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グルーポンのお節料理事件


 外食の年末年始最大の話題はクーポン共同購買サイト最大手のグルーポン・ジャパンが発売した外食文化研究所経営のバードカフェと言う飲食店販売のお節料理問題だ。
 2010年暮れの11月に定価が21000円のお節料理を半額の10500円で販売した。当初は100個の予定であったが人気があり500個販売した。それが、消費者に到着した際に、広告上の料理の写真とまったく異なる貧弱な内容であったことがネットの食べログで公開され、その後続々と抗議がネット上に書き込まれた。また、販売した500個のうち200個が年末までに届いていないことが判明した。ネット上の騒動は年明けの2日には新聞、テレビで放映された。
その後、販売したバードカフェ店内でお節を従業員が私服で製造する非衛生的な写真や、外食文化研究所社長のお粗末な弁明、などがネット上で公開され、その食品に対する姿勢に余計に批判が浴びた。そのため、横浜市の保健所が食品衛生上の問題もあるのではないかと立ち入り検査を実施したほどだ。
その結果、商品を販売した外食文化研究所の社長は辞任し、クーポンを販売したグルーポンジャパンは全ての購入者に返金し、さらにお詫びの商品5000円分を贈ることにした。また、HP上に謝罪だけでなく、事故の報告書と、米国グルーポン社の社長の謝罪を掲載せざるをえなくなった。しかし、1月31日には表示と異なる食材が使用されるなど、おせち料理に偽装があったことや、通常価格の表示が不適切だったことも分かったとして、グルーポンジャパンは全面的に謝罪している。この問題では消費者庁が関心を示しており、この騒動はまだ治まりそうもない。
では、クーポン共同サイトとは何かを見てみよう。 2008年11月に創業した米国シカゴのグルーポン社Grouponが始めたクーポン共同購入サイト(フラッシュマーケティング)は、時間限定・数量限定などの手法で顧客を誘引する手法)で推定年商3.5億ドルに急成長している。宿泊施設、飲食店やエステサロン、ネイルサロンなどのサービスが、数量などに限定はあるが非常に安くなるということで注目を集め、フォーブス誌は同社を歴史上のネット企業で最も成長率が高いと評価している。そして、昨年末にはネット検索最大手のグーグル社が同社を約5000億円で買収しようと試みるほど成長していた。
 このクーポン共同購入サイトはすでに日本に導入され、2010年4月の時点で10社が参入、11月末の時点で100社以上が参入し、現在は170社とも言われている。8月には本家の米国グルーポン社が日本の同業のクーポッド社を買収し進出を開始しているほか、外食向けのネット販促のグルナビやリクルート社も本格的に取り組み、大阪テレビや博報堂などの大手企業も参入を開始するなど話題沸騰である。
 仕組みは、クーポン共同購入発行会社が、一定の地域の店舗と交渉し、割引率と発行枚数を決め、それをメール配信する。一定の枚数にならないと成立しないが、成立した段階で支払いは済んでおり、クーポン発行会社は手数料を確実に得ることが出来る。消費者はクーポンを成立させるためにソーシャルメディアなどに一所懸命に情報を流し、クーポンの知名度を上げるようにする。割引率は50〜60%と大変高く、飲食店にとっては赤字だ。それでもクーポンを活用するのは、人手を使って大量に配布するクーポンと違い、ソーシャルメディアに情報を流すだけで何百人単位の人たちが短時間で購入してくれる波及力にある(そのためフラッシュマーケティングとも言われる)。
 ファストフードや低価格業態の企業が自社で顧客を集めるために行っていたクーポン発行と異なり、高単価の飲食店や個人店が手間をかけずに発行できるメリットがある。

