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月刊厨房
今、ユーザーが求めるファーストフードの厨房設計

シリーズ第16回

調理機器のPMC


調理機器のプリベンティブメインテナンス

プリベンティブメインテナンスシステム

ファーストフードは時間あたりの売上が高いので、能力の高い調理機器が必要であり、性能を落とさないために、その性能を維持するメインテナンスシステムが重要だ。メインテナンスシステムには、製造メーカーによる修理サポートと、ユーザー自身による故障予防メインテナンスシステムがある。まずメーカーによる優れた2つの修理体制システムを紹介しよう。

  1. メーカーによる修理サポート

    米国のコカコーラ本社は、最も優れた修理システムを持っている。家庭で飲むコーラは瓶や缶に入っているが、飲食店で提供するには、ストックスペース、配送効率、容器の処理などの問題がある。コカコーラは原液が1に対して炭酸水は4.75〜5.1の割合で希釈される。つまりコカコーラの殆どは水なのである。そこで、コカコーラの原液と炭酸ガスをタンクに詰め、店舗に配送し、店舗で炭酸ガスと水で炭酸水を製造し、コーラの原液を混合冷却し、コカコーラの完成品を製造している。このシステムをポストミックスという。希釈率に幅があるのは、国によりその希釈率が異なるためである。

    コカコーラ社は、コーラのシロップを購入してもらう条件で、多くの場合ポストミックスの機械をユーザーに貸し出している。このシステムは各店舗にコカコーラの製造工場を持っているのと同様であり、コカコーラ社は自社の製造工場と全く同一の品質管理をするためにポストミックスの設備のメインテナンスを自ら行っているのだ。以前は壊れると、地元のボトラーズや修理会社が担当していたが、修理代が高いとか、修理にくるのが遅いという問題が発生していた。そこで12年ほど前より、修理集中センターをもうけている。本社のあるアトランタに置いているが、数百人の従業員が従事している。

    米国には時差があることと、営業時間の長い飲食店のために、24時間運営の電話で客からの修理依頼を受け付ける。そして電話がかかると、まず客の電話番号を聞いて、コンピューターに入力する。電話番号が客のコードナンバーなのだ。レストランの従業員は色々いるので特殊な顧客ナンバーを与えてもわからない場合が多いので、電話番号にしている。

    番号を入力すると、画面にその店舗の機械の種類、タイプ、営業内容、過去の修理歴史、等がすべて映し出される。そこで問題点を聞きながら修理内容を分析する。もし、簡単にユーザーが直せるようなレベルの内容であれば、修理担当に電話を回し、マニュアルを出しながら丁寧に説明し応急処理をしてもらう。パーツが必要なら、そのパーツを探しだしすぐに発送する。修理が必要な場合、すぐ近くの修理会社に連絡し修理に行かせる。そして24時間以内にもう一度電話をして、修理の対応をチェックする。修理後、修理にかかったコストを確認し、妥当かどうかをチェックしフォローアップする。

    機械の修理だけでなく、製品の品質が正しいかも重要だ。コカコーラ社の最大のノウハウは各地区のボトラーズの組織化である。ボトラーズの最大の財産は綿密に組み上げたルートセールス組織である。ルートセールスマンは単に商品の販売と運搬だけではなく、商品の品質維持、簡単な修理まで責任を持って対応している。店舗を訪問すると原液と、希釈水の混合比率が正しいか、冷却温度が正しいか、衛生的か等をチェックし、調整をする。この簡単な調整と清掃によりポストミックスの機械の調子は保たれるのだ。また、コカコーラ社ではシロップラインの洗浄殺菌を定期的にして、コカコーラの品質を最高に保てるようにしている。

    コカコーラ社は、メインテナンスだけでなくポストミックスの機械の開発の援助、指導まで行い、店舗での品質を世界的に保証できるまでに至っている。

    米国最大のディッシュウオッシャー製造メーカーホバート社の最大のユーザーは誰であろうか?チェーンレストランではない、実はエコラボという洗剤メーカーなのである。エコラボでは洗剤の購入をしてもらう条件で、機械をリースしているのである。当然機械の保守は24時間体制である。ディッシュウオッシャーは店舗の衛生を担う重要な機器であり、もし壊れたり、正しく機能していないと、衛生上の問題を発生したり、売り上げ損失を発生する重要な機器なのだ。その重要な機器のメインテナンスを製造メーカにまかせず、自分たちでメインテナンスをしようとしたのだ。

    サービスの方法はコカコーラ社と同様のルートセールスシステムを採用している。ディッシュウオッシャーの能力は機械の清掃が重要である。湯の噴射するノズルが詰まっていないか、湯の温度は基準通りか、洗剤の供給は規定量なされているか等定期的なチェックが必要なのだ。

