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オフィス2020 2001.9(VOL.196)

外食産業徹底討論

「デフレ価格対応の

"外食シーン"が見えてきた。!? 」


安い・うまい・・・・そして早いで揺れる

デフレ価格対応の大競争時代を超える「外食シーン」が見えてきた。!?

低価格化は外食産業の生んだ一つのゴールであるが、それをベースにしつつも「安さ」だけでは満たされない、「デザイン・コンシャス」な次代の外食ランナーは走り出しているのか。

出席者

コーディネーター

次ぎの一手は? マクドナルド上場劇に不足している未来のイメージ

松阪

21世紀に入ったという節目の現象としてのマクドナルドの株式公開。一号店のころからマックを見守っている我々としては、若干の感慨もあると思いますが。

神山

感慨はするけど、ものすごく感心するかというと、そんなことはない。社会的な衝撃を与えるという意味では、遅すぎた上場と言えないこともない。

初日4700円。一般の人の関心は高かったけれど、今の株式市場の苦境を見ると、僕としては逆に良くぞあれだけの高値が付いたという気もします。もっと前に上場していたら、それこそお化け株になっていたと思うけれど、案外、常識的に始まったな、という感じ。

松阪 

外食業界はちょっと待ちくだびれでしょうかね。それと、藤田社長もテレビに出て、相続対策だというようなこともしゃべっている。藤田家のお家の事情というような面が強調されて、デフレ下日本経済の牽引車の面があまり前面に出なかったのは、残念でした。

島田 

他のお三方とちょっと違って、一般マスコミに近い立場の人間として言わせて頂くなら、藤田さんの記者会見など見ていても、上場で集まった資金の使い道、これから先、起業がすすんでいくイメージがあまり語られなかったのが残念です。一号店の開業から30年。だれが見ても、企業の歴史としての踊場に来ているわけで、一方でハンバーガー65円などという極限的な手まで打ってしまった。さあ、次ぎはどうする。というあたりのイメージが語られれば、今度の株式上場のイメージがもっとポジティブになったと思う。

松阪 

さて、藤田社長はマックの戦略について、常々、「女の口を狙うんだ」と公言されてますが、高力さん、狙われた側から一言。

高力 

ハンバーガー65円は「女の口」だけでなく、サラリーマンやシニア層、これまでハンバーガーに興味を持っていなかった人にまで顧客層を広げたと思います。それだけ、衝撃的なことだった。その勢いという物が、株式上場につながって、企業体質としての公開制を持つというのは、やはり外食産業の地位向上にプラス作用していると思います。そこは評価できるのではないですか。

でも、「女の口」を狙うとおっしゃっていても、恵比寿のマックカフェあたりのコンセプトでは、大人の女性が納得するとは思えません。島田さんが言うとおり、次ぎの一手が不透明という感じが、私にもあります。

島田 

デフレ対策で行き着くところまで炒ってしまった起業だから、次ぎは別の業態のM&Aしかないのじゃないかな。

僕は外食のニーズは快適性(デザイン性)と利便性、価格の安さの三点にあるという意見ですが、マックは利便性と価格で大きく他のチェーンに水をあけた。でも、快適性というか、外食することの楽しさの部分は、かってあったかもしれないけれど、今は遅れている。じゃ、今、何をすれば良いのかというと、上場で得た原資を外食なり他の事業でも良いのですが、安さ特化以外の分野に出る資金として活用するのではないか、という見方ですね。

 

アメリカのマックはいま、他チェーンの買収に熱心ですし、それはグローバルマックの戦略にも合っている。ある意味ではアメリカ本国のマックは株価も決して芳しくないし、行き詰まっている局面もありますしね。

松坂 

そういえば、欧州のファスト・フードチェーンのプレタ・マンジェの買収もしましたね。あれはヨーロッパではほかほか弁当とドトールをかねているようなチェーンですが、ああいうものにも興味を持っているんだと以外な気もしました。どちらかというと地味目のチェーンですから。

日常食のハードボイルドなまでの「単品注文化」をめぐって

神山 

マックの上場が7月27日で、翌日の28日は西日本の吉野家で、牛丼280円が実施された日。外食産業のヒストリーという視点でものを語るなら、こちらの日付の方が意味が重いし、インパクトも大きい。

ちなみに、吉野家の安部社長に聞いたところでは、スタートしてすぐ前年対比の2.6倍の客数を確保。滑り出しは快調そのものだって。やっぱり、280円というのはものすごいパワーのある価格戦略だと思う。

