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特集●夏に向けて衛生管理対策の徹底を急げ


月刊食堂2001年6月号

現場で役立つ衛生管理マニュアルづくりの要諦

あらゆる産業が急速な成長を遂げた20世紀が終わり、21世紀に入りました。当然この世紀の節目にあっては、産業はさまざまな面で、これまでにない進化を遂げているものと考えるのが普通でしょう。ところが、今回のテーマである衛生管理対策に限っては、それはどうも当てはまらないようです。逆に進化ではなく「退化」しているのではないかと思えることすらあります。その理由は、ここにきて大きな食中毒事故が頻発していることです。さらに大きな特徴は、これまで衛生管理については磐石と思われてきた大企業によって、それが引き起こされているということです。ここで改めて実名を出す必要もないと思いますが、これは食品メーカーしかり、外食企業しかりです。

もっとも、これは食中毒の原因である細菌が「進化」していることにも要因があります。つまり細菌がこれまでとは格段に進化しているのとは対照的に、衛生管理対策は進化していない、細菌の進化からすれば対策はむしろ退化しているように見えるということです。

食中毒は世界的に見て、1980年代から増加の傾向にあります。アメリカでは82年にマクドナルドが食中毒を起こし、外食業界でもその危険性がクローズアップされました。そしてその10年後に起きた、いまだ記憶に新しい大手ハンバーガーFFSジャックインザボックスの大規模な事故によって食中毒パニックはピークに達します。つまりこの10年間は、アメリカの衛生管理対策は常に後手にまわっていたのです。

日本では言うまでもなく、1996年の大阪・堺市のO157事件が大きな社会問題を引き起こしました。しかしその4年前、埼玉の白鷺幼稚園で起きた井戸水を原因とする食中毒事故で、それ以後日本でも事故が頻発する徴候は現れていたのです。そして、その主たる要因が細菌自体の変化、進化でした。

<見逃せない細菌の変化 まず情報収集力が大事>

つまり、食中毒が頻発する危険性は、外的環境として増しているのです。このことをまず、基本的な知識として持っておかなければなりません。そして、どのような細菌による事故が増えているのか情報を早めに入手することです。

別掲のグラフは厚生労働省が発表しているデータですが、ここから分かるように、日本における食中毒の事件数はここ数年増加しています。振り返ってみると、93〜95年が底で、ここから増加に転じています。96年は先述した堺のO157事件による増加が大きいわけですが、いずれにせよこうした数字の面からも、衛生管理対策が進化はしていないことがよくわかります。

そして、その事故を引き起こしている要因については、新型の細菌が増えていること、在来菌が変化したものが増えていることの2つがあげられます。別表に、やはり厚生労働省が発表している原因物質別の食中毒発生状況をまとめていますが、ここにもその傾向が表れています。特に顕著なものをみると、新型菌はO157である病原性大腸菌、貝類などによく存在する小型球形ウイルスなどがあります。在来種の変形は、腸炎ビブリオ、サルモネラなどに顕著です。

(グラフ 年次別食中毒発生状況 入る)

(ホームページ 図入る)

2000年の原因物質別食中毒事件数
原因物質名 事件数(発生率)
1.サルモネラ 512(23.3%)
2.カンピロバクター 454(20.7%)
3.腸炎ビブリオ 416(18.9%)
4.小型球形ウイルス 238(10.8%)
5.病原性大腸菌 194( 8.8%)
6.自然毒 110( 5.0%)
7.ブドウ球菌 86( 3.9%)

*発生数の多いもの。発生率は全事件に占める比率

腸炎ビブリオは、かつては7度C以下の温度を保てば増殖は防げると言われていましたが、現在の国際常識では4度C以下が絶対条件とされています。これは細菌の進化により生きていくうえでの体制が高まったためです。また厚生労働省の資料によれば、サルモネラ菌による食中毒は95年には年間500件だったものが、2000年の速報値では2300件と実に4倍以上にも増えています。これも細菌自体の進化に大きな要因があるわけです。

食中毒が起こる時期についても、かつては英語で「R」のつく月、つまり9月〜12月ごろは安全といわれてきましたが、現在は逆にその時期に危険が高まる傾向が見られます。これは、大して気を使わなくても事故は起こりにくいということから対策がいい加減になる、いわば「気が弛む」せいでもありますが、もうひとつ細菌の耐性が高まっているせいでもあることは確かです。

さらに見逃してはならないのは、人間の行動と同じで、細菌にもグローバル化、ボーダレス化が起こっているということです。海外で突然変異などで生まれた新種の細菌なども、おそらく3年以内に日本に入ってくる時代です。だからこそ、正確な情報をいかに早く入手することが大事になってくるのです。

では、そうした情報をいかにして入手するか。今の時代、これはやはりインターネットを徹底して活用すべきでしょう。先述したデータにしても、厚生労働省のホームページで見ることができますし、海外のものはさらに充実しています。消費者の安全性に対するニーズの高まりがここに明確に現われています。

