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厨房設計により食中毒をふせげるのか? 衛生管理の盲点


2009年夏に大手ステーキチェーン2社の食中毒が話題になった。一つは若者向けのファスト・フード的なステーキチェーンを230店舗ほど展開している上場企業のP社だ。その1週間ほどして同様の食中毒を起こしたのは大手牛丼チェーン傘下に入っているファミリー・レストラン・スタイルのステーキチェーンを200店弱全国展開しているD社だ。両社の食中毒の原因は腸管出血性大腸菌o-157によるものだ。
この両社の食中毒を厨房設計の立場から防げなかったのか?という観点から
2社の食中毒の原因と問題点を見てみよう。
P社の場合、全国16店舗で35名の食中毒被害者がいる(2009年9月16日時点)。その状況と原因を見て見ると。2009年8月14日から8月29日に大阪府、兵庫県、広島県、山口県、香川県、愛媛県においてP社各店舗にてお食事した客がo-157による食中毒を引き起こした。原因食材は、仕入先の食肉加工業者が加工したサイコロ状に成形した角切りステーキ肉がO-157に汚染されていたのが原因だ。通常の角切りステーキはブロックの肉を食べ易いように、カットするが、今回の事件の角切り肉は細かい肉片を固めて成型したもので、通常は表面に付いている腸管出血性大腸菌o-157が肉内部に入り込んでいたための事件だ。O-157は通常は牛の大腸におり、屠殺時に腸に存在する菌が食肉の表面を汚染するのだ。O-157に汚染されていてもステーキであれば表面をきちんと焼き上げれば、肉の内部が赤く火が通っていなくても、肉表面に付着したo-157は死滅して問題はない。しかし、今回の場合は通常のステーキと同様な表面だけの焼き上げで中心部に存在したo-157が死滅していなかったのだ。
 もう一つのP社の問題は調理方法だ。通常のステーキ店は肉を店舗の従業員がフライパンやグリドル(鉄板)などできちんと焼き上げて提供するが、P社の場合、電磁調理機で260℃まで加熱した熱々の鉄板に生の肉とご飯や付け合わせを乗せて、顧客にその肉を焼き上げてもらうシステムだ。元々は鉄板の上に中央にソースを乗せた熱々のご飯のと薄切の肉を置き、顧客がその肉を鉄板の上で焼き上げ、熱々のご飯と混ぜて食べるという調理法であった。薄切の肉なので鉄板の余熱でも加熱することは可能であった。その後、チェーン展開を進める上で新商品による売上げの拡大を目指してP社は色々な新しい料理を開発した。それが角切りステーキだ。しかし、角切りステーキを通常の肉のブロックから切り分けることでは、低価格が売物のP社では新商品として提供できない。そこで低コストの成型肉の手法を取り入れたのだ。成型により低価格な角切りステーキを提供するのは、通常の食品スーパーでも行っており表示がキチンとしておれば顧客は十分に加熱調理をするので問題はないが、P社の場合提供された顧客が通常のステーキと勘違いして生焼けの状態で食べたことにより、肉内部に存在したo-157を殺菌することができずに食中毒が発生したのだと思われる。
 P社がチェーン展開を開始した頃に筆者は同社の調理システムを拝見して、その問題点を指摘したことがある。P社が店舗展開をする数年前に神奈川県を中心に30店舗ほど店舗展開をしていたH社という老舗ハンバーグレストランチェーンがo-157による食中毒を起こしていた。その事故の発生前に同店を訪問し、生焼けのフットボール型のハンバーグを熱々の鉄板に乗せて顧客の目の前でカットし、真っ赤な肉の部分をひっくりかえし、顧客に焼き上げさせる調理を目にして、これは危険だと思い、筆者の主催するメーリングリストに警告を発したが、間に合わず、その数か月後に食中毒を引き起こした記憶があったからだ。 
その経験からP社の経営者の方にたいへん危険な調理方法だと忠告をしたが、聞き入られずそのままチェーン展開をしてしまったのだ。
今回のP社の事故は調理方法の大事さを全く理解していないために、起こるべくして起きた事故であるといえる。因みにP社は今回の事故のあと店舗での調理方法変更を行わざるを得なくなってしまった。これでP社の対策は完璧かと思って同社のHPを見たら、問題の角切りステーキは廃止したが、霜降りステーキをまだ販売している。低価格の霜降りステーキを提供するために、赤肉に牛脂を注入し霜降り状に見せた肉で、顧客が通常のステーキと勘違いして生焼けで食べてしまう危険がある。P社は店舗で調理加熱した肉を、顧客にさらに加熱調理をして食べてもらうので安全としているが、一抹の不安を感じさせられる。
D社の事故の原因は同じくo-157に汚染された角切りステーキやステーキを使用したことで、8月末に関東を中心に展開する65店舗の内、約11店舗で食中毒を引き起こし、10名以上の患者を出してしまった。D社の場合、店舗の調理場で調理をしてから客に運ぶ仕組みであるし、同社のHPでは使用する食肉の安全性を強調していたのにもかかわらず事故を起こしている。
D社の事故に関する原因は、まず原材料の汚染があったということだ。食肉はカナダ産を輸入して使用したそうだが、その食肉が汚染されていたのだ。 
しかし、いくら原材料が汚染されていても11店舗の店舗で事故を起こしたということは17%の店舗での事故発生率であり異常に高い発生率だ。と言うことは、食材の加工方法、調理方法、または、調理機器に何かの問題があった可能性がある。
食材の加工方法ではファミリー・レストランで低価格に角切りステーキを提供するための手法として、P社のように成型肉を使用するか、低価格の固めの肉ブロックを柔らかくするため、細い刃物(テンダーライザー)で肉の筋を切るという手法をとる。D社の場合、テンダライザーを使用していたと思われ、成型肉と同様に肉の表面についていた菌が内部に入ってしまったのだろう。このテンダーライザーによる事故は以前も他の大手ファミリー・レストランの角切りステーキで発生したことがある。
調理方法に関しては、いくら汚染された肉であっても店舗できちんと加熱調理していれば問題がなかったはずで、従業員が通常のステーキと勘違いして内部まで十分に加熱しないで提供したことが考えられる。
次に調理機器の問題であるが、加熱調理に使用するグリドルの性能の問題が考えられる。通常のファミリー・レストランで使用するグリドルの表面温度に30℃〜40℃のばらつきがあるのが普通であり、また、温度の回復力も十分でない場合がある。しかも店舗にグリドルの表面温度計がない場合もある。
そのほか、肉をひっくりかえすターナー(スパチュラ)の研磨、グリドル表面を清掃するスクレーパーの研磨、を行っていないので、グリドル表面にカーボンが溜まって熱伝導が低下したりしていることが考えられる。また、グリドルの定期点検を行わず、性能が低下するケースも見受ける。グリドル表面温度の設定が高すぎても問題がある。通常は170〜190℃に温度設定をするのだが、生焼けをこわがって、温度を200℃以上に上げる場合がある。温度が上がりすぎるとグリドル表面にカーボンがつき易く、また、表面に残っている油がカーボンになりステーキ肉のグリドルへの密着を防ぎ熱伝達が悪くなるという問題があるのだ。
いずれにせよ、食肉が汚染されていない時代であれば問題がなかったのであるが、ほんの少量の菌で食中毒を発生させる腸管出血性大腸菌o-157のような新型菌の場合、調理方法の正しいトレーニングや性能の良い調理機器の選定や定期的なメインテナンスは必要不可欠だろう。
この2社の事故は他のファスト・フードやファミリー・レストランにとっても人ごとではない。H社のようにフットボール型の厚いハンバーグミートの表面を焼いて、熱々の鉄板に乗せて顧客のまえで半分に割り、真っ赤な生焼けの肉を鉄板に押し付けて、顧客にお好みの焼き加減に自ら調理をさせるという業態は人気があり、数多くのお店がある。この2社の事故の後に、あるファミリー・レストランを訪問し250gのハンバーグの中心温度を計測したら46℃〜47℃しかなかった。しかも、メニューにはミーディアムで食べるのが最適だと書いてある。同社ではセントラルキッチンの衛生管理は完璧で、出荷するハンバーグは無菌状態に殺菌していると述べている。しかし、業界の専門家は現在の状況ではo-157に汚染されていない牛肉の供給は不可能であり、挽き肉は完全に火を通すべきだという意見だ。
魚などの生食を当たり前とする日本人に取って真っ赤な肉を食べるのは抵抗がないのだろうが、新型の食中毒菌が続々と出現する現代では食生活の見直しも必要になっているのだろう。

