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HACCP導入の全漁連水産加工工場の見学


HACCP導入の全漁連水産加工工場の見学  

 前回HACCPの説明で店舗だけでなく、仕入れ商品もHACCPを取り入れた衛生的な工場で加工された物にするべきだと申し上げたが、日本ではまだこのHACCPのシステムを導入しているのは蒲鉾などの練り製品や、乳製品の工場など位であり、他の製品ではあまり見られない状態であった。特に水産のチルド加工の分野は大変遅れていたが、本年の6月に日本で始めてHACCPを取り入れた水産加工工場が完成したのでそれを見学してきた。

 この工場は遠洋漁業で有名な焼津の小川港にあり、95年6月から稼働している最新鋭の工場で、全国漁業協同組合連合会焼津小川鮮魚流通センターと呼ばれている。所長の乙幡真一氏、チーフの前川友介氏、全国漁業協同組合連合会、販売事業部、調査役 岩山裕史 氏、有限会社 シー・シー・エヌの代表取締役、庄司 仁 氏 に談話をいただいた。

此の工場を作った理由

  1. 産地との競合

     最近は九州など魚の産地との競争が出てきている。九州などの産地は安値を武器にするが、この加工場では価格ではなく鮮度と品質を武器に対抗しようと考えた。

  2. 現場での加工度の要求、職人の不足

     外食とか食品スーパーでは職人がいないので3枚におろしたフィレの形で供給しないと加工することが出来ない。そこで、ブリやハマチなどの魚を3枚におろすフィレ加工工場の必要性が出てきた。

  3. ごみの問題

     外食店や食品スーパーでは生ゴミの処理の問題に悩まされ、現場ではフィレ加工を嫌がるようになり、ゴミのでない3枚におろした形での供給を望んでいる。

     ただし、3枚におろしたフィレ加工の場合には産地までの配送と消費までの時間を考えると衛生上の問題が出てくる。そこでHACCPを導入した急速冷却の加工センターを作る必要性が出てきたのだ。

     従来の水産加工業では衛生観念がやや希薄であり、その結果4月にEUからの日本の輸出加工工場の視察の際にその衛生対策が問題になり、日本製品の水産加工品のEUへの輸出が禁止になってしまった。しかし、此の工場はそのEUの問題を意識して慌てて作ったのではなく、本年7月に導入されたP/L法の導入に対応した工場を目指し、2年ほど前より準備をし、やっと完成した物である。

     この焼津と言う活け魚の産地でない場所に工場を建てたのは、交通の便を考えてである。産地というのは魚を常時養殖しており、加工に最も向いているように思われるが、産地といっても何時も魚を出荷できるわけではなく、工場を作っても稼働日数が長くないという問題がある。

    この焼津は漁港であり、色々な産地から船で持ってくることが可能で、その魚を沖の生け簀で常時40ー50トン持っていることが出来る。その活け魚を市場の注文により加工し、そこから10分で行ける東名高速道路の焼津インターチェンジから、東京地区、関西地区、北陸地区まで迅速な配送が可能である。魚を各地の産地から常時集めることが出来るので、年間を通した加工工場の操業が可能であり、多少コストの高い魚を使ってもメリットが出るのである。

     従来全漁連は活け締めの丸毎の魚を出荷してきたが、ユーザーからはより鮮度の高いフィレ加工製品の要求と共に、衛生的でなければいけないと言う要望も出ていた。そこで衛生管理を第一として運営する加工工場を作り、生きた魚からフィレ加工し包装するまで2時間以内で加工できるような体制を作り上げた訳だ。HACCPを導入したのは、現場での加工数量が増加しても衛生管理を維持するために、これが人的な努力に頼る方式ではない継続性のある安全なシステムであるからだ。

HACCPの観点から見た従来の加工方法の衛生上の問題点

 HACCPとはHazard Analysis Critical Control Point のことである。危害分析、重要点管理、事故防止品質管理システムというような翻訳になる。このシステムは食品の製造行程の管理状態に焦点をあて、発生する可能性のある危害を分析、予測して、起こりうる危害の優先順位をつけて、ポイント毎に管理していく手法である。 

