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日本マクドナルドの基礎知識


飲食店経営 2001年8月号

マクドナルド上場を支えたスピリット

或、寒い冬の日だった。東京近郊のファミリーレストランの客席に座った大柄な米国人は注文したステーキにフーフーと息をかけている。熱いから冷ましているのではない。「こんな息をかけたら飛んでしまうような紙のように薄い肉をステーキと言わない。」と筆者に体で語りかけていたのだ。米国マクドナルドが本社を構えるシカゴは穀物や牛の集散地であり、町には最高級の分厚いステーキ屋があふれていたのだ。

米国本社の運営担当副社長は開店5年目の日本マクドナルドの店舗視察後、筆者と食事をしていた。東京郊外三多摩地区を車で廻り、すかいらーくやデニーズの郊外型出店攻勢を視察し、食事をしながら日本の原材料品質の悪さを訴えたかったからだ。

筆者は当時駆け出しのスーパーバイザーであり、店舗のQSCの改善に頭を悩ませていた。SVの一番重要な仕事はお客を満足させる最高のQSCの提供だ。店舗のQSCを客観的に評価し、問題点があれば店長と一緒に改善を行わなくてはいけない。当時の米国マクドナルド社は本格的な海外進出経験は少なく、調理機器、食材、人材教育などあらゆる面でサポートが不十分だった。

品質上の大きな課題は、スペック(規格)が異なる原材料と調理機器による品質の悪さであった。店舗でQSC評価を行い改善目標設定するのだが、店舗のマネージャーたちが改善することの出来ない原材料や調理機器の品質の悪さ、具体的には当時のケチャップ粘度の問題に悩んでいた。ケチャップは一定量ハンバーガーにドレスするためにケチャップディスペンサーという機器を使用するが、ケチャップの粘度が一定でないと定量でないという悩みがあり、何回も商品担当部に文句を言っても忙しいので取り合ってくれない。そこで米国の副社長に言えば改善してくれるだろうと思い頼んだのだ。

ところが返事は「問題があれば自分で解決しなさい、人に頼ってはいけない」と言う素っ気ない物だった。」「自分で解決しろと言っても、担当の仕事ではないし、第一そんな知識がない」と返事をしたら、「仕事に境界はない。問題を感じた人が、それを解決するのだ。知らない分野があれば勉強をすればよいのだ。」と返事が返ってきた。そして、ケチャップの品質が悪い原因を詳細に説明してくれた。あまり詳しいので、「どうやって勉強したのか?」と聞いたら、「同じ問題にぶつかった経験があり、それから学んだ」と言うではないか。彼も私と同じ問題を経験し、それを自ら解決することにより学んでいたのだ。

それから米国のマニュアルを元に社内で勉強会を開き、米国と違う原材料や調理機器、オペレーションを徹底的な洗い直しと改善活動を開始した。その結果、ケチャップであればトマトの畑から製造ラインまで見学に行き、主要なハンバーガーの品質管理では、肉の生産ライン、新型パティ成型器の輸入促進、工場での品質管理、自家製の温度計、グリル専用の洗剤の開発などを自ら行うこととなった。高速調理を可能にするクラムシェルグリルの開発では米国で、鋳物、ヒーター、メッキ、電装品、等の工場を歩き、日本山奥の鋳物工場やメッキ工場を真夏の暑い中、工程との比較などを徹底的に行った。スーパーバイザー時代に店舗管理の仕事をしながら他の仕事をするのだから、徹夜は当たり前、土日の休みを返上していた。しかし、素人の筆者がそれらの開発を行うわけだから、多額の研究開発費を湯水のごとく使用し、失敗も数多くする。

部署別のテリトリーを越えて仕事をすることは他部署の反発を呼ぶ。その自由気ままな仕事を許してくれたのが、当時の上司であり、本人がやる気を出しているのだから良いではないかとカバーをしてくれていたのだ。後になって考えると随分我慢をしてくれたのだなと感謝をしている。これがマクドナルド流人材育成の手法だったのだ。

1月号から本誌で連載している「飲食業の技術革新」で述べているが、米国内での最大のライバルバーガーキング社の方が、オペレーションや技術などではマクドナルドよりも遙かに進んでいる。博物館になったマクドナルドコーポレーションの1号店を見ると、45年前に既に完成したシステムを持っていたのは凄いとも言えるが、逆に進化が遅いとも言えるのだ。

マクドナルドは新しい技術を最初に開発したわけではない。例えばドライブスルーシステムは、西海岸ハンバーガーチェーンのジャックインザボックスが最初に開発し、バーガーキング社などが積極的に導入した後に重い腰を上げて導入を開始した。クラムシェルグリルもバーガーキングのコンベアーオーブンの真似である。マネドナルドと言われたほどだった。