今回の2社の事故を見ていると、従来の厨房設計の立場では食中毒に対応できないのではないかという危惧を抱かせられる。
食中毒を防ぐ手法としてはHACCPという米国で考案された手法が、堺市の学校給食における大規模なo-157起因による食中毒以後、導入されており、外食企業でもその手法を取り入れている。しかし、日本の場合HACCPに対し中途半端な取り組みをしている傾向にある。HACCPは米国で宇宙船のアポロ計画時に乗員の食関連の事故を防ぐために考案されたもので、食中毒を出さない完璧な仕組みである。それは、原材料の入手、搬入,保管、下拵、調理、調理機器の整備、保温、提供、などの各工程において、CCP(重要な管理ポイント、関所)を設けて、各CCPでその問題点を解決し最終食品に食中毒菌の存在がないようにしようというものだ。しかし、日本ではHACCPにおいて食材の安全性に焦点を当て、調理工程や調理機器の管理が疎かになっているのではないかと思われる。
 これからは、厨房設計を行うに当たってHACCPにのっとり、原材料の入手、搬入,保管、下拵、調理、調理機器の整備、保温、提供、などの全ての工程において、チェックを行い、アドバイスを実施することが必要になるだろう。
 また、従来の厨房設計は業態と売り上げ予測に合わせて、最適な性能の調理機器を合理的にレイアウトすれば良かったが、その手法では上記2社の様な食中毒は防げない。調理方法や調理機器の性能、調理機器のメインテナンスまで深く踏み込まなくてはならないだろう。特に調理機器の性能に十分な知識が必要だ。
 たとえばグリドルの例でいえば、グリドルの入出力とその確認、表面温度のムラ、温度回復力、想定調理量に見合う能力か、定期的なメインテナンス方法、正しい洗浄方法、などの知識が必要である。グリドルの入出力と確認とは、表示の入出力が実際にでているかを確認することである。機械の性能上、入出力の表示があっていても、設置方法によっては基準の能力が出ていない場合があるからだ。厨房設計の立場としては、選定する調理機器の性能とその確認の知識を十分に持たなければならない時代になったということだろう。



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