 この手順に当てはめて魚の加工を見てみよう。従来の魚屋の加工方法は、丸ごとの魚をまず、頭を落とし、次にはらわたを抜き、それから3枚に落とす。そして3枚に落とした魚を刺身にしたり、切り身にする。ここまで全ての加工を同じまな板と、包丁で同じ職人が行う。これを当たり前に思っているが、実は最も危険なやり方なのだ。

 魚の加工で予測される危害を分析すると、3つ考えられる。海水と、血と、はらわただ。海水中には大腸菌や、魚の食中毒の原因になる腸炎ビブリオ菌がいる。特に腸炎ビブリオは海水中には必ずいる菌であり、本年の夏のように海水温度が上昇すると大繁殖し大変危険である。筆者の知人の衛生問題の専門家が夏に北陸で生の貝を食べ、腸炎ビブリオの食中毒にかかってしまった。彼は食品衛生のプロであるから普段から衛生状態の良い店しか行かないが本年のように海水温度が高いと新鮮な貝を食べても汚染状態がひどく食中毒を引き起こしてしまったようである。

 次に血とはらわたには菌が多くおり、特にはらわたは細菌の巣である。その処理を行った包丁とまな板でもって、更に刺身や切り身を作るのは、細菌を身にこすりつけ繁殖を促す元になるくらい危険なのだ。また、従来の魚屋や加工所は生の魚を加工することになれており、温度も夏場には30℃を越える状態で外部の空気に平気でふれるところで加工するのが当たり前だ。つまり汚染された魚の切り身の菌を更に増殖させるような物なのだ。

 つまり、予測される危険な細菌は腸炎ビブリオと、大腸菌などだ。そこでその菌のいる海水、血、はらわたの汚染を極力避ける事だ。その為には、まず、魚の表面い付着した海水を真水で洗い流す。次に汚染を広げないと言うこと。つまり、頭とはらわたを取り出すまな板と、包丁は、魚を3枚にしたり、切り身にしたりする物とは別にすると言うことだ。

 しかし、どんなに注意しても無菌状態を維持するのは無理だ。そこで付着した菌を増殖させないように温度管理をすることが次に重要になる。細菌の増殖を防ぐには外部から遮断された空調の利いた部屋で加工する必要があるという事だ。また、魚自体の温度を常時低く保つことにより菌の増殖を最小限に出来るだろう。

此の工場での具体的な衛生対策を行うCCP

  1. 海水の汚染対策

     海水中の細菌の対策としてはまず、水の管理を厳格に行う。海水を使用せず真水でまず丸ごとの魚を洗い、各工程でも流水の真水を使用し衛生状態を保つ。腸炎ビブリオの場合真水に漬けると死滅するからだ。腸炎ビブリオ以外の対策として、塩素濃度の基準をしっかりと守る。塩素濃度は0.1ー0.2PPMであり厳しくチェックする。水は近所の漁業センターの井戸から汲み上げそれを塩素処理している物であるが、その数値を信用せず、更にチェックする。実際に処理する筈の機械が壊れて塩素濃度がゼロの場合があり、それを加工前に発見し問題を発生しないように処理をすることが出来た。しかし、塩素濃度が高すぎるとサケなどは問題ないがブリなどは色が変わったり、臭いが出るので高すぎないように慎重にチェックする。

     しかし、海水には腸炎ビブリオなどがいるが、真水と異なり、身に対する影響が少ないというメリットがあるのは事実だ。魚体を海水で洗うと外側の皮の部分の色が鮮やかになる。特に鯛などの皮の赤みは海水で洗うだけできれいに出るの良く知られている。そこで品質の面から、海水を0.1ミクロンのフィルターで細菌を濾過し、使用することを検討しており現在テスト中だ。しかし、一回無菌状態にしても配管中での再汚染が発生しまだ完全な無菌状態を実現することは出来ないので今しばらくかかるだろう。

  2. 加工中の汚染対策

     まず、魚の頭を落としたり、はらわたを抜く作業は最も細菌に汚染されるので、その下作業と、身の加工行程とをきちんと分けた。部屋を完全に三つに分け、頭やはらわたの処理の場所を一次加工室、三枚に落とした身の清掃、包装処理を二次加工室、それをサクまでに高度に加工する場所をクリーンルーとして完全に区分けした。

