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クックチルまとめ


クックチルの経済的な側面と導入における注意点

  1. クックチルの必要性

    バブルがはじけてから一時的に人手不足は解消しているが、将来の若年労働人口減少により、長期的には人件費の削減と、老齢者を活用するための環境整備を考える必要がある。

    また、顧客の要求は高くなり、メニューの多角化、料理の味の安定性、食品添加物を使用しないでも食品衛生上安全な料理等という要望がでている。

    その反面、競争は厳しくなり、コスト面でも低くなければならない。従来はサプライヤーから半加工済みの食材を購入して使用していたが、食品添加物の管理やコストを考えると自社で生から調理する必要がある。しかしながら、製造コストが低くなければいけないし、衛生上安全な調理方法でなくてはいけない。

    これらの矛盾する要求を達成できる調理法がクックチルだ。特に大量に調理できるタンブルチラー方式のクックチルが今後脚光を浴びるようになるだろう。

  2. クックチルの導入が遅れている理由

    経営者の心理的な戸惑い

    一番大きな理由は投下資本がかかる割にはまだメリットがよくわからないということだろう。特にバブルがはじけてからクックチルが脚光を浴びるようになったが、現実にそれだけの投資に踏み切る事業主がまだ存在しないということだ。

    もう一つの大きな障害は経営者のマインドだ。クックチルは保存方法であり、お客様に出すのは失礼ではないか。飲食業は出来立ての新鮮なものをお出しするべきではないだろうかという、前近代的な考え方が大きく影響している。

    料理は出来立てが美味しいのではない

     クックチルを導入する上で必要なのは調理に対する科学的な理解だ。なぜそのような調理方法を行っているのか、それより良い合理的な調理方法はないのだろうかと言う追求心がなくてはならない。

    食品は調理直後が美味しいというのは正しくない定義だ。例えば牛を屠殺してすぐ食べても美味しくない。10日ほど熟成させないと美味しくないのだ。これは食肉中の酵素の働きで時間がたった方が美味しくなるからだ。

    鳥取県の氷温研究所社長の山根昭美氏は「氷温状態下では炭水化物やアミノ酸の加水分解が促進され、遊離状態の糖やアミノ酸が増えて熟成が進む。野菜や果物はより甘くなり、肉や野菜はうまみが増す。例えば雪の中に突っ込んで保存したキャベツや人参が甘くなったり、真冬に取り立てのヒラメを一夜干しにすると美味しくなる。」と言っている。(96年3月6日日経産業新聞記事より)

    煮物でも「はかせ鍋」という調理方法がある。これを考案したのは早稲田大学理工学部応用物理学科の小林寛教授である。氏は「ぐつぐつと摂氏100℃で煮込み続けるのは、材料の組織を壊し、ビタミンや酵素、特有の香りを飛ばすばかりか、肉などのたん白質を硬くするし、そのうまみを煮出してカスにしてしまう。鍋で、ひと煮立ちしたら下ろして保温する。「保温料理法」と名づけたこの調理法は、まず味の染み込みが極端によい。それは塩分、糖分、アミノ酸といった調味料は、鍋の中がゆっくりと冷めていく時に最もよく染み込む。旧来の、ぐつぐつ煮込み続ければ味がつく、という常識は、保温実験の積み重ねによって、ひっくり返された。しかも調味料は少なくて済む。次に、沸騰し続けないから香りが飛ばない。香りは、おいしさの60%を決めるといわれるから大事だ。沸騰が続いて、プーンと部屋中にいいにおいが広がるのは、部屋だけをおいしくして、材料の香りを無駄に捨てていることだ。あまり過熱せず、ゆっくり冷めるから、材料が硬く煮しまらない。そしてガス代が通常の3分の1で済むのも、大きなメリットだ」と述べている。

     同様な調理法は液化酸素などを製造している日本酸素が「真空断熱調理鍋」として発売している。豆を魔法瓶に入れておくと煮える、というおばあちゃんの知恵にヒントを得て開発したものだ。鍋は、直接火にかける内鍋と、魔法瓶の構造になっている外鍋とがセットになっている。100℃に加熱された鍋なら、一時間半たっても85℃以上、6時間後も70℃前後には保てるようになった。使い方は、内鍋の料理が煮立ったら鍋ごとそっくり外鍋に入れてやるだけ。おでんなら五分ぐらい煮立たせ、外鍋に三十分以上入れておくとできあがる。