    また、洗剤を使用しているため場合によっては、誤って飲んでしまったり、目に入ってしまったりの、事故が発生するのである。そのため、契約の医師を24時間体制で雇い、問題が発生したら電話経由で直ちにその対処に当たり、必要なら病院の手当から実際の治療まで迅速にあたる。そのエリアは全米をカバーしているのだ。

    この両社は機械メーカーではないが、ユーザーが自社の商品を使用するのに必要な機器をメインテナンスするためにここまで投資しているのである、その成果は業界NO.1の会社になっていることでも明らかであろう。日本の調理機器メーカーもここまでなれというのではないが少なくともユーザーにとって分かりやすい、マニュアルや、説明書、故障予防メインテナンスチェックリストを作成するべきである。また、ユーザーが購入してから少し機械になれた頃に、店舗を訪問して機械の使用方法のフォローアップをするべきであろう。

  2. ユーザーによる故障予防メインテナンス

    1. 故障予防メインテナンス

      現在飲食業界では低価格路線がもてはやされている。この流れは1時的なものではなく、しっかりと定着するものと思われる。低価格路線を定着するためには、食材コスト、人件費等の低減と同時に店舗建築コスト、厨房設備工事などの削減が必要になる。当然厨房機器メーカもコストダウンを迫られるのである。調理機器の値段というのは、製造コストに、保証期間のサービス、設置工事等が含まれる。

      従来日本の人件費は安かったが、現在では円高のために世界一の人件費となっている。一回修理にきてもらうと最低1万円かかる時代になったのだ。販売した機械の修理が必要なければ、そのコストは大幅に下がるはずだ。また、壊れにくくなればメインテナンスに必要な人材の確保とトレーニングのコストが下がり、結果的に製品価格を下げることが可能だ。ハードウエアーから壊れないようにすることも必要だがそれには限界がある。ユーザーの正しい使用方法、清掃、定期点検が重要である。そして、定期点検で問題点を発見すれば、壊れる前に部品交換などで安価に機械の性能を維持することが可能だ。

      機器説明書、定期点検、部品交換整備

      どんなに良い機械を採用しても、その能力を保つようにしないと、宝の持ち腐れである。機械の性能を維持するには、定期的な点検と、整備が必要である。営業中の忙しい時に機械が壊れては、売上とお客様の両方を失うのである。

      日本の厨房機器の性能は米国製の機器と比べ優れているものも多くなっているが、まだ大きく劣っている部分がある。それは機器の説明書と、故障防止メンテナンスマニュアルである。

      文化系の学部を出た筆者は、米国の機器マニュアルを教科書にして調理機器を勉強した。マニュアルには、機械の図面、写真、部品一覧、作動原理、日常の使用方法、壊れた時のトラブルシューティングなど、わかりやすく書いてある。さらに、配線交換などでも、部品が色分けしてありパーツナンバーがあるので、それを発注すれば機械にあった長さで端子までつけて送ってくれる。後は説明書通りに交換すればよいのである。

      筆者の様な全くの素人でもマニュアルの熟読と実際の作業の経験で、厨房機器の作動原理、構造を学ぶことが出来たのだ。日本で機械を開発する際に最も問題になるのは機械のマニュアルの出来具合だ。調理機器の開発業務は優れているが、素人でもわかりやすいマニュアルとなると出来る会社が少ないようだ。

      ユーザーも素人であるので、わかりやすく説明することが重要である。ユーザーにやってもらえる故障予防メインテナンスのレベルは、車の始業点検のレベルで十分だろう。 機械を直すことまで要求するのではなく、清掃し、綺麗な状態を保ってもらうことだ。車であればドアーやヒンジなどのネジが緩んでいたらドライバーなどで締め付けてもらう。油が切れていたら、油を注してもらうことが必要だ。「簡単な清掃と点検で良いのです」と説明することが必要だ。現在の若い人は車が好きなので、車にたとえて説明するとわかりやすい。

      車の故障で一番多いのは、タイヤのパンク、バッテリー上がり、ファンベルト切れのオーバーヒート等である。ファンベルト等のゴムベルトは厨房機器でも多く使用されている。1年に一回交換すれば壊れてから慌てて交換する必要がなく、売上の損失も少ないのである。

      車では、清掃の必要な箇所が多くある。例えば、ラジエターの内部や、エアークリーナーである。エアークリーナーを清掃しないと、空気が十分に入らなくなり、不完全燃焼を起こし、燃費が悪くなり、エンジンの修理が必要な故障に発展し易い。厨房でも、冷凍冷蔵庫のコンデンサーの清掃や、空調機のエアバポレーターフィルターの清掃をしないと、十分に冷えず、また、コンプレッサーを焼き切る事にもなる。