 さて、今回の事件はなぜ発生したかを整理してみよう。
1) お節料理を製造販売した外食文化研究所のバードカフェの問題。
<1>製造能力と衛生管理 
今回の事件で一番非難を浴びているのが、お節料理を製造販売したバードカフェだ。
同店舗は通常の居酒屋風飲食店であり、お節料理の経験や知識があまりないにもかかわらず、当初100個の販売予定を500個に増やしたことだ。
 飲食店がお節料理を製造発売するのは大変危険なことを知らなかったのだ。例えば、百貨店のデパ地下などで、テナントの有名料亭等がお節料理を販売している。しかし、有名料亭は料理は出来るがお節料理は出来ない。正確に言うと、大量のお節料理を安全に製造することは出来ない。日持ちのするお節料理などの惣菜製造は食品メーカーのような厳格な衛生管理に基づいて製造しければならないのだ。百貨店はテナントからお節料理販売の企画を出されたら、製造する工場の衛生状態、製造能力を厳格にチェックしてからでないとOKを出さない。有名旅館や料理屋が独自にお節料理を製造販売する場合も専門の製造工場に仕様書に基づいて製造させている。バードカフェがお節料理を詰めている画像が同社のブログ等で公開されていたが、客席で従業員たちが私服のダウンジャケットなどでマスクもせず作業している姿を見ると、今回は食中毒発生がなかったのが不思議なくらいで、不幸中の幸いと言うべきだろう。
 また、年末の数日で500個を製造できるかというと、1つの価格が21000円だから4人前のコース料理になる。つまり、2000人前のコース料理を数日で製造しなければならないと言うことは幾ら衛生的であっても、通常の飲食店の厨房では不可能なのだ。それが、原材料の不足や品質が異なると言う問題にもつながっているのだろう。

<2>事件後の同社の対応
今回の騒動が大きくなったのは、年末に購入した消費者が同社が提示したお節料理の写真と購入したお節料理の写真の違いをネットで公開したからだ。そこで、同社がすぐに直接に誤り、ネット上で余計な情報を流さなければ良かったのに、ブログ等で同社社長が「写真のおせちは最悪のもの」と釈明するなどして、購入した人だけでなく一般の人まで巻き込んで騒ぎを大きくしたのだ。
同社社長は販売が好調で、ツイッター等ではしゃいだことが残っており、それを見た購入者や一般人まで怒り出してしまったと言う、ソーシャルメディアの使い方の幼稚さだった。

2)クーポン共同購買システムの問題点
 このシステムは見てみよう。飲食店で1万円のコースメニューを半額という超お徳な価格の5000円で発売する(一般的には50%引きで、最大90%と言う極端な場合もある)。クーポン共同購買サイトのHPで登録した人に対して、定期的にメールでお知らせが来る。それを購入し一定の人数が集まるとクーポンを発行し、購入者は利用前に料金をクレジットカードで支払う。HPやメールでの飲食店の宣伝文句や写真の掲載は無料で、クーポン発売が決まってから、マージンを差し引いた売上げが飲食店に支払われる。その場合のクーポン共同購買サイト側の取り分は50%だ。つまり、飲食店は販売価格の25%の金額しか受け取れないと言うことになる。飲食店の場合、値引きをする原資は損益分岐点でいう固定費だ。家賃や減価償却費、社員の給料(アルバイトは変動費)、水道光熱費の一部、などで、販売価格(売上げ)の30%程度だろう。つまり、販売価格の30%までは値引きは出来るが、それ以下の値引きは赤字覚悟となる。それが、今回の貧弱なお節料理になったと推測される。サービス業の美容院やマッサージ業などは顧客が来なくても、店舗を構えて従業員が待機している。顧客が増えても少なくても固定費は変わらないし、変動費もわずかなので50%という割引率にもメリットがある。実際に米国ではサービス業の利用比率が多いようだ。
 元々、このクーポン共同購買と言うのは個人経営や新規開業の店舗が知名度を上げるための広告宣伝であり、経費として考えると言うのが一般的だ。例えば、今回のように500人と言う少ない人数に販売したが、購入できなかった人もそのお店の存在を知ることが出来、結果的にそのお店の知名度が向上する。また利用した人も再利用し固定客になる。と言う仕組みだ。今回の問題は値引率を広告宣伝の費用と割り切らず、このクーポンで儲けようとした、誤った理解が逆効果で、日本中にその悪評判を広めてしまったといえる。
 このクーポン共同購買サイトの正しい利用の仕方と理解を、クーポン発行会社のグルーポンが行うべきであったが、まだ歴史の浅い同社は(他の会社も同様に歴史も経験も浅い)それが不十分だったのだろうと思われる。
 発祥の地の米国では大学などが調査研究をしており、すでにその割引率の高さに生産性の低い飲食店には不向きではないかとしている。利用者は安い料金で利用することを楽しみにしており、一度5割引で利用した飲食店を再び利用する見込みはほとんどないからだ。