というのも、ハンバーガーという商品は130円、65円といっても、本来食べない人は、その価格になっても食べる気を起こしにくいものですが、牛丼は値下げで一度冷え切っていた需要が再噴出する、きっかけになる。僕はこの吉野家の作戦で、ランチの標準価格が一気に300円になってしまったという見方。当然、そうした値ごろ感は夕食にも反映してくるので、こちらは800円が相場。ちょっと前まで、ランチで500円玉一枚、夕食で1000円札一枚の攻防戦といっていたのが、300円と800円の攻防ライン。これが外食企業に与える負荷は大変なものがあるので、いよいよサバイバル戦に突入したな、と。

松坂 

僕は280円という価格そのものには、正直、あまり衝撃を受けませんでしたね。それは内部努力は大変なものがあったと思うし、敬意も払うけれど、松坂屋の290円があり、ランプ亭やなか卯が追随するといった中では、280円というのは同じ牛丼ファストフードの中での相対的競争優位ではあっても、外食全体から見れば絶対的競争優位の作戦は取らなかったともう。吉野家の普段の実力を知る者としては、280円はちょっとぬるかったなというのが感想なんです。

 

でも、すごい価格だと思うな。僕は300円で出てくると持ってた。もっとも、300円では「安い!」というイメージが不足していたんだろうね。松坂さんはどう考えていたの?

松坂 

250円以下。でもって、すぐには無理かもしれないけれど、カウンター供食スタイルはやめて、テイクアウト・オンリー・ショップの開発を進める。そうすると、それこそ爆発的に売れて、劇的に生産性が高まるという考え方。極端だけれどね。

各種の雑誌を読むと、人事接客数を11人から14人に上げてうんぬんと書いてあったりするけれど、そんなにうまくいくのかなと思っちゃう。今のカウンター供食で平均接客数を増すというのは、具体的にどういうことが起きるのかイメージできない。それこそ、カウンターやめて、どんどん牛丼弁当を作って、どんどんセルフサービスで持っていってもらい、売りさばく。これなら人事接客数の倍増ができるし、結果として生産性も確保できるという考え方。

 

いまの吉野家のメニュー体系では、みんな単品注文になってしまう。バリューセット的な訴え方でサイドオーダーを増やし、客単価保全を図らないと、長期的に苦しいのではないかな。

神山 

おっしゃるとおり、客単価は500円から390円になっている。並みのシェアがこれまで39%だったものが、いま、試算では65%。

高力 

わたし、その話はとてもよく理解できます。いろいろな消費者の調査でもわかるんですが、いまの人たちってランチは300円で済まそうと決意すると、とにかく300円で完結させるんです。290円のドリアに何か付けて食べようなんて考えない。水でいい。それほど、今の消費者はシビアにものを考えてます。

神山 

そういえば、この間、とあるイタリアン系ファミレスに入ったら、200円でパンが食べ放題。そしたら、若い女性がひたすらパンだけでランチを済まそうとしている姿を目撃したの。例外的なお客さんだと思うけれど、デフレ極まれリ、という感じ。

島田 

そういう「食」についてのハードボイルドな場面があるという話を聞くにつけ、価格が下がってマーケットがどれだけ広がったか、という疑問にぶつからざるを得ないですね。

神山 

3、4年前まで外食産業全体の売上規模は29兆円あると言われていた。それが最近の数字では27兆円ですから、マーケット全体のシュリンクは否めない。外食の頻度落ちもあるけれど、単価落ち。これが大きい。

島田 

結局、マックにしても吉野家にしても、僕は外食産業のある一部の到達点だと言う認識を持つことが大事だと思う。確かに、ランチが単品化して300円が標準価格になったかもしれない。でも、それですべての外食産業がそうなったと言ってはいけないし、またファストフードやファミリーレストランだけが外食産業の代表選手ではないと考えるべきでしょう。

 

価格のことだけ考えるなら、お米の値段が下がりさえすれば、さらに安くすることも可能だし、他の輸入食品の関税率の引き下げもある。まだまだ、コディティとしての食は安くし得る。

島田 

だからこそ、安さだけでない価値を業界として、どう創出できるかが問われているんですよ。マックの上場も素晴らしい、吉野家の値下げもさすがだ。でも、外食業界がそういう話題だけで独占されるが面白くないんです。やっぱり、ここは外食が次ぎの時代にどういう場面を作っていくのか、というイメージが語られるべきではないでしょうか。

 

学生さんと話すと、自分で行くときはマック。保護者がいるときはモスバーガーと明確に使い分けてるし、吉野家400円時代は、松屋が日常食で吉野家がご馳走だと言ってました。それはデフレ状況なわけだけれど、「安いから仕方なく食べる」というだけの場面ばかりじゃ、あまりに寂しい話ではありますね。

