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先端食トレンドを斬る

第4回

業界全体がレベルアップできる教育ツールが必要


<サービスは教育以外の方法では向上しない>

前回、私は日本のサービスは危機的な状況に陥っていると指摘した。その原因と考えられるのは、リエンジニアリングやリストラで人員を絞った点であろう。かつて日本の産業が高い品質の製品を生産できたのは、従業員のモラールの高さゆえんであった。それは終身雇用という制度によって、従業員が自分の会社という意識を常に抱いていたからにほかならない。そのため、特別な人材教育がなくても、高いモラールを維持できたわけである。

ところが終身雇用制が崩壊しつつあり、また昇級も多くは望めなくなってくると、これまでの人事管理態勢が崩壊してくる。よく考えてみると、従業員に優しいといわれた日本式の経営は、結果的には優しくなかったわけである。教育もやっていないから、従業員が辞めるにしても次の職を探すのが難しいのである。ということは、日本では科学的な人事管理ができていなかった、ということになる。

もちろん、全く取り組んでいなかったというわけではない。私の持っている出版物で見れば、十数年前までは米国の教育や管理技術を翻訳して、日本に根づかせようという努力は行われていた。しかし、それが根づく前に日本の景気はよくなって、人事管理や合理的な教育訓練を考えることなく突っ走ってしまった。唯一研究が進んだのは、アルバイトの管理技術だけであり、社員をいかに教育するか、そして教育に見合った内容で評価し、モチベーションを与えていくか、という部分が置き去りにされたまま、現在に至っている。このひずみがサービスの危機的状況を招いたと私は思っている。

サービスというのは、人材教育でしか向上しない。本部のシステムをいくらいじっても、サービスの向上にはなかなかつながらない。一番効果を発揮するのは店舗段階での教育なのである。このことを、外食に限らず、あらゆるサービス産業は考えていかなければならない時期にきていると思う。

日本は極端な国なので、今私が懸念しているのはいきなり目標管理制度に移行する企業が出てしまうのではないかということだ。目標管理制度が可能なのは、業務の標準化ができてからである。標準化するからこそ、目標に対する到達度が絶対値で評価できる。それがないままに、目標をどのように立てさせ、どのようにして評価しようというのか。レストラン企業でも取り入れようという動きを見せているところもあるというが、標準化が確立しないまま導入されれば、サービスはいっそう荒廃するはずだ。

米国は多民族の国家だけに、価値観の異なる人々を雇用しなければならない。そのために業務の標準化はもちろん、教育や人事管理にものすごいエネルギーを投入し続けてきた。会社としての目標も明確で、従業員もその目標に向けて、一致団結するように努力してきたのだ。日本の場合はとくに明確な目標がなくとも、終身雇用制に守られた運命共同体だけに、会社を良くしようとか、頑張ろう、というようなあいまいな目標でも突っ走ることができた。しかし、現状を考える限りは、我が国においても、米国型の科学的な人事管理、そして教育の確立が急務になってきているといえよう。

もちろん、ここでいう教育とは、これまでの教育の焼き直しであってはならない。会社の目標を明確にして、目標に向けての業務の改革、標準化を行い、それに即した教育体系を構築することが大切なのである。しかもこれからは社内だけしか通用しないような人材を育てる教育であってはならないと思う。他の企業、あるいは他の産業でも使える人材に育てておかなければ、極端な話、解雇もできなくなる。労働力が流動する時代には、どこにでも通用する人材を育てることが企業としての業務になるだろう。

きちんとしたトレーニングができる企業は、リクルートの上でも有利になる。これまでは給料がいいとか、待遇がいいとかいう部分が評価されてきたが、これからは自分に役に立つということが評価の優先順位となるはずだ。