3) クーポンを発行したグルーポンジャパンの問題。
<1>グルーポンジャパンの成立ち
 今回はあまり報道されていないが、グルーポンジャパンの生い立ちを見てみよう。グルーポンジャパンは携帯電話や電話回線の販売で急成長した、猛烈な営業管理で有名なIT企業の元社員が設立した株式会社パクレゼルブが、他企業と共同出資で始めたクーポン共同購買サイトのクーポッド株式会社が母体である。そのクーポッド社を米国グルーポン社が2010年8月に買収して10月にグルーポン・ジャパンに社名変更し、大量のテレビコマーシャルなどのマーケティング戦略であっという間に日本最大のクーポン共同購買サイトに仕立て上げたのだ。出来たばかりで、日本と米国の会社と言う経験も理念も異なる組織が合体して作り上げた会社が、急速な成長を遂げるのでは今回のような問題は避けられなかったと言えるだろう。

<2>猛烈IT企業の営業方法
 猛烈IT企業の営業手法をOBが以下のように軍隊や体育会系の管理方法を取り入れていたと語っている。

「まず、営業マンの能力を最大限に発揮させるため飴と鞭を使い分ける

・一案件ごとに設定された報奨金
・ノルマ達成時の高額の報奨金

・高いノルマ
・部署ごとの厳しい連帯責任
・上司の叱責、暴言

そして経験のない営業マンで成果を出せるような教育をする。
・ 周到に計画されたテレアポテクニックで強引に顧客にアポイントを取り付ける。
・ 一度営業マンが訪問したらで言質を取られない言い回しで売り込む
・メリットを誇張しデメリットを反論する営業トークを周到に用意し訓練する。
・契約が取れるまで絶対に帰らせない。(客先から商談途中に必ず業務連絡させ、許可なしには客先から帰らせない。契約不成立で客先から出た場合は上司は暴言を浴びせたり電話口で大声で歌わせたり罰を与える)
・クレームやアフターサービスは別部門で完全にフォローし、営業マンが受注した顧客とその後接触する機会を極力減らす。

また、営業活動においては自社の営業マンと同様な営業方法の代理店を多く使い、トラブルや法的問題は「外部の協力者」の方が起こしがちだった。問題が発生しても、周到に逃げ道を用意した営業トークを展開しているので、実際の追求の手は上手にかわし、問題が発生しないような工夫を凝らしていた。」とその猛烈な営業ノウハウを語っていた。

<3>グルーポンジャパンや同業の営業方法
上記の猛烈な営業手法をグルーポンジャパンや他のクーポン共同購買企業が取り入れているとは断言できないが、ある外食チェーンの営業責任者は「当社にも営業にきたが、定価4000円の物を少し肉付けして定価1万位にして半額で5000円で提供してほしいと依頼された。当社は原価が高いので、そのようなことは出来ないと伝えたが、その後、売り込みに本社にも行っているようだ。」と語っている。
また、大手外食チェーンOBは「飲食というビジネスモデルを理解していない人たちが大多数で、金曜日の夕方にアポなしで来る営業マンもいる。セールストークは表向きは『新規顧客獲得』や『告知』だが、高い価格を装い大きな割引率で目を引くというやり方を提案する営業マンもいる。飲食事業者が低価格に走り、品質の説明がちゃんとできていないことも一因を感じる。飲食店側の立場に立って営業活動するということは考え難く、利益の最大化を目指すのでオーバーキャパシティを考慮して適正水準の助言ができる人材がいることも想像しにくい。」とその営業姿勢に疑問を呈している。

