シリーズ第25回
米国式人事訓練その2
日本と米国の大きな差は心理学における精神分析の評価であろう。米国では伝統的にフロイト心理学の影響が強く、人間関係論を精神分析的に解析しようとする。余談ではあるが、米国における犯罪心理学の研究は日本とは比べものにならないくらい進んでおり、犯罪捜査における心理学の活用が進み、爆破事件の様な大きな犯罪が発生した場合にも速急に対処できるような仕組みになっている。日本では最近の宗教団体の起こした犯罪など、心理学的な面での対処が出来ず、犯罪捜査だけでなく、内部の被害者でもある信者への心理的治療方法の対処で苦労するものと思われる。
最近は不景気のためコストダウンの必要性が言われており、正社員の数を削減し、パートタイマー、アルバイトの活用が盛んになっている。しかし、パートタイマーやアルバイトを採用してもすぐにコストの削減が可能になるのではない。短時間に効率よく教育訓練する必要がある。短時間に教育訓練するには科学的なアプローチが必要であり、いち早くチェーン展開を成し遂げた米国小売業では科学的な教育訓練の手法を確立している。その手法を元にレストラン向きに開発されたのがこれからご紹介するNRAの教育訓練の手法である。
先回はアルバイトの面接採用を述べたが、今回は残りの4つのステップをご紹介しよう。
オリエンテーションの目的は仕事内容の説明もさることながら働く人たちを紹介し、新人が自分はチームの一員で、皆と仲良くやっていけそうだなと思わせることだ。その為にはオリエンテーションの担当者をきめ、その後の細かいフォローアップのために新人の相談役として先輩のアルバイトにパートナーになることを依頼する。店長などの社員が説明するより、同じくらいの年齢のアルバイトが細かく説明をしてくれた方がわかりやすいし、質問も気楽に出来るからだ。パートナーは店舗内部の説明と、社員、アルバイトの各業務、店内の売場、倉庫、等をわかりやすく説明する。
次に店舗規則書類の配布をする。初日に規則を全部覚えることは出来ないからわかりやすく文書にして渡し、後で時間をかけて読んでもらう。内容は店舗住所、電話番号、緊急の電話連絡先、休憩、食事、金銭誤差責任、不正行為の罰則、持ち物検査、店舗商品の購入方法、スケジュールの提出期限、遅刻の連絡、無断欠勤の禁止、などの基本的な行為だ。
オリエンテーションは最初のモチベーションであるが、モチベーションは継続して与えることが重要である。モチベーションを与えるには各従業員の異なったモチベーションを知ることが重要である。
そしてそれぞれにモチベーションを知ることによりそれぞれの方法でやる気を引き出すことが可能になる。
ビデオの内容その3ー集合トレーニング
オリエンテーションの後は効果的な継続したトレーニングが重要だ。トレーニングには現場においてマンツーマンで教えるオンザジョブトレーニングと、多人数を集めて教える集合トレーニングがある。集合トレーニングを効果的に行うと会社に対する信頼感が増し、更に本人が大事にされているのだという自覚が芽生える。旨く集合トレーニングを行うことは大変重要だ。
集合トレーニングの内容を良く練り、効果的に進めることが必要だ。まず、会社の年間計画、目標、最近の問題点、御客様のアンケート、売り上げ推移、利益の推移など幅広く検討し、最も適切な話題を中心に計画を練る。
先ほどで述べた、各従業員の異なるモチベーションとどのような職歴と、トレーニングを受けているか調べ、全員がわかりやすい内容のものにする。
きちんと台本を準備しないと、従業員を落胆させるので時間をかけて作成する。
トレーニングの手法を決める。単なる一方交通の授業方式だと飽きて居眠りをしたりする。色々な手法を用い従業員の注意を引きつける必要がある。トレーニングには一般的な講義方式、講義の合間に用いるディスカッション方式、ロールプレイ方式、ビデオの上映等がある。
講義方式だけだと参加意識がないが、ディスカッション方式により自分が発言することにより、参加意識が高まり、内容も良く理解できるようになる。また、客と従業員の立場に立って応対を実際にすることにより問題点を具体的に理解できるロールプレイ方式は店舗での客の応対に直ちに効果を発揮できる。ビデオを見ることにより具体的な手法をビジュアルで理解できる。
十分なスペースがあるか、教材は揃っているか、ビデオの頭出しは済んでいるか、黒板はあるか、筆記用具の準備をしてあるか、を確認しトレーニングをスムーズに進行できるようにする。
当然の事ながら十分練習をしておく、出来れば上司などに聞いてもらい意見を貰って参考にする。
トレーニング中のタバコ、コーヒー、トイレ等のルールを説明しておく。
まず、講師から自己紹介をし、その後全員の自己紹介をさせリラックスさせる。
何時質問をして良いのか説明しておく。
ディスカッションの際にあまり無いようがテーマをそれるようであればガイドする。
理解していない人には説明し、内容を補足するなど相手に会わせてトレーニングを進めていく。