    お茶の水女子大の島田淳子教授(調理科学)によると

    「野菜を煮る場合、温度が低すぎるといつまでたっても軟らかくならないが、逆に高すぎる温度で煮過ぎると煮崩れして、ぐたぐたになってしまう。細胞の接着役をしているペクチンという多糖類が壊れてしまうからだ。その結果、適温は100℃以下のものが多い。たとえば、ジャガイモは、90℃前後で二十分前後煮るのがおいしい。保温調理鍋はこれに適しており、栄養分の変化も少ない。」
    とのことだ。(朝日新聞 90.01.19 朝刊 、 93.12.01 夕刊より)

    この氷温保存、はかせ鍋、真空断熱調理鍋の原理は真空調理やクックチルの基本原理と全く同じだ。クックチルのように低温で調理して氷温で保管するシステムは単なる保存方法だけでなく、味を合理的に美味しくするシステムなわけだ。

    技術的な勉強が必要だ

     料理の鉄人のように鍋の中に指を突っ込んで味を見るような状態ではクックチルの導入は地雷をあちこちに埋めるような物で危険きわまりない。大量調理の場合、味もさることながら、安全性という観点から管理をしっかりすることが必要でHACCPの安全管理システムを導入をしなければならない。

     クックチルは基本的に大量調理であり、その規模になれていないといけない。既存の調理人はせいぜい大鍋での調理くらいであるが、クックチルの場合量が桁違いに多いので、それに適した味付けを出来るかという経験が必要だ。導入前には食品工場などの運営経験者に調理の管理方法を学ぶべきだろう。

     大量調理の場合、レシピーの標準化が必要不可欠だ。標準化というのは単に調理の組み合わせだけでなく、量による調味料の変化まできちっと定めて、調理温度、時間まで指定する物である。現在のホテル、レストラン、給食業者でもここまでの標準化がなされていないのが現状で早急な改善が望まれる。

  3. 投資コスト

    クックチルの投資コストは従来よりかかるので以下の項目を慎重に調査する。

    • 原材料保管場所(量が多いのでしっかり設定する)
    • 原材料用保冷庫(食材別に保管する、魚、肉、野菜、乳製品)
    • 原材料用冷凍庫
    • 調理機器
    • 冷却器(後で困るのが冷却能力不足であり、余裕を見ておくべきだ)
    • 完成品用保冷庫
    • 食品移動用保冷カート
    • 冷蔵配送車
    • サテライトキッチンの保冷庫
    • サテライトキッチンの再加熱機器(クックチルにより異なる)
    • サテライトキッチンの調理機器
    • サテライトキッチンの保温機器
    • スチームジェネレーター
    • 氷蓄熱層
    • 器具洗浄機
    • 給排気、給排水(大型のケトルを使用する場合ピットを掘らなければいけない)

    以上の設備を調理数と見合った能力で設置する訳だが、米国に於けるタンブルチラーシステムとブラストチラーシステムを組み合わせたクックチルの場合、普通の調理方式に比べ10-15%コストが上昇すると言われている。

  4. 削減できるコスト

     上記の余分にかかる設備投資を節減できるランニングコストでどのくらいの期間で回収できるかを考慮する。ここではクックチルとして最もメリットのあるタンブルチラー方式を中心に説明しよう。

    人件費の削減

     ベテランのコックがセントラルキッチンで集中して味付け、調理を行うので各サテライトでの調理人が不要になる。また、集中調理するため生産性が高くなり人件費が減少する。95年12月号で米国の実例を乗せているが、モデストの学校給食では人件費で15%、サンディエゴ刑務所では15ー40%の削減が出来たと言っている。サンディエゴの刑務所では34000食の食事を1日に製造しているが社員45名、囚人55名で作業に当たっている。一人当たり340食の生産をすることになるわけで、生産性の高さが目に付く。