4) 問題をさらに大きくした外野の発言
 消費者からのネット上の厳しい批判に対して、急成長している外食企業の社長やIT企業の元社長(証券取引法違反容疑で逮捕されマスコミをにぎわせ、現在も裁判中)が可哀想だと弁護をしたが、その2名の社長達が実は自らもグルーポンと同様のクーポン共同購買サイトに出資をしていることが判明し、ネット上でさらに問題が大きくなってしまった。
 外食企業の社長でありながら、裁判で係争中のIT企業元社長と一緒にグルーポンと同様のクーポン共同購買サイトに出資し、今回の騒ぎで外食企業は何でもやるのだと言うイメージをもたれてしまったのは大変残念だ。大手のファミリーレストランやファストフードの創業者たちは水商売と言われた飲食業から、外食産業に仕立て上げようと産業化を図ってきていたのだが、この儲かれば何でもよいと言う姿勢は外食産業がまた水商売になるのかと言う懸念を持たせるのではないだろうか。

今後の課題
 クーポン共同購買のメリット・デメリットを十分理解し、広告宣伝の費用だと割り切って投資すればよいのだが、新しいシステムを理解せず、単に金儲けによいと、クーポン発行会社や飲食店が誤解したことが大きな原因だ。また、飲食店というのは一度に大量にお客様が来ても、ちょっとした問題で返って店舗のイメージを致命的に悪化させると言う教訓だろう。
今回の事件を拝見していて、筆者の昔の苦い経験を思い出した。筆者が日本ダンキンドーナツ(現在は日本から撤退してしまった)の3号店の店長として新規開店をしたときだった。アメリカのマーケティング手法を用いて、周囲の住民6万世帯にドーナツ無料券6枚がついたカラフルなチラシを配布した。無料券を大量に配布すると言うマーケティング手法は日本では珍しく、開店時から行列の絶えない日が1ヶ月ほど続いた。しかし、無料券回収期限の終わったとたんに売上げは急降下を始めた。売上げ回復のために顧客来店を待つのではなく、顧客に売り込みに行こうと、周囲に多かった幼稚園や保育園に幼児のおやつに、ドーナツを宅配する売り込みをかけた。そして訪問先で、意外なクレームを聞いた。訪問した幼稚園や保育園の先生たちから「貴方の店は感じが悪いから嫌だ。開店時に実施した無料クーポン券を持って店舗に何回か行ったが、また来たのかと言うような顔をされた。」というのだ。同様のクレームはほとんどの訪問先で言われてしまった。クーポンの回収期間はかなり売り上げが高く、開店早々でトレーングの不十分な従業員は忙しさのあまり笑顔が出なかったのだろう。笑顔なしで商品を機械的に渡すのでは、無料のものを貰おうとちょっと引け目のある顧客は、ぞんざいなサービスで返って嫌な思いをしたわけだ。店舗を利用して不満を持った顧客をもう一度取り戻すには、営業時間の延長、料理のレベルアップ、サービスの向上、地元への再度の告知、などその後半年以上の努力が必要だったという苦い思いをしたことがある。
その辛い経験以来、新規開店の際でも従業員のトレーニングが十分行き届くまで極端な無料券の配布などをやらないで我慢するようになった。

飲食業はどんなに合理化しても、調理やサービス、清掃に一定レベルの技術と人材が必要であると言うことをしっかり理解していないと、今回のお節料理のような問題を引き起こすのだと言うことを忘れてはいけないのだ。自分の作る料理とサービスに自信と愛情を持って、丁寧にお客様に接するのが飲食業の原点だと言うことを忘れてはいけないと言うのが今回の教訓だろう。

米国グルーポン社サイト
http://www.groupon.com/
クーポン共同購入サイト 一覧
http://coupon-x.net/
http://couponsite.jp/
http://groupon-now.jp/
http://grpn.jp/

事件の顛末は以下のサイトをご覧いただくと良く理解できる。
事件の報道 朝日新聞
http://www.asahi.com/national/update/0102/TKY201101020111.html
事件の時系列
http://sejapan.net/2011/01/groupon-birdcafe-osechi.html
グルーポン社の報告書
http://info.groupon.jp/topics/20110129-553.html
マーケティング的なまとめ
http://sejapan.net/2011/01/groupon-birdcafe-osechi-2.html


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