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先端食トレンドを斬る
第14回
年俸制で外食業は現場第一の精神に還れ


<正しい評価のための仕組みが年俸制度導入の前提条件>

いま、外食産業では年俸制度が注目されている。
日本の賃金体系はこれまで年功序列型が採用されてきた。その基礎となったのは官僚制度であり、もとをただせば中国の官僚制度とそれを支えた科挙という登用試験制度に辿り着く。もちろん、日本の現在の賃金体系の基本ができたのは1940年代なのだが、その骨格は千年以上もの間変わっていないといっていい。その意味では、実力主義の年俸賃金制度に変わるというのは画期的な出来事だということができる。

右肩上がりの経済が終焉した。横ばい、もしくは右下がりの経済状況の中では、年功序列で給与を支払い続けることは難しくなってきている。とくに団塊の世代の存在が給与体系の変化に大きな影響を与えているのだ。

というのは、日本の場合、年功序列と職務給がリンクしており、その会社で経験を積んでいくごとに給与は上がり、さらに部長なり課長なりのポストに就くと管理職手当などでまた上がるという形で支払われてきた。しかし、団塊の世代のようにある世代が膨らんでいると、ポストが不足して処遇が難しくなってくる。そのために導入されたのが資格制度だ。

ポストがないから給与が上げられないというのでは困るので、実際の職務はないけれど部課長の資格はあるということで、給与を上げてきたのだ。問題なのは、資格制度はあくまで給与を上げるために生まれたシステムであり、資格といいながら能力による評価ではなく、年功序列的に運用されてきた点である。

黙っていても売上が上がる時代ではそれでもよかったが、売上が上がらなくなっている時代に、実際の職務がないにも関わらず、部長として同じ給与を支払うわけにはいかない。つまり、これまで運用されてきた資格制度では、もはや立ちいかなくなってきているのである。そのために、年俸制度という考え方が注目されてきているのだが、注意しておきたいのは、年俸制度が決して賃金を抑えるためのものではないということだ。

その人の働き、実力に見合った分の給与を支払うわけだから、能力の高い人は当然給与も高くなる。社員全員の能力が高ければ、全体の人件費も高い水準になければならない。ただし、全員の能力が高く、それを正しく発揮していれば、売上も当然高くなるのだから、人件費はそれほど上昇しないはずである。

そこで大事になってくるのは、能力や仕事内容を正しく評価できるかどうかである。売上が上がらないというのは、会社側に問題がある場合もあるが、個人の能力が足りないという側面もある。正しい評価制度が確立されているのならば、会社に原因があるのか、個人に原因があるのかはすぐに判断できる。そして、もし能力不足ゆえに売上が下がっているのならば、給与は上がらないという形になっていなければならない。正しく評価できるシステムを確立すること、これが年俸制度を導入する条件なのである。

日本の給与体系や人事体系の欠陥は、人事部が人事権を持っていることに起因している。評価、そして人事の権利は本来、ラインの長がもつべきものだ。アメリカ型のマネジメントでも人事部は存在するが、業務の内容は給与体系の骨組みを作ることや、就業規則などのルール作りであり、評価は一切行っていない。評価するのはあくまでもラインの長の仕事である。

日本の場合は年功序列でやってきたこともあって、ラインで評価するという習慣が根づかなかった。だから人事部が評価まで握っていたわけだが、それが改められない限り、せっかく導入しても年俸制度はうまく機能しないだろう。

<能力評価のために、まず教育体系の整備に着手せよ>

さて、日本の企業の中でもっともアメリカ的な賃金体系に近かったのが実は外食産業である。外食産業そのものがアメリカにマネジメントを学んだためだが、全てのマネジメントが店舗からスタートするという構造も、アメリカ式の合理的な賃金体系を導入させる基礎となった。

初期の日本の外食産業の賃金体系はごくシンプルなものだった。店舗に配属される社員には、一般社員、アシスタントマネジャー、店長などそれぞれに職位があり、それに応じた給与が支払われてきた。つまり、職位の体系と賃金体系がうまくリンクしていたのである。しかし、本部、本社が大きくなってくると、他の企業と同様に資格制度が導入されるようになった。これが本来合理的であった外食産業の賃金体系が崩れる原因となったのだ。

たとえば、チェーンレストランの場合、店長の仕事はどの店でも同じはずである。60歳の店長であろうと30歳の店長であろうと、やる仕事は変わらないのに年齢が上というだけで給与が大幅に高くなるのでは、30歳の店長はやる気を失うだろう。したがって同一の仕事に対しては同一の賃金を支払うという職務の考え方がまず前提になければならない。そして、その中で仕事ができるか、能力をきちんと発揮しているかが判断され、賃金が決定される仕組みが必要になってくる。

では、たとえば店長の評価を行うためには、何を基準にすればいいのだろうか。ひとつは売上、利益など数字で見ていくことである。しかし、数字は絶対的な評価の基準にはならない。というのは環境によって左右されるからだ。競合の激しい立地の店舗と無店地帯の店舗の数字は明らかに違ってくるはずだ。数字を見ることは大事だけれどもそれだけでは評価できないのである。

したがって、もう一つの基準として働き具合を見ることが大切になってくる。もちろん、そのためには職務基準が決まっていなければならない。店長の仕事は何をするのか、どんな責任があるのか、売上責任、利益責任はどこまであるのか、などを記した職務基準書が必要になってくる。