たとえばアメリカ・ニューヨーク市の保健所のホームページでは、市内のレストランの衛生管理状況を実名で公開しています。何月何日に検査に入ったということから始まって「鼠や害虫が多い」とか「従業員の身だしなみに問題がある」といった検査結果を、すべて見ることができるのです。マクドナルドをはじめとするチェーン店はもちろん、和食の「NOBU」などの名声店、普通の生業店すべてが対象です。

これは保健所としての責任を果たすという意味合いもあるのですが、それだけ消費者が安全について関心があることも示しています。日本でもいずれ、こういう時代がくることを念頭において、衛生管理対策を進めなければなりません。

<複合的に原因を想定し対策を立てること>

その対策をたてるうえでの出発点となるのが、実際にどのような作業あるいは従業員の行動が食中毒を発生させることになるのか、その原因を洗い出すことです。そして、そうした作業や行動をしないようにすること。これがすなわち衛生管理対策ということです。

昨今、HACCPという言葉が一般的になりましたが、これが意味するところも同じです。HACCPの基本的な考え方は、外食ビジネスにおいては「調理というものは必ず食中毒を起こす危険が伴なうものであることを前提に、その危険を効率よく避ける」ということになりますが、要はそういう行動がとれるように従業員を習慣づけていくことが何より大事なのです。

最近、外食業で起きた食中毒事故も、こうした想定できる食中毒の発生原因をしっかりと把握して、そのための対策を講じておけば未然に防げたものといえます。たとえば大手ハンバーグレストランチェーンで起こった事故は、中心部がレアの状態でお客に提供されるハンバーグそのものに原因がありました。ハンバーグ内部が、腸管出血性大腸菌O157が死滅しない温度帯のまま提供されていたためです。またこの大腸菌は極めて毒性が強く、ごく少量でも食中毒を引き起こします。発生原因の把握がなされておらず、また情報収集も怠っていたための事故といえるでしょう。

また、同じ腸管出血性大腸菌による事故で、大手ファミリーレストランのサイコロステーキを原因とするものがありました。これは、肉を柔らかく提供するためにテンダライザーで筋切りをしたため肉の内部が細菌で汚染され、かつ肉中温度が充分な殺菌温度に達しない状態で提供されたことにより起こったものでした。これは新型の細菌と、新しい食肉加工技術によって起こった事故といってもいいでしょう。

つまり現在の状況は、対策をたてるうえで想定しなければならない発生原因はより多く、また幅広くなっているということがいえます。

さらに注意しなければならないのは「食中毒とは確率の問題である」ということです。つまりチェーンレストランのように店数が多くなればなるほど、食中毒が発生する危険性は高まるのです。また同様に、ある商品の提供する食数が増えれば、その商品を原因とする食中毒の危険性も高まります。

世界でもっとも多くの店舗数を持つマクドナルドが、これまである意味でおいしさを犠牲にしてまで安全性を追求してきたのは、そのためです。先述の食中毒発生以降、マクドナルドでは徹底して安全対策に取り組んでいます。有名なクラムシェルグリル(2枚の鉄板でハンバーグパティを上下挟み焼きにするグリルのこと)の導入も、その狙いは調理のスピードアップのためといわれていますが、実は商品の安全性をより高めるための対策なのです。

つまり、わが店に限ってそんなことは起こらないなどと考えずに、食中毒などの事故は必ず起こりうるものだと考えて対策を立てること。これが衛生管理対策をたてるうえでの大前提なのです。

<理解しやすいことがマニュアルの絶対条件>

その上で、事故を未然に防ぐために従業員の行動を習慣づける。そのために不可欠なのが衛生管理についてのマニュアルです。マニュアルは全般的に最近の外食業で極めて遅れている部分ですが、衛生管理に関してそれは顕著です。というのも、ますます激化する競争に対応するためメニュー変更や業態転換が多くなっているうえに、マニュアルの整備がそれに追いついていない。リストラによって人員も削減され、再整備しようにもそれを手がける人がいないという問題もあるようです。そのことが前述した大手外食企業での食中毒発生にもつながっています。

また、これまでのマニュアルがあまりにも観念的、概念的にすぎるという問題もあります。率直にいって難解であり、分かりにくい。従業員が使う気分にならないようなものではマニュアルの意味がないのですが、多くはそうなってしまっています。

マニュアルにおいてもっとも大事なのは「実際にどのような作業、行動をすればいいのか」が簡潔に示されていることです。もちろん「なぜ衛生管理を徹底しなければならないのか」を理解させることは必要不可欠です。しかし具体的な作業内容が示されていないために、それが単なるお題目になってしまっているところが多いのです。

アメリカ外食産業の業界団体である全米レストラン協会(NRA)は、その潤沢な財力と政治力をフルに使って、業界横断的な極めて完成度の高い衛生管理マニュアルをつくっています。そこまでの力を持った業界団体がない日本では、とても望むべくもないレベルのものですが、このマニュアルを構成するツールのひとつであるビデオが、実に具体的で役立つものになっています。

その全容をここで紹介することはとてもできませんが、参考になる重要なポイントがあります。それは

  1. 加盟企業の協力のもとに、実際の現場を舞台にしていること
  2. 事故の危害を招く要因を、すべて実際の営業状態を再現することで指摘していること
  3. 見た人が自分の理解度を確認できる「セルフチェック」のコーナーを設けていること