     一次加工室から二次加工室などへの移動は汚染を広げるので禁止し、各部屋の仕切だけではなく床にも色分けし、行って良い場所とダメな場所を明確にした。また、帽子と、マスク、制服を着用し、加工室にはいるときにはエアーシャワーを浴び、外部から汚れを持ち込まないようにする。最も汚れを運ぶ長靴は作業所に行く際に洗浄槽を通らないと内部に入れないようにしている。

  3. 空気汚染

     いくら注意しても細菌は付着するので、付着した細菌が増殖しないように内部は完全な空調を利かせており、夏場でも18℃を保てるようにしている。また、各部屋は分離されており、空気汚染もないようにしている。特にクリーンルームは特殊な空調設備で浮遊細菌数を押さえるようにまでしている。

工場内の具体的な加工手順

  1. 活け締め

     まず、写真の生け簀より生きた魚を必要する量だけ計量し、引き上げる。次にその場で迅速に活け締めを行う。活け締めとは、魚の脳髄を切断し動きを止め、次に鰓のところに包丁を入れ、血抜きをする。それにより身の変化を押さえる事が出来る。そして魚をすぐに、氷を満たした冷水にいれ温度を急速に下げ身の変化を極力押さえる。これは細菌の増殖を防ぐ上でも重要だ。

  2. 一次加工室で三枚におろす

     冷却した魚を一次加工室に運び込み、機械で頭を落す。その魚の鰓、腹を包丁で抜く。その間、真水を十分に使い、海水による菌の汚染を防ぐ。腸炎ビブリオは真水にふれると死滅するからだ。

     次に身を洗い、更に氷水に漬け、温度を下げ、鮮度を維持する。そして次にこの魚を2秒毎に1本の魚を処理できる能力を持つドイツ製のBARDER2000というフィレ加工機械を使用し三枚におろす。この機械は国産の物より三倍も高価だが加工速度を早くするために使用する。結果的には歩留まりも向上している。

     このフィレマシンにより3枚におろした魚を、二次加工室に送る。一次加工室と二次加工室は隔離しており、汚染されないようにしている。特に二次加工室は一次加工室とは完全に隔離し、落下菌などによる汚染を防ぐために外部の空気に触れないように独自の空調設備と温度管理を行っている。温度管理は特に重要で、18℃を維持できるようにしている。一次加工室から二次加工室に魚をコンベアーで自動的に送るが、その際に流水層で更に自動洗浄する。

  3. 二次加工室  三枚におろされたフィレ肉に付着している、水分や、汚れをきれいに取り去る。此の目的は色の変化とドリップを防ぐためだ。水分を取り去るにはもったいないが使い捨ての紙を惜しげ無く二枚づつ使用し一匹ずつ丁寧にふき取り、捨て去る。

     また、まだ残っている、小骨や突起を取り去る。これが残っていると真空包装をするときにピンホールや亀裂が入る原因になるからだ。

     次に真空包装をする。真空包装は2ー3秒で2ー3枚づつバキューム出来るようなスピードを重視している。真空包装機は国産の小型のバッチタイプの物と大型のコンベアータイプのオーストリアのHAJAK社の物を使用している。  真空包装してから検量し氷水に漬け、更に冷却し発泡スチロール箱に詰める、箱に入れるときには上下に氷を丁寧に敷く。

  4. クリーンルーム

     本来は三枚におろした身を更に加工するのだが、フィレ加工の生産量自体が多すぎ、加工作業者が熟練していないので使用していない。将来使用する予定である。

  5. 完成品の衛生検査

     各加工工程で定めたチェックリストを元に品質検査チェックを厳格に行っている。完成品のフィレは衛生検査室で細菌数の検査を行う。一般性菌数、大腸菌数などだ。

     消耗品のコストが高いが一回一回使い捨てのペーパーで魚の身をふき取る事などにより、細菌数は従来の1/100から1/1000になっており十分メリットはある。

    従来の基準とは最も受け入れ基準の厳しい生活協同組合の受け入れ基準を意味し、大腸菌10の二乗以下、一般性菌数は10の五乗以下である。

     フィレに加工後7日経過してもその基準をクリアーしているが、実際には加工日を入れて5日を賞味期間としている。K値の測定値でも7日めで17ー18と十分に新鮮な状態を保つことが可能だ。