そのシステム面で遅れているマクドナルド社が世界各国で第1位の外食企業となっているのは、創業者、レイ・クロック氏の人材育成がいちばん重要であるという経営哲学を実践しているからだ。レイ・クロック氏がマクドナルドを創業したのは50歳を越えてからであり、それまで数多くの仕事で失敗を重ね、やっとマクドナルドのビジネスで成功した。苦労を重ねていたボヘミアン(東欧からの移民の子供)のレイ・クロック氏は天性の明るさから、部下を鼓舞する数々の標語を作り出していた。

その一つが「UP TO YOU」と言う標語である。「貴方のやる気次第でチャンスは幾らでもあるよ」と言う意味だ。社員には命令はしない。自ら積極的に新しい仕事や勉強にチャレンジをする人には出来るだけのチャンスを与える、と言う考え方だ。

若い経験の少ない社員が新しいことにチャレンジするのだから、失敗は数多くする。どんな失敗を何回でもする事は許されるが、同じ失敗を繰り返すことは許されない。失敗したらその原因を追求し、改善を徹底的に行い、マニュアル、教育システムを構築し、再度チャレンジしなければならない。もちろん、積極的に仕事に立ち向かわないで失敗をする場合にはたった一回の失敗でも許されないのは言うまでもない。

<マクドナルドの人材育成の秘訣>

マクドナルドにおける人材登用は実力主義であり、学歴、経歴、家柄、等は一切関係ない。また、アルバイトと社員という身分の差がない。アルバイトからでも社長になれるのだ。レイ・クロック氏の後継者、2代目社長のフレッド・ターナー氏、3代目社長のマイク・クインラン氏はアルバイトから社長の地位に上り詰めている。

マクドナルドで社歴はと聞くと、アルバイト時代からの勤務年数を言う。大学を出たばかりのアルバイトでも社歴はと聞くと7年です、と答えがくる。アルバイトであっても社員の代行が出来るスイングマネージャーの経験があれば、入社後数年経った社員マネージャーよりも優秀なのだ。このアルバイトのやる気を高める仕組みがマクドナルド最大の資産だろう。特に、現在の躍進の立て役者であるサテライト店舗を考えると、優秀なアルバイトの存在がその成功の秘密だ。店長は通常の店の他にサテライト店を多ければ3店舗も担当するが、一つしかない体で管理をきちんとした管理を実現するには、その優秀なアルバイトの存在が必要不可欠なのだ。

マクドナルドの人材育成の基本方針は社内で育成すると言うことだ。しかし、会計士、弁護士、機械設計者、商品開発担当者など、優秀な専門家を外から採用する例外がある。専門職に就く場合であっても、エリート扱いはしない。入社後、店舗でハンバーガーを焼いたり掃除したりする現場の仕事を数週間は体験しないといけない。そして、その専門職から経営管理の重要な職務に就く場合には、店長、スーパーバイザー、統括SV、運営部長、地区運営本部長、等の店舗現場の仕事を最低2年間以上経験しないと経営幹部にはなれない。この徹底した現場主義がマクドナルドの人材育成の秘密だ。

フレッド・ターナー氏が会長の頃に日本の店舗責任者として数日間店舗を巡回した経験がある。その時にターナー氏は「俺はお前の叔父さんじゃない。ミスターと呼ぶな、フレッドと呼べ」と筆者に言ってくれた。そして別れ際に「困ったことがあれば何時でも相談に来い、予約はいらないよ」と言ってくれた。マクドナルドではオープン・ドアー・ポリシーと言って、会社の誰にでも何時でも話をすることが出来る。

実際、当時のターナー会長も、クインラン社長も大部屋にいて、外から仕事をしているのが見えるし、専用の秘書もいない。話をしたければ直接席に行けばよいのだ。この風通しの良さが、人材育成に大きく貢献しているのだろう。
しかもこれだけ従業員を大事に育成するのだから、退職されたら一大事だ。そのため、従業員の福利厚生には大変気を遣い、ストックオプションや持株会などを充実させ、更に独立を希望する人に対しては社員向けのフランチャイズ独立制度を用意し、外部に人材が流出しないようにしている。この徹底した教育と人材流出を防ぐ事がマクドナルドの大きな成功の理由だろう。

<米国本社の他国へのサポート>

人材育成と同様に他国のマクドナルド現地法人に対しても決して命令をしない。どんなに問題が大きくても現地法人が判断し、責任を持って実行させる。と言っても、放任していては、米国マクドナルドとオペレーションが異なってしまう。それを防ぐのが教育を通じた洗脳だ。米国マクドナルドは日本マクドナルド設立後20年間に渡って、トレーニングコストの一部を負担していた。特に米国のハンバーガー大学への出張研修の費用のほとんどを負担していた。