トレーニングの終了の前にアンケートを行い、トレーニング内容の評価をして貰い、次回の参考にする。
トレーニングを受けただけではすぐに忘れてしまう。習ったことをすぐに現場の店舗で使うことが身につけるこつだ。習った内容を元に、店舗で何をするかの具体的な目標と行動計画を立てさせることにより、トレーニングを成果に結びつけることが可能になる。
ビデオの内容その4ー正しい評価
オリエンテーション時に評価をどんな方法でどの時期に行うかを伝えておく。評価表のフォームは何時も同じものを使用し、評価基準を明確にしておく。
評価を行う前に従業員の同じ評価表で自己評価をしてもらう。評価は一方的に伝えるものでないからだ。
本人の直属の上司などから仕事ぶりを聞いておく。
遅刻、無断欠勤、賞罰等の過去の記録に目を通しておく。ただし評価対象期間内のみとする。
職務基準書に基づき具体的に評価していく。また、自分の能力を向上するために目標を持って仕事をさせるわけだが、前回にたてた目標の進行状況も評価の対象とする。
次回の評価を向上させるために、評価の結果からどう具体的に改善していくか、目標を定めておく。
評価の席上で陥りやすい失敗を避けるために
仕事を具体的に見ていないと、評価を旨く伝えることが出来ないので、相手の個人的な性格を評価し、傷つけるから注意しなければならない。
個人的な好き嫌いを判断基準に入れてはいけない。
評価が甘すぎてはいけない。客観的で、公平に行うこと。
仕事の内容を評価するのであって、職位そのものを評価してはいけない。
具体的に仕事を見て評価する。
最近見た従業員の一カ所の良し悪しで全体を評価してはいけない。評価項目の全体で、期間内どうだったかを評価する。
効果的な評価のステップの行い方は
どんな方法で行うかを説明することにより、不安を感じることがなくなる。
まず、自己評価をさせる。大抵の従業員は自分の仕事ぶりを冷静に客観的に評価している。本人が改善が必要であると自覚している項目を再度しつこく評価する必要はない。本人の評価と、こちらの評価が大きく異なる箇所に時間を割いて説明をすればよい。評価の目的は、会社がどのような視点で従業員を見ているかを理解させ、次回から自主的に改善、勉強させることにある。決して従業員の欠点を追求するのではないことを理解しておく。
相手の評価を聞いた後、納得できる点はその旨伝え、同意できない点を具体的に、事例をあげて説明する。
本人と具体的にどうやって仕事の内容を向上させるかを考え、具体的な目標を立てる。
今まで話した内容を確認する。
期間中の仕事の頑張りに感謝し、次回もっと良い成果を出せるように持っていく。
評価を伝えたことを記録に残しておくため本人の確認サインをもらう。もし本人の評価が連続して満足できないときには退職をしてもらうことがある。その際に、過去に定期的な評価やトレーニングを行っていたことを証明する必要があるからだ。
相手に正確に伝わったか?やる気を出させることに成功したか?自分は話しすぎなかったか等を自己評価し、次回の評価に生かす。
評価の後放置していては毎回同じ事を指摘しなければならない。評価でわかった必要な教育訓練や本人の次回までの目標に沿って、オンザジョブトレーニングや集合トレーニングを実施する。
トレーニングだけでなく、時々お茶を飲んだり雑談をしながらフォローアップをすることにより、トレーニングを効果的にすることが可能になる。個人的な悩みがあれば解決してあげることも可能だ。
ビデオの内容その5ー問題のある従業員への対処・退職と解雇
何回も評価やトレーニングをしていても従業員の仕事に問題があるときには、まず以下の項目を確認することが必要。
家庭の事情で遅刻、無断欠勤があるのか。
仕事に必要な知識や、技術をしっかりと教えているか。定期的な教育訓練を与えたのか。
自分の満足できない職種ではないのかを見てみる。人によっては、清掃作業や、下働きなど自分のする仕事ではないと思う人がいるからである。
会社の上司や、人事部に相談し法律的に必要な手続きを取っておく。
解雇をする結論が出たら慎重に対処する。
問題発生した現場で解雇を伝えてはいけない。冷却期間を置き冷静に伝える。
解雇には法律的な問題が発生するので、解雇を申し渡す場所には、上司、人事部などの立ち会いを依頼する。
従業員には解雇の理由、解雇に至った過去の記録を明確に伝える。
相手と口論しないで冷静に事実を伝える。
一度決定した解雇は撤回しない。はっきりと伝えること。
最後の給料、解雇予告手当(予告期間がない場合)、失業保険、等の内容を説明する。貸与してあったユニフォーム、店舗の鍵、マニュアル、身分証明書、等の会社の資産、資料を回収する。
退職は本人の仕事上の能力の問題で個人的な問題ではないことを明確に相手に理解させる。
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