     HACCPの導入においてはデーターの蓄積が最も重要であり、この衛生検査室を工場に接して持つことにより数多くのデーターを蓄積する事が可能になった。自主検査の設備を持ち、毎日いつでも検査できるようにするのが大事だろう。

     此の工場の周囲に近づくと漁港独特の魚の腐ったような臭いがしたが、工場内にはいると、その臭いがないのに驚いた。いかに衛生的に優れているかがわかるだろう。行程を見学中に作業の合間にはすぐに清掃に取りかかり、排水溝の内部まで丁寧に洗浄していた。働いている人が衛生的な環境の中で生き生きとしてプライドを持って働いていたのが印象的だった。

投資額

 建物は地元の漁業組合が所有している物を使用しているので工場の為には加工機械の投資のみであった。加工機械は全漁連が負担しており、総投資額で9000万円くらいだ。(ただし、空調機のコストは含んでいない)一般的には全て含んで3億円はかかるだろうと思われる。

 HACCPに対して必要な投資額は、クリーンルーム(切り身加工用)とその追加空調設備、その他、部屋の仕切など余分なコストであり、1000万円以上の追加コストになっているものと思われる。

 その他の追加コストとは、作業場所を細かく分けること、クリーンルーム、各部屋への手洗いの設置だ。

ランニングコスト

 ランニングコストも夏場でも18℃に保つために電気代のコストや清掃に使用する使い捨ての紙、衛生的にする洗剤の使用量などが高くなる。

生産能力

 まだ6月からスタートしたばかりであり、普通12トン/1日の加工を行っている。機械の能力としてはこの5倍の能力があるが、人間の能力がそれに追いついていない。 現在一次加工室は常時15ー16人働いているが、盆暮れには最大40人くらい働く予定だ。

販売方法

 出荷は市場経由が多く直納は少ない。最近は九州など魚の産地でフィレ加工しているがそれとの競争がある。産地は安値を武器にするが、こちらでは鮮度と品質を武器にしてそれらに対抗できる。

 特に活け締めから賞味期間を5日に延ばせるという事で価格維持が可能だ。消費者に 工場を見せると大変気に入ってもらえ、注文をすぐにもらえる、が、現在稼働率が高く新規の工場見学をなるべく断っている程だ。  この衛生状態がよいのが顧客に理解され、フィレの伸び率は230%と大変高く、飲食業では大手、中堅の居酒屋などに出荷している。

ユーザーの声

 偶然筆者の知り合いの居酒屋チェーンがここの製品を購入していることがわかり、その意見を聞いてみた。この中堅の居酒屋チェーンでは以前からハマチの品質が悪いという事が問題になり、産地の変更をお願いしていた。そこで最近此の工場の稼働と同時に購入するようになり、品質が大変良くなってきた。以前は色が変わったりネトが出たりしていたが、ここの製品に変更して改善された。仕入れ担当者としては工場を見てその優れた衛生対策を見ることにより安心して購入し使用できるようになったそうである。

 筆者は役得で3枚におろした魚をもらって帰り、さっそく試食したが、翌日でも新鮮な状態で食べることが出来た。特にネトと魚の臭いの少ないのが印象的であった。

今後のユーザーの対策

外食業としても購入する食材をどのように加工しているかを知っておくことが重要だろう。いくら店舗で加工に気をつけても、原材料の段階で問題があればどうしようもないからだ。そういう意味では積極的に工場見学をしたりして、なるべく衛生的な工場を選ぶべきだろう。いくら購入した物でも食中毒を出したら責任は外食業にあるからだ。工場を選ぶ場合にはこのHACCPを導入しているかどうかがわかりやすい選定基準になるだろう。勿論まだほんの少数の食材加工業しか導入していないが、今後の急速な導入が予測されるので常に注意して業者の選定をするべきだし、導入を促すことも必要だろう。


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