利益にしても、どの項目を見るのかはっきり決まっていることが大切になってくる。全部が全部、数値管理で見ることはできないからだ。たとえばフードコスト。チェーンの場合はフードコストは本部からの支給品ですでに決まっている。店長の裁量によって左右されるのはロスの部分であり、効果的な推奨販売をすることで原価調整をし、全体の利益率を上げているかどうかということが評価対象になる。こういう部分が正確に評価できるシステムが要求されるのだ。

あるいは、予算の達成度で評価する場合でもその予算数値を本部で与えられているのか、店長自らが立てたものかで評価が違ってくるはずだ。

年俸制度には必ず評価が伴う。年度が終わってその人の仕事ぶりを見て来年の給与を決めるわけだから、当然評価がついて回る。評価の物差しとなる職務基準が決まっていなければ、年俸制度は正しく運用されないということを忘れてはならない。心配なのはこの連載で何度も指摘してきたように、バブルの時期に仕事のスタンダードである職務基準が崩れていることだ。要求される仕事は常に変化しているわけであり、職務基準は毎年刷新されていくべきものである。ところが、バブル期から現在まで職務基準を見直し、アップトゥデイとなものにしているレストランチェーンは少ない。とくに多角化、業態転換しているところは、仕事の内容がガラリと変わっている。変わったことが職務基準に反映されているかをきちんと見ていかないと、評価はあいまいなものになってしまうということに気をつけていただきたい。

さて、評価と不可分の関係にあるのがトレーニングだ。厳しい評価をされたままでは相手は納得できない。評価に対するリターンマッチのチャンスがなければならないのだ。そこでトレーニングが必要になってくる。再教育を経て再びチャレンジする機会がなければ不満だらけになるし、全体のモラールも下がる。

評価制度は仕事に一生懸命に取り組み、結果を出している人間に高い評価を与えることでやる気を持たせ、会社全体の業績を上げることが本来の目的である。ネガティブに受けとめられ、新しい評価制度、つまり年俸制度が給料を押さえ込むためのものかと思われてしまってはマイナスの効果しか残らない。そのためにも評価が厳しくなるとともに、再チャレンジできるように社員の力を伸ばすトレーニングの体系を整えておく必要がある。

そして、評価はラインで行われるようにしておかなければならない。店長の評価を客観的にできるのは、ひとつ上、もしくはふたつ上の職位でなければできないはずだ。店長の仕事を評価するには、まず自分で経験しておくことが大切だが、自分の経験に引きずられてはならない。したがって客観的に店長の仕事を評価するためには、まずスーパーバイザーが評価し、それを地区長など、その上の職位の人間がアジャストするという仕組みが望ましいだろう。

<外食業における能力評価の7つのポイント>

外食の場合、能力評価のポイントは7つあると私は考えている。まず、Q、S、Cが会社の定める基準通りに達成されているかどうかである。この3ポイントはお客の立場から見たその店の評価ということになる。次に会社から見るポイントとして挙げられるのが、ヒト、モノ、カネ、の3点だ。 ヒトとは、人材の教育を正しく行っているか、部下の評価が正しくできているかということである。

モノについては、建物や食材の管理、保全がきちんとできているかなどが評価の対象となる。そして、売上を上げているか、利益を出しているか、経費のコントロールができているかなどが、カネについての評価となる。最後のひとつは、本人が正しく自己管理し、自己育成にどれだけ努力しているかという点だ。

外食の現場の評価は、この7点でできるはずであり、これは社員もアルバイトも全て同じである。それほど複雑に考える必要はないと私は思っている。ただし、それぞれのポイントで求めるものは違っていなければならない。店長に求めるときのQはすべての品質である。それに対してたとえばアルバイトだったら、任されたセクションにおける品質ということになる。

では、本社の場合はどうなるのだろうか。本社スタッフの評価を明瞭に行うためには、専門職をおいてはならない。現場と本社スタッフは常にスイッチできなければならない。これがまず基本である。本社を縮小するとき、本社要員もすぐに現場に戻って仕事ができるようでなければならないのだ。そのためには、定期的なローテーションが必要になってくる。そうでなければ本社は象牙の塔となり、現場と乖離してしまう。本社のスタッフは、常に現場と交流して現場の声、雰囲気、問題点を理解しておかなければならない。したがって、本社ではこれという人間を上に引き上げる場合は、必ずいったん現場に戻し、そこで職位を上げてから本社に戻すという仕組みが必要になる。

こうした現場主義を徹底させれば、現場との乖離はなくなるし評価もできる。本社のある職位は現場のこの職位だと分かるようにしておけば評価は明確になる。その時の評価のポイントも先ほど挙げたQ、S、C、ヒト、モノ、カネ、自己の管理・育成の7つだ。仕事にはその仕事なりのクォリティというものがあるし、サービスは店舗に対するサービス、あるいは社員に対するサービスに置き換えて考えることができるはずだ。つまり、ジョブローテーションがしっかりしていれば、外食の賃金体系はシンプルで合理的であったのだ。資格制度などは必要なかったのである。

それなのに、規模が大きくなるにつれて大企業の仕組みを真似してみたり、また株式の公開を機に銀行などから人が入ることで官僚制度を作り上げてしまい、現場と本社が離れて混乱し、そして売上の低減を招いてしまったのではないだろうか。

本来、外食ぐらいシンプルな組織は少ない。管理職もそれほど必要ないし、中には本社社員が数人しかいないのに見事に機能を果たしているチェーンもある。給与体系の問題を含めてもう一度外食本来の良さを見直すべき段階に来ているのではないだろうか。


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