安さの仕組みだけではなく楽しさの仕掛けを

松坂 

それじゃあ、話をディナー・ビジネスに移しましょう。こちらは「仕方なく食べる」だけではくくりきれないはずですよね。

神山 

それでも、何かのディスカウンターである、というところだけがはやっていると思う。何かの業種のアッパー・バージョンだけではなくて、既成のジャンルのもののディスカウント・バージョンが結局は受けているんですよね。以前、三万円、五万円レベルの超高級和食が、いま、一万円、のレベルじゃないとだれも来てくれないし。これまで一万円から一万五千円のゾーンにいたフレンチがいま、5000円くらい。高級居酒屋がいいとか、個室居酒屋がいいとか言ってますが、これもディスカウントなのです。要するにここでも低価格志向がメイン・ストリームであることに違いはありません。

島田 

僕が手がけたHANAKOの創刊が1980年。そのころからバブル絶頂期を経た20年のスパンの中では、やっぱり女性が消費の主力を担ったわけです。彼女たちは決して見栄だけではお金を使いません。イタリアンならフルコースでなくてもいいわ。とか、ワインだって何もボトルじゃなくてグラスで十分といったふうな消費形態ですから、もともと大きな単価をがばっと取るというような商売の仕方とは無縁なんですね。

それから、よく言われることだけど、接待費の激減というか消滅に近い形が、外食の価格帯を下げさせたのは事実ですね。もちろん、どっちの理由からであっても、外食が健全な形の「個人消費」で賄われるためには、それまで高すぎた価格の是正が前提だったと思います。

 

もともと、外食はインフレ時期に値上げをしすぎていて、いまになってその是正が始まっていると見るエコノミストもいます。ということは、結果として神山さんの指摘のように、ディスカウンターの隆盛になったということで、マーケット論で言えば健全な形に戻ったと言えないこともない。

高力 

そうなんですけれど、それでも一般消費者の目から見ると、まだまだまっとうで「お値打ち」な価格のディナーレストランは少ないと言う実感です。島田さんは女性が消費の牽引車だとおっしゃっていますが、わたしとしてはそれが怪しくなってきている感じなんです。とにかく、いまの若い女性は、以前ほどリッチでなく、絶対額よりバリュー感が重要です。

で、もし外食にお金を使うとしたら40代くらいになって落ち着いたころ、カップルなり家族で、きれいに時間を使いに行きたいんですが、そういうレストランがまだまだ揃っていない。何かマーケットもレストランもまだ育っていないような気がするんです。

 

日本では大人むきの居酒屋がアメリカで言うディナーレストランの役割を果たしていると思うんです。結構、手間のかかった料理をほどいいアルコールと一緒に楽しむという形で。

高力 

それはありますね。既成のファミリーレストランはそこに客を奪われていった面もあります。いまは食事をしてから飲みに行くという文化はあまりなくなって、飲みながら食べて一ヶ所で終わりというふうになりましたものね。

神山 

アダルト系居酒屋のメニューの手の込み方って、結構すぐれものと思わされるんですが、要するにバブルがはじけて以来、腕のいい料理人さんが仕事にあぶれて居酒屋に来ているという面が強い。いいメニュー持っているじゃないといったら、料理人さんが青山の一流和食店にいましたとか、フレンチの最高級店のセコンドあたりがグローバルダイニングに来たりする時代ですからね。なんとなく、彼らの腰が据わっていなくて、いま見すぎ世過ぎみたいな感覚でいるのはちょっぴり残念な気もするけど、バブルの崩壊がこういう形で厨房を変え、結果としてディナー・シーンを変貌させているわけです。

松坂 

結果として、正当な日本料理とかオーセンティック・フレンチというような「型」が壊れて、いろいろな料理がフュージョンになっている・・・・・。

高力 

それも「食」のカジュアル化の一現象でしょう。

 

「正統」なものが後景に下がっていくというのは、アメリカを見てもわかりますね。アメリカもレーガン政権時代に財政改革で経費の税金控除をかなり減らしました。結局、企業の接待需要で息をしてきたフレンチの高級店がほとんど全滅しましたからね。代わりに出てきたのが、ウオルフギャング・パックが創案したカリフォルニアキュイジーヌみたいなもの。

松坂 

サービス、接遇もフュージョン化して、昔の価値観でいえばお行儀の悪いサービスでも、いまは案外それが面白いと評価され、新しいサービスの標準というものも、併せて生まれてきているような気がします。

