」と素直に応えた。先方の弁護士は「こんな大事なことを何故記憶していないのですか」とだめ押しをしてきた。「おっしゃるとおり、非常に残念です、こんな大事件になるのだったら記憶しておけば出世できたのに、残念です」と素直に応えた。この素直な予期しない答になんと裁判官を初め法廷中が爆笑に包まれた。先方の弁護士も一緒に笑い出し、拍子抜けをしてそのまま反対尋問が終了してしまった。

ここで一番大事だったのは筆者の顧客クレームの証言ではなく、多くの人が誤認をするという筆者が作成したアンケート調査のデーターが採用されてしまったという事だ。先方の弁護士は爆笑に包まれ思わず質問をするタイミングを逃してしまったようだ。

この結果第2審の高等裁判所の判決は勝利だった。その後この事件は最高裁判所に行くが、最高裁判所の審理は事実の審判でないからこの時点で勝利が99%確定した。この事例は商標関連の判例百選に掲載されたほど有名な事件になった。その理由はブランドの誤認が明確であったこととなっている。この裁判での勝利は小さいようだが、日本でのマクドナルドの商標を確立し、現在までに至る繁栄を築いた一つのきっかけとなっているのではないかと思っている。

こんな事を言うと随分いい加減なことで勝ったなと思われるが、実は筆者の大学時代は法学部で国際私法と言うゼミを2年間に渡って受講していた。体育会の学生なので成績が悪いからゼミに入っていると何とか卒業できるという甘い考えで受講していた。しかし、ゼミの教授は大変若い方で2年間きっちりしごかれた。随分さぼったのだが「門前の小僧習わぬ経を覚える」とやらで、今回の事件には少なからずその知識が役に立った。勉強は何時役に立つかわからないと思いがちだが、必ずどこかで必要になると言う良い経験をした。判例が出た後で、教授には「どうだ、王君、もっと勉強しておけば良かったろう」とみっちり説教をされたのは言うまではない。

もう一つ裁判で役に立ったのが、日頃の店長会議での訓練だ。店長会議というのは経営者の単なる訓話の会議ではなく、店長実務の問題点解決発表の場であることは以前にも書いた。この会議では、詳細なデーター分析、具体的現場をリアルに感じさせる内容、数字に基づく科学的な説明、を短時間で明確に行わなくてはいけないし、発表後に厳しい質問にさらされる。誰にでもわかるプレゼンテーションスキルを要求されるわけだ。厳しい質問をジョークでさらりとかわすことも勉強させられる。そんな厳しい日頃の訓練が緊張を強いられる証言台でも反対尋問の追求をジョークで誤魔化せることができたのだ。怖い裁判官もSVや米国からきている軍事顧問に比べたらなんと言うこともなかった。慣れ(訓練???)とは恐ろしい物だ。

この経験は更に10年後にも生きてきている。もう一つのMバーガーチェーンが14年ほど前に、ロゴマークをマクドナルドそっくりな赤と黄色に変更したことがある。しかも、

そっくりなロゴマークの頭と足が看板から突き出ている奴だ。斜めから見ると間違えてしまうくらい似ていた。以前の裁判における苦い経験から、当時の担当者に「直ちに訴訟を起こすか、先方に申し出るべきである」と申請をした。しかし、担当者は「そんなことで争いを起こしたくない。小さい相手をいじめているように思われ世間の印象を悪くする」と言う理由で10年近く放置をしてしまった。その間にMバーガーチェーンが大躍進したのは皆さんもご承知の通りだ。

しばらくしてMバーガーチェーンの大躍進が問題となり、やっと商標保護担当者が憂慮すべき事態だと認識させられた。担当者と先方の会社の紳士的な協議の結果、先方が自主的にロゴマークの色を白Mに変更することが決まり、世間のM(先方)ファンの七不思議の一つ「黄Mと白M」が誕生したという事情のようだ。(この間の経緯も具体的にお話しできないのが残念だがお許しいただきたい)