    生産性が高くなるのは両設備とも自動調理するタンブルチラー方式クックチルを採用しているため、調理中に作業につきっきりになる必要がないからである。基本的に調理する食品の受け入れと準備、配送、清掃に人が必要なだけである。また、購入も一カ所で行うため、事務手続きや検品を頻繁にやる必要もなくなり、全体的に効率が向上するわけだ。

    大きなメリットは作業環境の向上による定着性の向上で、リクルートとトレーニングに必要なコストが削減できるということだろう。タンブルチラー方式の加熱は蒸気加熱でありスチームジェネレーターを厨房外に設置しスチームを断熱したパイプ配管で供給する。そのため厨房での裸火が少なく温度環境が大幅に改善され、汗をかくことなく作業できる。また、セントラルキッチンでの調理を計画的に出来るので、時間に追われることがなくマイペースで仕事ができ、精神的に安定する。サテライトキッチンでも同様で、急に客が増えてもストックしてある料理を加熱するだけであり、あわてて調理する必要がない。また、保存期間が長いので週休2日をしっかりとることが可能であり、残業代の節約が可能であり、従業員の疲れもとれるというメリットがある。

    筆者も経験があるが、従来クックツーオーダーできりきり舞をしていた厨房を、完成品を保温することにより、従業員の作業環境が大幅に改善され、品質の向上と従業員の定着性が大幅に向上したことがある。これがクックチルの目に見えないメリットであろう。

    食材コストの削減

    1回の調理当たりの量が多く調理後保存期間が長いので旬の安い材料を大量に購入しておくことが可能になる。また、セントラルキッチンでまとめて購入するため、食材納入業者としても一回の量が多く、運送費も安くなり低価格で納入することが可能になる。

    大量にケトルなどで調理することにより調味料の使用量は少なくなるし、基本的に低温調理なので調味料が揮発することが少なくその結果調味料の使用量が減少する。また、一回当たりの調理量が多いと、鍋釜に付着するロスも少なくなる。

    低温調理のもう一つのメリットは肉などの重量ロスがなくなるので歩留まりが向上し、原価が下がる。ケトルもそうだがクックタンクでケーシングに真空包装して低温調理することにより肉類の調理の歩留まりが大きく向上する。ローストビーフなどオーブンで焼くと歩留まりは70%位だが、クックタンクでの調理は90%以上だと言われている。

    サテライトでも食材コストが減少する。従来の調理はクック・ツー・オーダーでオーダーを受けてから作ったり、調理後保温しておくわけだが、日によって来客数が増加する場合がある。そうするとあわてて追加調理する際に、つい作りすぎてしまう傾向にあり、廃棄処分をしなければならないことが多い。クックチルの場合はクック・ツー・インベントリーだから、客が多くなれば在庫の調理済みのパッケージを暖めるだけでよいので、作りすぎがなくロスが減少する。

    セントラルキッチンで集中加工すると、今まではほんのロスであってもここでは大きなロスとなって見えるので原材料コストへの意識が向上するという精神的な節約ももある。 総合的に食材コストは20―30%減少することが可能だ。

    水道光熱費

    残念ながら実際のデーターはないが、集中加工するために水道光熱費の削減が可能になる。特にスチーム加熱という効率の良い加熱方法を使用するために効率も向上する。サテライトキッチンでは暖め直すだけで良くなるので総合的に熱効率が向上する。また、タンブルチラーは冷水で冷却するが、氷蓄熱層を使用し安価な深夜電力を使用することでも費用を減少することが可能になる。保存温度が冷凍でなく冷蔵なので温度を下げるに必要な電気エレルギーが少なくてすむ。冷凍は冷蔵の倍以上の冷却エネルギーが必要であるからだ。当然のことながら冷蔵の食品を暖める方が冷凍食品を暖めるより、必要加熱エネルギーは少なくてすむ。

    セントラルキッチンで集中調理することにより、使用する調理機器の数が少なくなるために洗浄用の水が減少し、それを加熱するエネルギーも減少する。

  5. 導入に当たっての手順 

     導入に当たっては調査をし、クックチルの規模、調理機器の種類などを決定する。調査項目は現状の各施設の数、地理的な条件、設備状況、使用調理機器、提供食数、提供メニュー数(年間を通して)、食材コスト、企業からの要望、調理レシピー、購入業者の能力と価格競争力、配送システムなどで、導入後に問題がないように綿密におこなう。