島田 

レストランの従業員が料理の「お運び」役ではなく、お客さんに楽しみを与える存在であると規定したレストランからはやり始めたのがアメリカ。アメリカではIT革命がすすんだといわれるけれど、見落としていけないのは、IT革命と平行してサービス業全域にわたって、エンターテイメント化が進んだことなんですね。小売業も外食産業も、「現場」がお客さんと従業員の楽しいふれあいの場になっていったことです。つまり、接客の厚みが増した。だから、お買い物や外食が楽しくなった。だから、個人消費が増えて経済全体が活性化してきたという構図があるんですね。でも、日本ではサービス産業の現場で叫ばれるのが「安さ」だけで、「楽しさ」が置き忘れられた。そこに問題があるような気がするんです。もっと「現場」での接遇の密度を高める方向に向かえば、雇用も出てくると思いますし、これほどの個人需要の冷え込みも防げたのではないか。

神山 

確かに、この間、外食産業がやってきたのはオーダー・エントリー・システム・とかコールベル、ドリンクバーと人手を削減して、お客さんとの接触面をいかに小さくするかの努力だった。反省すべき点はありますね。

松坂 

安さの仕組みづくりは上手でも、楽しさの仕掛けづくりはうまくない。それがチェーン企業ですかね。

高力 

誤解していけないのは、ともすると企業的な外食の人たちは、おしゃれ系のレストランをすぐ高級化と解釈して敬遠したがるんですけど、そうじゃありませんよね。いま、わたしたちが必要としているレストランはクラス・アップではなく、センス・アップである、と。

「第3の場所」をどう編纂して作り上げていくか

島田 

まさに、外食産業にもセンスが問われるということだと思うんですけど、そうなると今、外食産業に求められているのはコンパイラーの出現だと思う。

松坂 

コンパイルする人。つまり、編纂者ということですか。

島田 

いまの日本人のデザイナーを含めた「食」の場面を豊かにしようとするなら、食べ物だけのことだけ知っているんじゃいけないわけです。1970年代から80年代までは「食文化」で外食を語り尽くせたかもしれないが、それ以降の「食」はレジャー文化とかファッション文化と切り離せなくなっていると思うんです。つまり、消費の現場が衣食住遊が合体したものになりつつある現実がある。その中で、安さと便利さの文化だけのファミレスやファストフードはやはり、時代感覚が遅れ始めているんです。もちろん、1970年代の終わりくらいのファミレスやファストフードはアメリカ文化の輝きを伝えるという意味で、我々の五感を刺激してきた存在だったのは認めますが、それだけで30年。もはや我々の感覚を刺激するスリリングなものじゃなくなっているわけです。

松坂 

言ってみれば、マックもデニーズもすかいらーくといったチェーン系は、要するに単独著者の書いたベストセラーみたいなものであると・・・・・・。そういう点では、単独著者のモノカルチャー(単一文化)の提供者なわけですね。それに対して、編集者ですから、複数の才能を統合して一冊にまとめる編集者的存在がレストランに必要になると言う事でしょうか。

島田 

食べ物のベテランが、そのノウハウだけで入り込めるという時代じゃないということです。

いま、ファッションの世界で顕著なんですが、いまの一流といわれるデザイナーはフォルムのきれいな洋服は作れるだけじゃ駄目なんですね。そのスタイルが活きる家具は何か。それを着こなすモデルはどういういき方をしていなければいけないのか。そういったことまで考え抜いて、こだわりのインテリアデザイナー、いいモデル、照明や舞台美術のプロたちを集めて、トータルでファッションを提供できることが、一流の条件。それが「編纂」するということです。こじゃれた才能が三々五々集まって協力しました、みたいなコラボレーションとも違います。やっぱり、ある編纂意図に基づいて、あらゆるタレントを集めて、これ以上はないというレベルで配列し、我々にプレゼンしていく。そういう編纂者が「食」の分野に生まれると、食の場面がもっと豊かになると思います。

神山 

島田さんのコンパイラーの定義に合うかどうかわかりませんが、例えばフレンチから出た石鍋裕さんとか三国清三さんなんかは、作っているレストランをみると、編纂者に近いことをしていると思いますね。ホテルのメインダイニングを手がけたと思ったら、今度は中華でニューベルバーグっぽいものを仕掛けるし、とにかく手数が豊富。チェーン企業のようにワンパターンで押し切ろうとしていません。

 

東京カフェというもののブームのそこには、ワンパターンなものに対する退屈さの意思表明というのもありますね。

神山 

青山か表参道にいて、ふと時間が余ったとき、でニーズやロイヤルホストに行こうかという駆動力が減っているものなあ。頭では食べ物の質ならチェーンの方がいいと思っていても、なぜか足がカフェの方向に向いているということがある。