ところで、この裁判の勝利で上司に誉められただろうか?例の軍事顧問に裁判の顛末を聞かせ、誉められるかと思ったが「王君、君がクレームを申し出た客の氏名、住所を正確に記録しておけば、裁判の勝利は薄氷を渡るような物ではなく確実だったのよ」と爪楊枝をくわえながら、たどたどしい日本語でにやりと笑って応えてくれた。また、オンザジョブトレーニングをきっちりとされたわけのようだ。それ以来、なるべくこまめに記録をするように心がけているのは言うまでもない。その成果は次回から開始する「SVの業務の失敗談とあり方」でお見せするつもりだ。

こんな調子で、店長やSVの仕事と直接関係のない仕事をマクドナルドではさせてくれた。マクドナルドの教育方針は仕事の改善の必要性を感じた者が分野に関係なくそれを勉強して改善しろと言う自主的な勉強の自由度だ。

筆者の店長歴を考えると、実家の小さな飲食店で1年、ダンキンドーナツで1年半、マクドナルドで1年と数ヶ月、合計で3年ほどになる。小さい個人商店から大手チェーンまで経験したが、当時はまだマニュアルも整備されていないし、トレーニングの手法も試行錯誤の状態だった。

店長の仕事というのは規模によりかなり異なる。実家の店長時代は部下がわずか数人という状態で人を使うと言うより、相手との相性が全てだった。部下を使って何か仕事をやると言うより、自分で朝の開店、清掃、仕込みから、売上報告、発注、接客などをこなしていただけだ。とっても店長としての管理をしていたとは思えない。ダンキンドーナツの時代は店全体で7人くらいだから、自分一人が番張れば何とかなるような状態で、ドーナツを作りながら店長業務をやっていた。ところがマクドナルドでは一挙に部下が100名に増えたわけで、店長の仕事は直接の労働から管理が中心になってきた。その会社の規模や状況におり、店長としてやらなくてはならないことが随分異なっていたようだ。

店舗を動かすには人、物、金、の管理だ。どれが一番重要かと言うとその置かれた店舗の状態で、日々刻々と変化していくが人の扱いだ。従業員の採用、オリエンテーション、トレーニング、評価は勿論のこと、上司、同僚との人間関係も重要だ。更に社員だけでなく外へも目を向ける必要がある。オーナーとか、業者、等色々な人との交流がより広い知識を身につけさせることになる。そういう意味ではマクドナルドのように売上の高い会社では従業員が多く対外的な交流も必要になる。

そうすると、勉強するには大手のチェーンに入ればよいと思いがちで「王が言っていたからマクドナルドのような大手に入ろう」と言うのは短絡すぎる。筆者が店長を務めていた時と今のマクドナルドの店長業務内容、教育システムは全く異なるからだ。先日もマクドナルド時代の部下に会った時に「ようやくSVになれました」(現在マクドナルドではSVをOCと呼び名を換えている。オペレーションコンサルタントと言う意味だそうだ)彼は入社後少なくても15年以上たっているから、「随分出世が遅いな」と聞いたら、「店舗数は増えましたたが、直営の店長の必要のないサテライト店や、フランチャイズ店舗の出店が多いのでなかなか店長になれません。また、SVの担当店舗も増加している事も相まってSVへの昇進も時間がかかるんです」。と言う。つまり筆者の時代よりも経験が長くトレーニングをしっかり受けている反面、出世が遅いたという事だ。

大手の外食産業も同様で、リストラで店舗の社員数を減らしたり、新規出店が少ないのでなかなか店長やSVになれないようだ。また、急成長の時代に大量に採用した社員のポスト不足に対応して、資格制度を職務とは別に導入したりしている。つまり、大手にはいると店長やその上の仕事に就くのに時間がかかると言うのが現状だ。

勉強になる良い会社に入りたい、転職したいという時には大手外食チェーンではなく、今は小さいがこれから大きくなろうと言う大志を持っている優秀な会社を選ぶ必要があるだろう。しかし、現状に満足できないからと言ってすぐ転職を考えてはいけない。まず、自分の知識の棚卸しをして、現在の自分に不足している知識、技術を明確にする。そして、目標とゴールを設定し、時間通りに進行しているか常にチェックする。もし、いくら自分が努力しても評価されない、成果を認めてもらえないと言うときに、初めて自分を延ばしてくれる会社に転職することを考えても良いだろう。

これで筆者の店長時代の失敗談を終了するが、これからSV時代のよりひどい失敗談をしながらチェーン経営に必要不可欠なSVシステムの構築と仕事のあり方を紹介していこう。

お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。


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