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最適厨房に必要不可欠な空調施設設計


 

1997年に発生した堺市の腸管出血性大腸菌O―157による食中毒事件以来、給食業界のみならず外食企業においてもHACCPと言う厳格な衛生管理を導入するようになった。  

HACCPは1970年代のNASA(米国航空宇宙局)の宇宙士の機内食用に開発された。開発を担当したのは食品メーカーのピルズベリーであり、子会社にハンバーガーチェーン大手のバーガーキングを持っていた。しかし、米国でHACCPを取り入れたのは主に大手の食品製造メーカーであり、外食産業に認知されるのは1982年過ぎであった。  

1982年にCDCが「オレゴン州のマクドナルドの店舗で生焼けのハンバーガーにより、大腸菌o-157による食中毒が発生した」と発表した。筆者はマクドナルドに勤務した経験があり、全国の店舗と機器開発部の責任者を務めた。この当時は米国のマクドナルドにて勤務していたが、その際にこの食中毒事件を体験し、マスコミ発表の翌日から売上が激減した苦い経験をした。それ以来、マクドナルドはHACCPを導入し、食材の収穫場所から加工工場、そして店舗までの一貫した品質管理を強化した。しかし、当時はこれらの問題はマクドナルドだけの問題と思われ、一般の外食企業ではHACCPの導入は行われなかった。  

その後、1993年に西海岸のジャック・イン・ザ・ボックス・チェーンのハンバーガーで大規模な大腸菌o-157の食中毒事件が発生し、子供数人がなくなると言う大きな問題を引き起こした。それ以後、各外食企業で類似の食中毒事故が多発し、NRA(全米レストラン協会)がHACCPを外食産業でも取り入れやすいようにわかりやすくした、S.A.F.E(Sanitary Assessmetnt of the Food Environment)という衛生管理システムを作成し,傘下の外食企業に普及を開始した。  

その後、筆者は日本マクドナルド社において店舗運営と機器開発の責任者として衛生管理の強化に取り組んだ。調理機器の温度を強化するためにデジタル温度計を開発し、各調理機器の最適の洗浄殺菌洗剤を開発した。その次に問題だったのは厨房の空調であった。厨房の温度が高かったり、空気が汚染されていては、どんなに性能の良い調理機器を使っても高い基準の衛生管理はできない。また、働く人も暑い環境では丁寧な仕事が出来ないと言うことであった。

筆者が米国マクドナルド社の店舗で2年間勤務した際に、経験したのは日米の汚れの違いだ。最初に米国店舗を見た時には店内に紙屑が落ちていたり、散らかっていて汚く見えた。ところが、床の紙屑を拾い、天井のススを払い、床を箒で掃くとピカピカになる。日本の店舗は塵が落ちていないので一見綺麗に見えるが、床の隅に汚れのこびり付きはあるし、厨房の天井をはたきで払ってみると、油汚れがベタット広がる。米国の店舗は床の隅は綺麗だし、厨房の天井も汚れはあるが乾いており、ハタキでススを払えばハラリと落ちてくる。綺麗さの次元が異なるのだ。この最大の原因は空調機の設備の差である。米国の空調機の設計はきちんとしており、外気は必ず厚い特別のフィルターを通して入ってくるので室内が汚れないのだ。  

米国では1980年代にマクドナルドなどの大手外食企業が中心となり、厨房機器メーカー、空調機器メーカーと共同で研究を開始し、厨房環境の大幅な改善を図っていた。1970年代半ばのエネルギー危機の際に、米国マクドナルド社機器開発部の給排気空調設備HVAC専門家ジョーナップ氏Joe Knappがこの問題に素早く対応を開始したことから空調の改善は始まった。ナップ氏に与えられた課題は厨房の排気風量を削減することで、外部からの新鮮空気の供給を最小限度にして、空調負荷を下げることであった。厨房内で使用する調理機器の燃焼済みのガスを排気するには、燃焼ガス量の数十倍の空気を排気しなくてはいけない。その分の新鮮空気を外部から厨房内に導入すると、その空気を冷暖房するために膨大なエネルギーが必要となる

そこでナップ氏は転職前の職場である空調機器会社のエアー・ディストリビューション・アソシエイツ社Air Distribution Associatesとマクドナルド社を説得し、1983年に両社で、シカゴ・ウッドデールに「厨房用給排気システム研究所 Commercial Kitchen Ventilation Lab」を設立した。この研究所の密閉したテストキッチンにはマクドナルドと同じサイズの厨房を再現し、グリドル、フライヤーなどのガス機器は全て使えるようになっており、給排気の状態を判断する実験を行った。