松坂 

ファミレスの巨匠、神山さんにしてそういうことだと、カフェブームの根は意外に深いのかな。

島田 

椅子一つとっても、カフェは結構考えてますよ。居心地の良い椅子という考え方で選ばれている。それも一つのデザインの椅子しか置いてないのではなくて、さまざまな形の椅子があったりして、お客さんがいま置かれている状況にふさわしい椅子を選べるようになっている。こういうところにも、いまのカフェブームを支えている要素があると思います。風俗現象としてのカフェは衰えるかもしれませんが、こういう「コージーさ」(居心地のよさ)を我々に提供したところにブームの意義があるんです。

高力 

そのコージーさって。スターバックスの人気につながっているような気もします。あそこのコーヒーの味がどうのこうのというより、そこに行けば自分のセンスが磨かれるような気にさせるという意味でコージーさがあるんですね。ですから、わたしは一部のカフェが癒し系で人気があるという説に共感できる部分もあります。

松坂 

シュルツは自分の店のことを、職場でも家庭でもない「自分を取り戻せる」第三の場所、サードプレイスと呼んでいます。サードプレイスだからこその居心地のよさって確かにありますよね。

 

あるときは家庭の居間の延長みたいでもあるし、仲間が集えば大学のいサークルで使う部室みたいな雰囲気もある。そのあたりは確かにチェーン系と違う価値を提供していますね。

島田 

外食の人には、いま、デザイン革命の時代に入っていることをわかってほしいんです。デザインといってもフォルムだけが問題なのではなく、その場にある種の人間的なエネルギーを満たせるものがデザインということなんです。そのエネルギーにはいくつものパターンがあって、そのひとつに東京カフェの癒し系、和み系があるし、スターバックスのようなサードプレイス的くつろぎ系もあるということです。もしかしたら、もっと攻撃的な野獣のようなコンセプトのものがデザインとして表現されてもいいわけです。

でも、とにかく消費の現場でデザイン・コンシャスが研ぎ澄まされることが大事ではないでしょうか。

話が長くなって申し訳ないんですが、うち(マガジンハウス)の雑誌で住む場所の特集をたびたびやるのですが、以前は一生海を眺めて暮らしたい、なんてコンセプトで記事を作っていたのですが、いまはそれは御法度。「一生」なんていう概念がないです。要は、この一年か二年間、海を眺めていたいのであって、一生の問題ではない。だから、特集だって買いきり物件本位では駄目で、ちょっと芝浦に住んでフィリップ・スタルクの家具に囲まれてみようかというふうに記事を構成するわけです。

そういう意味でも、レストランにも、いつでも入退場自由な「第三の家」みたいな感覚が必要なわけです。

神山 

いわれてみると、そういうある種情緒的でセンチメンタルなところを排除する形で、チェーンが成立させてきた面は否定できない。

島田 

厳しい言い方になるけど、センチメンタルなところを排除したのではなく、もともとなしでやってきた、と言ってはいけないかしら。

神山 

うーむ。厳しすぎるような気もするけど、これも企業の考え方次第で、情緒なんか面倒くさい、うちは分厚い日常食をドライに売って行くんだと開き直るところがあってもいいんでしょ。要するに大衆小説のベストセラー狙いの作家だっていなければいけないわけだし・・・・・・・・・・。

島田 

もちろん、それは否定しないけど、ベストセラーだけ論じても、その年の文化状況をすべて論じたことにはならないわけです。ですから、ファミレスとファストフードのプレゼンスが大きいのは認めるけれど、それだけで「食」の状況論が語れない時代に入ってきた、ということをわかってほしいのね。

 

いずれにしても、チェーンでなければ、という企業評価は過去のものでしょう、そう考えればいいのではないですか。

松坂 

今日はマックの上場、吉野家の値下げの話題から、ずいぶんと話の幅が広がってしまいました。なかなかまとめづらいんですが、吉野家の280円牛丼もマックの65円バーガーも、外食産業が到達しえた一つのゴールではあると思います。でも、それは外食産業が我々カスタマーに対して示すべき数多きゴールの中の一つにすぎないという議論が、後半、カフェブームやデザインレストランの話題をタネにして展開できたように思います。

昨今、外食の話題はデフレ対応ばかりで食傷気味ですが、少なくとも今日お集まりいただいた方々からは、「変化」の時代の先頭ランナーにいられるような感覚をもらえた気がします。ドラッカーはこういっています「変化は予見できるものではない、できることは、変化の先頭に立とうとする努力である」と。

この座談会が変化の先頭に立つことの一助になれば幸いです。


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