<レベルの高いNRAの教育訓練プログラム>

では米国ではいったいどのような教育がなされているのだろうか。

米国ではレストランの教育制度に対する研究が盛んで、人間関係を精神分析的な観点から捉えた研究なども幅広く行われている。マクドナルドやバーガーキングなどのファーストフードや、コーヒーショップのチェーンにも、そのような研究が採り入れられている。さらに、大手チェーンだけでなく中小のレストランチェーンでも利用できるように、NRA(全米レストラン協会)も独自に教育訓練のプログラムを熱心に作成している。しかもその内容は、いちばん進んでいるといわれるマクドナルドのそれに引けを取らないレベルである。マニュアルも非常にビジュアルで具体的なものになっており、わかりやすい。NRAという業界団体が作成しているだけに普遍性も高いので、米国の教育訓練制度を知る上での格好のテキストということもできる。以下にその内容の一部を紹介していこう。

このプログラムは5つのセッションから構成されており、それぞれビデオとテキストを使って効果的に教育が進められるようになっている。

まず「面接と採用」というセッションでは、人材採用計画とリクルートがいかに大切であるかというところから始まる。ここで重要なのはいかに効率よく、いい人材を集めるかということだ。その際の職務基準書の作り方なども微に入り細にわたり説明されている。さらに履歴書も自分の店にあったものの方が必要な事項を書類で確認できるため、効率がいい。そのフォームの作り方も、ここでは説明されている。

面接についても、してはいけない質問などの法律的な問題や、具体的な手法について言及している。例えば、面接時間の80%は応募者に話をさせるように質問を容易にすること、仕事の内容をわかりやすく説明すること、店舗の顧客になる可能性を忘れずに、採用不採用を問わず応募者に感謝して面接を終了すること。当たり前だが、ついおろそかにしてしまうことを、ていねいに説明してくれるのだ。

さらに、採用する前に最低2つの過去の職場に問い合わせて、履歴を確認しなければならないと指摘する。日本ではこれまで履歴を詐称するということがほとんど考えられなかったが、労働力が流動する時代にはこうした確認作業が必ず必要になってくるはずだ。

次に「従業員へのモチベーションの与え方」についてである。ここではオリエンテーションの重要性について言及している。注意点として挙げられているのは、やはり基本的なことばかりである。まず、いかに新人の緊張感を解くか。受け入れる側は新人の名前を知っておき、全員が新人を歓迎しているというメッセージを発しなければならない。また、各新人にパートナーをつけ、教えていくことも効率よく教育を進める上では有効である。

オリエンテーションでは、とくに初日が大切だということは肝に銘じておく必要があるだろう。初日はいわばスポンジだと言っていい。何でも吸収していく状態だけに、ここでていねいに教えることで仕事の吸収が早くなることが期待されるからだ。

一般的に、従業員は各人それぞれ異なるモチベーションを持って働いている。従って、モチベーションを与えるためには各従業員がどのようなモチベーションで働いているのかを知り、それを達成できるようにもっていくことが上司の務めとなる。マネージャーやスーパーバイザー、「収入」「安心」「プライド」「達成感」といった従業員のモチベーションを把握し、それが実現できるように協力していくことが秘訣だと、このプログラムでは教えてくれる。

「効果的な集合トレーニング」というセッションでは、必要な機材などについても細かくリストをあげて説明している。機材を用いた集合トレーニングは、かつては大きな大企業でなければできなかったが、現在ではVTRや大型テレビなどのコストが低くなってきているため、部屋さえあれば立派な研修室ができる。

日本のレストラン企業は、集合教育をどのように行うかという指針がないように私には感じられる。現在、コスト削減の名目で研修にそれほど力を入れていない企業が多くなってきているだけに、ここで研修に注力することで差別化を図ることも可能なのだということを理解してもらいたい。

また、トレーニング施設が充実していると、新人にとっても大きな励みになるということも忘れてもらいたくない。この会社ならきちんと教育してくれて、自分の力が伸びるなと感じさせることも大切なのである。ファーストフードチェーンがもっているハンバーガー大学やドーナツ大学という存在をばかにしてはならない。逆に、ハンバーガーやドーナツを売るために、ここまで徹底して教育しているという事実があるから、会社に対する信頼感が生まれるのである。