  6. 各システムの今後

    ブラストチラー

    調理方法が従来と同じであるというメリットがあるのでまず、クックチルを導入する場合はブラストチラーから研究を開始しても良いだろう。但し、保存法でなく衛生向上策なんだという観点から導入する。フライトキッチンでも採用されているように、調理済みの食品を急速に冷却することにより、細菌数のコントロールが出来るわけだ。基本的には同じ構内での配送を中心として設計する。食品がパッケージされていないので細菌汚染がないように慎重に取り扱う必要がある。また、製造、冷却の温度時間を記録するシステムを導入するべきだろう。特に構外への配送を考える際には綿密に考える必要がある。

    タンブルチラーのような能力やコスト,品質上のメリットが少ないが、筆者は現在依頼を受けて設計している総菜チェーンと居酒屋チェーン、大型和食旅館の厨房では衛生対策上ブラストチラーを採用をしている。総菜の調理加工としてスチームコンベクションオーブンと組み合わせて、煮物などを低温調理する際に適している。

    真空調理

    真空調理も味はよいのだが温度管理が保存に適した温度まで加熱しない場合があるので、保存方法として考えるのは危険だろう。しかし、1人前ずつパッケージ出来るし、肉、野菜などの繊維質が柔らかくなるので高品質の物を出したいという場合に有効な調理方法だ。品質を追求するホテル、旅館、高級総菜店舗に向いている。3月15日に開業する大阪帝国ホテルでは本格的な真空調理を採用している。

    ブラストチラーと真空調理方式は記録が正確でなく、調理人という人的な要素に安全性が左右されるのでそれを取り除く必要がある。もし、保存方法として採用するなら、タンブルチラー方式のクックタンクを採用し、正確な温度、調理時間を記録するシステムの導入を検討するべきだ。

    タンブルチラー方式

    残念ながらまだ、導入例が少ないし、導入している企業でもなかなかデーターを公開していないのが普及を妨げている理由だ。しかし、病院給食やファミリーレストランの採用が決まりかけており本年には幾つかの実例がでてくるので、今後普及が期待されるシステムだ。特に2500食を越えるシステムでは採用するべきだろう。このタンブルチラー本式が本格的に採用されないとクックチルの本来の利点が理解されないと思われる。

    現在、このシステムを検討しているファミリーレストランでは、ソース、スープへの採用を検討しており、料理の基本であるソースを自家生産しノウハウの漏洩を防ぎ、他店との差別化に使用するのに最適のシステムだろう。スパゲティなどのソースは現在レトルトか、冷凍で供給されているため、食感が悪く、フレーバーが抜けてしまうと言う欠点がある。クックチルの場合出来立てと殆ど変わらない味を長く保つことが可能だ。

    院外調理が認められる病院給食はもちろんのこと、産業給食、弁当の業界にファミリーレストランが参入しつつある。彼らは自社チェーンの巨大なセントラルキッチンによる低価格と多種多様なメニューを武器にこれらの業界に参入しつつある。巨大なファミリーレストランチェーンのセントラルキッチンに対応するにはこのタンブルチラー方式を導入する必要がでてくるだろう。

    なお、タンブルチラー方式の導入で注意しなければならないのは、単なる水冷式の冷却器があれば良いという物ではないと言うことだ。タンブルチラーの条件は多重の丈夫なプラスチックバック、クリップ、攪拌性の良いケトル、具を壊さないポンプ、タンブルチラーの冷却能力、温度時間のモニターと記録装置、合理的なレイアウト、総合的なバランスのとれた機器配置、HACCPの導入などである。少なくてもNSFの認定器具を使用しないと衛生上危険だろう。開発の際には十分な配慮が必要だと言うことを認識していただきたい。  参考文献 

参考文献
Cook Chill Catering Technology and Management
著者 Nicholas Light ,Anne Walker
出版社 Elsevier Aoolied Science


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