      次に必要なのは車に付いてくるのと同様の、分かりやすい説明書と、簡単な工具、チェックリストと清掃点検スケジュールである。

      図1は厨房機器故障予防メインテナンスチェックリストの例である。毎日チェックする項目に沿って機械を点検する。週1回、月1回、年1回の項目は、毎日変えて、毎日の作業量を一定になるようにすると良い。日曜、祭日、月末などは、作業量を前もって減らし、年間計画を持って作業を進めて行ける。また、店舗の人が異動しても、どこをやれば良いか一目でわかるようにして、作業漏れを少なくできる。

      図2は点検作業をやり易くする為の、点検作業指示書である。これは文章のみでなく、イラストや写真を入れ分かりやすくしても良い。この指示書がある事により、トレーニングが容易で作業にミスがなくなる。

      その他機械の説明書が必要である。これは機械に同封するものである。この説明書は2種類必要である。1つは機械を修理する自社と代理店の作業員が使用する細かい説明書である。もう1つは機械を使用する店舗の従業員むけの説明書である。機械が壊れてもすぐに修理に駆けつけられるわけではないので、応急処置が必要であるし、場合によっては、電源が入っていないとか、ブレーカーが落ちているだけだとか言う場合がある。

      ユーザが最低限度の機械の保守の知識を持つことにより修理代が低下し、商品の品質も向上するのだ。機械の保守と言っても、清掃、増し締め、部品交換と簡単な作業だけであり、それだけで機械の修理代は大幅に下がるのである。さらに水道光熱費の減少もあり、十分投資に値する物である。

      調理機器メーカーはそれらの教育指導をする必要がでてきている。わかりやすいマニュアルを作成したり、故障防止メインテナンスを指導するためには現場のオペレーションを熟知しないとできない。

    2. PL法の問題

      今後、大きな問題になるのはPL法である。PL法の場合は機械の製造上の問題点もさることながら、使用説明書も明確でなければならない。特に調理機器はガスや電気を使用するので使い方を誤れば大事故を発生する危険がある。そのため使用方法や、日常の清掃作業、メインテナンスを具体的に明記し、して良いこととしてはならないこと、清掃をしないと事故になることなどを、明らかにする必要がある。従来は、使い方が悪いのだですんでいたが、今後は説明書に明確に操作方法と注意事項が書いてあるかが重要な問題となる。

      米国での大きな問題はPL法によるコストの上昇である。訴訟を起こされると損害賠償により企業が倒産する危険がある。そのために、保険に加入するわけだが、それで安心と言うわけではない。事故の発生の危険が高い業種の場合にはその保険が高額となり、商品の価格に転嫁しなくてはならなくなり、競争力をなくすことがあるのだ。

      米国の厨房機器メーカを訪問したときに、元大手フライドチキンメーカーの子会社で、圧力フライヤーを製造していた会社を訪問したことがある。大手フライドチキンメーカーでは自動化の圧力式フライヤーを開発し、そのメーカーに製造を依頼したのだ。数十台製造したが、事故があり、圧力のかかったフライヤーから油が噴き出しアルバイトが大怪我をしたことがあったのだ。そのため、訴訟のコストとそれをカバーする保険の高騰により採算が合わなくなり、とうとう製造を中止せざるを得なくなり、業績は大幅に低下してしまったのだ。

      飲食店も深刻だ。つい先日も米国マクドナルド社がお客様が買ったコーヒーを膝にこぼし、やけどをした件で訴訟を起こされ、1億円以上の補償金を支払うことになった。最終的には5000万円位まで下がったのであるが。その理由は、コーヒーが熱いのでやけどをする危険があることを告知していないためであった。今後PLの問題は大きくなるであろう。

      厨房機器メーカーにとってのPL法の問題点は、文書化と言うことだ。従来機械の故障による事故に対する裁判はほとんどなかったが、今後、権利意識の増加とともに数多く発生すると思われる。その場合どのように注意して調理機器を作り、どのような問題点を認識して説明書を作っているか、文書でしっかりと残す必要があるのだ。QCサークルなどが盛んでQCをしっかりしているから問題がないと思っているのは大変危険である。日本のQC活動は人間に頼っている面があり、文書化による管理が曖昧である。輸出機械の製造業ではISO9000の取得が盛んである。ISO9000は品質管理をどのように組織的に行っているか、文書の整備が大変重要である。厨房機器メーカーではまだISO9000に積極的でないようだが今後PL法の観点から見直す必要が出てくるのではないかと思われる。

      日本の厨房機器メーカーは従来は日本人の賢明さに助けられ、安全性より機械の性能の向上に力を注げていたのであるが、今後は安全性、機械の説明書の整備にも十分注意する必要が出てくるのであろう。


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