<再び、米国に何を学ぶか>

「従業員の正しい評価方法」というのも、日本でまだ明確化されていないもののひとつだ。評価というと、一方通行になりがちだが、評価はあくまでコミュニケーションなのである。従って、評価は定期的に行うべきであり、必ず時間と場所を伝えて心の準備をさせておくことは重要だとテキストは指摘する。

その際大事なのは、計画を行う前に従業員に自己評価をさせておかなければならない。自己評価をもらうことで、評価者は従業員がどんな問題を抱え、どんなトレーニングを望んで、どうやって自分の仕事を向上させたいのかを把握することができるからだ。

評価は、あくまで仕事に対するものであり、個人的な性格を評価するものではない。従って、評価する上で絶対に必要なのが明確な職務基準である。従業員にとっては職務基準が仕事の目安であり、評価者もそれに即した評価をしなければ、従業員と十分なコミュニケーションを図ることはできない。

評価の最大の目的は、従業員のやる気を引き出し、仕事の質を向上させることにある。そのためには、評価の時に従業員に約束したトレーニング、バックアップ、インセンディブ、ボーナス、その他の協力は必ず実現させなければならないのはいうまでもない。

非常に米国的なセッションが最後の「問題ある従業員への対処の方法」であろう。終身雇用制が崩壊したら、解雇という状況が必ず表れてくる。ないにこしたことはないのだけれど、そのための訓練は今からやっておかなければならない。

従業員に問題のある場合の原因は、一般的には仕事の指示が明確でない、知識や技術がない、個人的な問題がある、働く価値観が異なる、といった内容が挙げられる。

このうち、仕事の指示が明確でないというのは明らかに会社側に問題があると言っていい。また、知識や技術が足りないというのも、教育が不十分だったりトレーニングの方法が間違っている場合もある。これらは事前に解決しておかなければならない。

しかし、接客が嫌いだとか、朝起きるのが嫌だというような個人的な問題や価値観が異なる場合は、一緒に働いていこうという方が無理である。ただし、ここで気をつけなければならないのは、解雇する前に教育や訓練、カウンセリングなど、なすべき改善の手段をすべて尽くしたかどうか確認しておくことだ。すべて手を尽くしてなお、仕事に対する姿勢が改善されず、会社のルールに従うような気持ちにならない場合に、はじめて解雇もやむナシと考えるべきなのだ。

解雇するに当たっては、従業員個人の性格によるものではなく、従業員の職務上の能力と自社の求める能力が合わなかったのだ、いうことを理解させ、従業員個人の自信や尊厳を傷つけることがないようにすることが大切である。

NRAの教材を見ていると、米国では20数年間教育訓練のロジックにブレがないことがよくわかる。今まで述べてきたように、内容的にはごくごく当たり前のことばかりだ。しかし、日本の企業でここまでやっているのは、私の知る限りではごく少数の企業だけだ。米国のようにベーシックを帰ることもなく、常にブラッシュアップして持ち続けているというところは、われわれも見習う必要がある。大チェーンといわれるとことは、決してそれを忘れていないのだ。ウォールマートにしても、基本のプログラムは絶対になくしていない。

われわれが米国の大チェーンから学ぶとき、例えば、ウォールマートならば、商品政策や店舗での陳列技術などしか見ていないことが多い。しかし、本当に学ぶべきなのは、ウォールマートがどのような教育訓練をやっているのか、人をどのように育てているのか、という点ではないだろうか。

マクドナルドの人材教育はすばらしいとよく言われているが、よく見れば米国では当たり前のことなのだ。いわば米国の企業はすべてに教育訓練の重要性が浸透しているということを、NRAの教材は教えてくれる。


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