の3つです。

こうしたビデオができれば非常にいいのですが、それには莫大なコストがかかるし、改訂するのも容易ではありません。そこで筆者が提案したいのは、デジタルカメラとパソコンを使って、CD-ROMのマニュアルをつくることです。これなら、ハード一式でも30万円もあれば充分に揃います。先述したインターネット上で公開されている食中毒に関するデータなども簡単に取り組むことができますから、従業員の知識向上にも役立ちます。

<まず「入り口の3つ」でマニュアルをつくる>

このCD-POMのマニュアルには、衛生管理対策を徹底するために作業の状態、具体的な行動はどうあるべきかのモデルを、デジタルカメラで撮影した写真とともに収めます。そして、なぜその状態、作業でなくてはならないのかを分かりやすく明記していくのです。もちろん前出のNRAのビデオと同様に、写真は実際の現場で、実際の機材や備品を使ったモデルでなくてはなりません。従業員は実際の現場が使われていると現実味を感じ、真剣に活用するようになるものです。

マニュアルというのは従業員が現場で何をすべきかを定めた、いわば「台本」ですから、どのような作業から規定していくかという順序が重要になります。衛生管理対策では、想定される事態のうち最も危険性が高いのは「細菌を食品に付着させる」ことですから、その入り口の部分から入る必要があります。つまり「細菌をつけない」ための行動の規範づくりです。

そうなると、まず最初に決めるのは「手洗い」ということになります。しかしこれは単に「手洗いを励行する」とだけ表現しても、何の意味もありません。重要なのは「どういうときに手洗いをするか」を決め、その状態を示すことです。

手洗いをしなければならないときで主のものをあげてみると、髪の毛に触れたとき、鼻をかんだあと、煙草を吸ったあと、食事をしたあと、汚れたものを触ったあと、レジでお金に触れたあと、食べ残しに触れたあと、トイレのあと、などがあります。これらそれぞれについて、実際の従業員にその行動をとってもらい、それを写真に収めていくわけです。また手洗いの方法、たとえば「肘まで泡立てて洗う」といった状態も、写真できちんと見せることで理解度が高まります。

他の作業や状態についても、これと同様です。優先順位で次にくるのは「従業員の身だしなみ」ですが、爪を切る、髪は短くして帽子をきちんとかぶる、清潔な靴を履く、といったあるべき状態を写真で紹介していく。その次には「食品を汚染する危険のある行動」を示すべきでしょう。ここでは、床に直接モノを置かない、味見のときには小皿にとる、検品作業では缶詰でも錆が出ていないかなどを確認する、調理場で食事をしないといったことになります。

ここにあげた「手洗い」「身だしなみ」「危険な行動の禁止」の3つを徹底するだけで、食中毒発生原因の90%以上を防ぐことができます。完全なマニュアルをつくるには、他にも清掃のしかた、機器のメンテナンスなどの項目が必要になってきますが、まずはこの3つでマニュアルづくりに着手するとよいでしょう。

もちろん、大前提となるのは実際の現場のあるべき状態を決め、それを徹底することです。しかし、そのあるべき状態は常に崩れてしまう恐れがある。それを防ぐためにマニュアルが必要なのです。

<チェックリストによる繰り返しが大事>

先にも触れたように、メニュー内容が変わったりすればマニュアルも改訂する必要があります。このCD-ROMを使ったマニュアルなら、写真などの差し替えも容易ですから、その点でもメリットは多く使いやすいでしょう。

しかしそれでも、マニュアルが誰にも活用してもらえない、無用の長物と化してしまう危険性があることは、常に認識しておかなければなりません。そうならないために不可欠なのがチェックリストの作成です。つまり、マニュアルで定めたのと同じ項目について、その達成度を常に判定していくのです。

従業員一人ひとりが、マニュアルに基づいて衛生管理を徹底させる行動をとっているかどうかをきちんと評価の対象にするということです。できていればほめる、内容によっては昇給の材料にする。できていなければ再教育を施す。こうしたことによって従業員の間に自らの行動についての高い意識が生まれます。また、マニュアルというのは「つくったら終わり」というものではありません。先ほどのメニュー改訂以外にも、機材の変更があったり営業状況の変化など、マニュアルを改訂しなければならない局面は必ず出てきます。つまり、マニュアルが時代に合わなくなってくるわけですが、それがきちんと運用されていなければ当然、改訂が必要なことも分からないままになります。

マニュアルがあるのに事故が起こってしまうのは、そうした要因によることが多い。だからチェックリストに基づいて、マニュアルがきちんと運用されているかを常に確認することが大事なのです。

衛生管理対策というのは、終わりのないテーマです。マニュアルに基づいて繰り返し繰り返し、あるべき作業と行動を徹底させていくことでしか、成果は生まれません。そして言ってみれば「何も起こらない」ことが最大の成果といえます。しかし「何かが起こってからでは遅い」のです。そういう危機感を常に現場に浸透させておくことが衛生管理対策の最も重要なポイントであり、またマニュアルの目的なのです。


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