外資系の会社で勉強というと米国の大学でMBAをとる場合が多いが、マクドナルドの考え方はより現実的だ。大学の学問は机上の空論だ。それよりも仕事をして体で覚えるのが重要だと言う考え方だ。それが企業内教育システムのハンバーガー大学を作り上げた理由だ。ハンバーガー大学と言っても、理論を教えるわけではない、店舗の実例を挙げ、問題点を解決する手法を学ぶのだ。日本にもハンバーガー大学を開設しているが、それでも定期的に米国に研修に行かせる。ハンバーガーを生んだ米国の生の姿を体験することが重要だからだ。
ハンバーガー大学の運営もユニークだ。新入社員用の初球コースから、店長コース、SVコース、統括SVコース、フランチャイズ担当SVコース、部長コースなど、階層別の教育をきめ細かく設定している。各教育コースはマニュアルや商品等の変更や、よりよい研修の手法があれば更新する。新入社員コースや店長コース等の店舗社員向けの初級コースであっても、その第一回目の講習は経営トップから受けなくてはいけない。次に、本部長、部長、統括SV、SVなど全員受講してから現場の研修コースとして授業を開始する。新しい研修を導入する際にネックになるのは古い社員がそれを知らない事だからだ。新しい授業は全員がその内容を熟知しなくてはいけないと言う徹底ぶりだ。

店舗の管理コースだけではなく、各国のハンバーガー大学プロフェッサー向けのトレーニングコンサルタントコース、広告宣伝担当者向けのマーケッティングコース、店舗開発担当者向けのコース、など、専門スタッフ向けのトレーニングコースを用意し、世界各国のスタッフまで物の考え方の標準化(洗脳と言っても良いだろう)を行っている。

そのハンバーガー大学の研修だけでなく、更に現実的な研修を日本人に課していた。それは米国本社、地区本部での勤務研修だ。見学だけでは問題がわからない。米国マクドナルド社で数年間働くことにより、問題解決の手法を体で学ぶことが出来るからだ。そして更に、米国フランチャイズ店舗を日本に与え運営するようにさせた。サンフランシスコ郊外コンピューターのメッカ、シリコンバレーのお店だ。(その後カナダトロントのお店が追加になり、現在はトロントから米国本社に近いシカゴ郊外に移転した)筆者もその店舗の2代目の責任者で2年滞在したことがあるが、家族と生活し、米国人の部下を使い、経営をする事によってより具体的な米国のハンバーガー文明を体で理解することが出来たのだ。

その際に驚いたのが、米国マクドナルド社の経営幹部のフランクさときめの細かいフォローアップだ。ある日売り上げがやや低迷したシリコンバレーにシカゴから電話がかかってきた。誰かと思ったら、米国マクドナルド社実質ナンバー2の財務の副社長であった。彼は「君の店の先週の売り上げが昨年より低いようだが、どうしたのか?何かヘルプが必要なら言ってくれ、何でも手伝うよ」と言ってくれた。米国に数千件も或お店の中から幾ら日本のお店であるからと言っても、日常の細かい数字をチェックし、わざわざ電話をするというきめの細かさには感心させられた。このフォローアップが米国マクドナルド社の75%以上を占めるフランチャイジーをやる気にさせる秘訣なのだろう。実際に、フランチャイジーのコンベンションなどでは会長や社長よりもこの財務副社長の方が人気が高かったのだ。米国というとドライな契約社会だと思われがちだが、こんなきめの細かい配慮が出来る人間が経営陣にいると言うことがマクドナルドの人材育成のもう一つの秘密なのだろう。

<日本の成功の秘訣?>

日本マクドナルド成功の最大の要因は米国式と日本式のベストバランスだろう。日本マクドナルドの藤田社長というリーダーシップの強い現地パートナーを支えて、数多くの人材教育のサポートをしてきた米国本社は、米国と全く同じ経営手法を要求しないで、独立した経営判断を許してきた。しかし、決して自由放任ではない。そのバランスは時代、状況により微妙に変わっている、そして常に最適にバランスを保つような工夫をしている。必ずしも米国と全く同じでなくてはいけないと言うわけではなく、その都度必要な教育を与えながらゆっくり日本マクドナルドの舵取りを行ってきた。

数年前に新規出店の過剰投資に対し、売り上げ予測精度が低く、収益を大幅に落とす問題を生じた。それを憂慮した米国マクドナルド社は日本に店舗開発担当副社長を送り込み、日本側スタッフとともに全国の店舗分析を行い、対策の手法を構築し、同じ失敗をしないように、新店舗の意志決定と責任を明確にさせ、店舗開発向けのトレーニングコースを設立し、開店してすぐに利益にでる店舗作りを可能にした。このような緊急事態でも決して日本に命令はしないで日本法人が独自の判断を出来るような教育を授けるのだった。この辛抱強さがマクドナルドの世界で成功する秘訣だろう。

そして、その最初から利益のでる新店舗の開店が現在の年間数百店を開店する日本マクドナルド快進撃に大きく貢献しているのだ。

マクドナルド時代の詳細については本誌執筆の過去の記事を全文掲載している筆者のホームページをごらんいただきたい。

http://www.sayko.co.jp/article/syogyo/index.html#insyoku


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