グリルやフライヤーから出る排気とベーパー(油分や水蒸気)を効率よく排気しているかを見るために、あるガスで細かい泡を作りグリルやフライヤーの上に吹きかける。その細かい泡がどのように吸い込まれていくか、フードからはみ出てしまうのかを観察するために、厨房内部の電気照明を全て消し真っ暗にする。そして、ブラックライトを当てると細かい泡の動きが見えてくる。そして、飛行機の設計と同じく、空気がスムーズに流れるように排気フードの形状を変更したり、ダクトフィルターの形状を変更すると言う気の長い作業を延々と繰り返し、給排気量を精密に計測して行った。この結果、エネルギー使用量を大幅に削減することに成功した。次に削減した給排気量を元に最適な空調機器を設置し、厨房温度を夏場でも26℃以下にコントロールできるようにした。

マクドナルド社はその研究成果を業界に公開し、最終的にはその研究所をArchitectural Energy Corp.とFisher-Nickel, Incに売却した。その研究所の成果とナップ氏のNAFEM北米厨房工業会に置ける厨房給排気勉強会等の啓蒙活動により、米国外食企業の厨房の空調環境は大幅な改善を見ることになった。

さて、日本の厨房設計の場合は給排気と空調設備は厨房とは別途設計されるので、給排気が不十分で厨房温度が高すぎると言う問題をかかえている。日本では米国のような地道な研究活動がなされておらず、米国に比べると30年以上遅れているのが原因だ。そこで、有志とともに最適厨房研究会と言う研究組織を立ち上げ、まず、調理場の基礎的な給排気と空調設備の研究を開始することにし、現在、各調理機器が空調に与える影響と実際の店舗の状況を把握する活動を開始している。http://www.saitekichubo.com/  

研究会のテーマは大きく二つあって、一つは厨房内の給排気システムをどうするか、もう一つは空調(エアコン)システムをどうするかである。そのために、基礎研究と実用研究を行っている。基礎研究については実験室を用意し、そこに茹麺機、グリドル、ガスコンロなど形状の異なる調理機器を設置し、その燃焼ガス量に応じた排気風量を設定し、実際に使う状態を再現し、調理機器が厨房環境にどのような熱負荷を与えるか、どのくらいの排気風量に設定すれば厨房環境を悪化させないかと言う研究をしている。従来はガス燃焼量に応じて自動的に排気風量を決定していたが、調理機器の形状や使用状況により適切な排気風量が異なるのであり、それを算出しようと言う基礎研究である。  

次に、実際の外食店舗に赴きその調理施設を見学し、夏場繁忙時の厨房温度や湿度の変化のデーターを収集し、もし問題があれば何が原因で、どうすれば改善できるかと言う研究を行っている。そして、基礎研究と実用研究のデーターを照らし合わせながら、どのようにすれば快適な厨房環境を実現できるかと言う研究を行う予定だ。  

次に行うのは厨房に設置する空調機器の能力設定である。厨房が暑いと言う声を聞いて分析してみると、通常のオフィスに使う空調能力しか設定していないことが多い。調理施設には使用するガス量と熱容量の応じて排気風量が決定される。その排気を補うために外部からの新鮮空気を厨房に導入する。夏場であれば外部の空気は30度以上あるし、湿気も多く含んでいるので外部空気を冷却する必要がある。また、調理機器から発生する蒸気や輻射熱も調理場の空気を暑くする。また、調理人自体が発する熱と蒸気も考えなくてはいけない。調理機器を考えると業種業態により異なる。同じ熱量であっても中華料理の場合、大量のガスレンジや蒸し器を使うので、より熱負荷が高くなる。それらを考慮して、空調機器の能力を設定する。

しかし、能力の高い空調機器を導入しても室外機の設置場所や設置方法が不適切だと、十分に機能しない場合が多い。室外機の上に屋根がかぶっていたり、周囲に十分な空間がなかったり、風通しが良くないと、室外機がオーバーヒートし冷却能力が十分に出なかったり、機械が壊れてしまう。また、十分な空調能力を持って設置された空調機器も適切な手入れを怠ると能力が低下する。手入れのしやすい空調機器と適切なメインテナンス方法の開発も必要になるだろう。新鮮な外部空気を導入する際には、十分な厚さのフィルターで濾過しなければならないが、通常の空調機器はオフィス用の薄いフィルターしか備えていないので、厨房用の十分な能力のあるフィルターの開発も必要になっている。

以上、活動計画を簡単にご紹介したが、これらは1年で改善できるのではなく、地道な数年の研究が必要であるし、厨房業界だけではなく、空調設備業界、建設業界等幅広い方にご参加をいただき、改善研究を実施する予定だ。

これらの研究活動や研究成果はHPなどや講演会を通じて広く公開し、日本の厨房が快適に働ける場所になるようにしたいと思っている。時々HPを開いて皆さんの厨房の衛生管理に役立てていただきたい。


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